河村市長と張本氏の謝罪はどこが間違っていたのか? 危機管理の専門家が指摘

■許されない謝罪の6類型


 失言や問題行動が批判されて、当事者や関係者が謝罪するというのはもはや毎週どこかで見られる光景である。その際の謝罪がきちんとしていれば騒動はある程度収まるが、ここで失敗するとさらに批判が強まるということになる。

 直近の「失敗例」として挙げられるのは、「金メダル噛み」及びその際の発言が問題となった河村たかし名古屋市長と、女子ボクシングへの侮蔑的な発言が問題になった張本勲氏だろう。

 危機管理コンサルタントの田中優介氏(株式会社リスク・ヘッジ代表取締役社長)は、著書『地雷を踏むな』の中で、「許されない謝罪」を以下の6つに分類している。

 (1)遅い謝罪=騒動から時間が経ってからの謝罪

 (2)時間足らずの謝罪=会見が短くて質問も受け付けないような謝罪

 (3)あいまいにボカした謝罪=「遺憾に存じます」「誤解を与えてしまい」「お騒がせしまして」「知らなかったとはいえ」「邁進します」といった言葉を用いた謝罪。己の非をボカしたまま謝罪しようとする意図が見え見え。

 ちなみにこの5つの言葉の頭の文字を並べると「イゴオシマイ」となる。

 (4)言い訳や反論まじりの謝罪=何らかの正当性を主張したもの。反省していない、と受け取られてしまう。

 (5)ウソと隠蔽まじりの謝罪=積極的なウソはもちろんダメだが、隠し事をしている場合も許されない。

 (6)贖罪のともなわない謝罪=実質的な痛みを当人が負わない。政界などでよくある「仕事を全うすることが責任です」という論理。


■「投げやり」批判を浴びた河村市長


 河村市長、張本氏はどうだったか。

 まず河村市長。

 (1)については、問題化してすぐにコメントを出している。その点ではクリアしていると言えるだろう。

 (2)については、河村市長は何度も会見で取材に応じているのだが、この際、記者の挑発的な質問に感情的な対応をするなどして、さらにミソをつけている。

 象徴的なのは次のやり取りだろう。

 市長「誠に申し訳なかったということを繰り返して言うよりしょうがないでしょ」

 記者「しょうがないとは? 投げやりな態度?」

 市長「投げやりじゃないけど…」

(8月12日会見にて)

 謝罪の言葉を読む限り、ウソはついていないし、申し訳ないという旨も言っているのだが、本心からのものとはあまり受け止められていないようだ。それは(6)に関係しているのかもしれない。当初金メダルの交換費用を負担する意向を語っていたが、それ自体大した費用ではないので、世間から贖罪が伴っているとは思われにくいうえに、結局、それも負担しなくてよくなったため、余計にただ言葉を連ねているだけ、と受け止められる状況になってしまった。

 8月16日になって給料の返上も表明したが、批判が止まないからやった「後手後手感」は否めないところ。せっかくの贖罪も、人々の心には響かなかった。
 
 会見でご本人は「繰り返して言うよりしょうがない」と言っていたが、せめて「何度繰り返して言ってもお許しいただけないかもしれないが、何度でも申し訳ないと言いたい。何度でもバカと叱ってください」くらい言っていればまだよかったのかもしれない。

■張本氏の強引な主張


 張本氏の場合はどうだろう。

 多くの人を驚かせたのは、その謝罪コメントと伝え方だった。もともとの問題発言は8月8日放送の「サンデーモーニング」でのこのコメント。

「女性でも殴り合いが好きな人がいるんだね。見ててどうするのかな? 嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね。こんな競技好きな人がいるんだ」

 これが「女性差別」「ボクシングへの偏見」といった批判を浴びて、張本氏の謝罪コメントとして番組が発表したのが以下のコメントだった。

「私は元々ボクシングが大好きで、白井義男さんやファイティング原田さんが世界チャンピオンになった時に、飛び上がって喜びました。今回、入江選手が金メダルを取った時も、飛び上がって喜んでいました。今回の私の発言は言葉が足りませんでした。入江選手の快挙を称えると共に、自分も金メダルを取れるのではと思って、ボクシングをやる女性が増えてほしいということを本当は言いたかったのです。言葉足らずで反省しています」

 このコメントが発表されたのが12日。その3日後の放送ではなぜか張本氏ではなく別の出演者がメインの謝罪コメントを述べて、本人は短く反省の弁を述べるだけで終わってしまった。謝罪の代読といい、「本当は応援している」という強引な論理展開といい、なかなか見ないパターンの謝罪であったのは間違いない。

 こうなると、(2)〜(6)のどれに該当するかどうか以前の問題だろう。

 ダウンタウンの松本人志は、張本氏の「真意は違う」という主張に対して、

「今回の言い訳は、これが許されるなら何を言ってもいいですよね。何を言おうが、怒られたら『本当はあれは真逆の意味で言ってました。言葉足らずですみません』。全部いけちゃう万能の言葉やな、と」(「ワイドナショー」8月15日)

 と皮肉った。共感する人も多かったのではないか。


■石原プロとジャパネットたかたの誠意


 政敵に対して厳しいコメントを浴びせ続けていた市長や、さまざまな人の「謝罪」に対して厳しい見方を示してきた番組ですら、攻められる側に回るとこうなってしまう。

 これは、謝罪というものの難しさを示しているとも言えるかもしれない。

 ではうまくいった「謝罪」にはどのようなものがあるか。『地雷を踏むな』には、危機管理の関係者の間で語り継がれている「成功例」がいくつか紹介されている。その中から石原プロモーションとジャパネットたかたの謝罪の例を以下、同書から引用してみよう。

 ***

 2003年8月のこと。石原プロモーションが、ドラマ「西部警察2003」の撮影中に事故を起こしてしまいました。出演俳優がハンドル操作を誤り、撮影を見学していたファンの列に、車が突っ込んでしまったのです。渡哲也社長(当時)は、入院しているファンのところへ駆け付け、土下座して謝罪。会見に臨んだ小林正彦専務(当時)の口からは、こんな言葉が発せられたのです。

「私たちを支えてくれている大切なファンを傷つけてしまった以上、私たちにドラマを作る資格はありません。『西部警察』の撮影を中止します」

 この発言に、会見場は一瞬どよめいたそうです。制作中止という突然の重い処分に、記者の側が度肝を抜かれてしまったのでしょう。心に響く謝罪の言葉と、見事なまでの贖罪。怪我を負ったファンさえも、「撮影を続けて欲しい」と語ったとのことです。

 もう一つの事例は、その翌年の3月のこと。通信販売大手のジャパネットたかたの顧客情報が流出してしまいました。B4判のコピー4枚、約150人分の情報が、毎日新聞に送りつけられたのです。中身は、名前・性別・住所・電話番号・生年月日・年齢で、盗み出されたもののようでした。高田明社長(当時)は、すぐさま謝罪会見を開きました。毎日新聞に報道された当日の午前のことです。そして目に涙を浮かべながらこう語りました。

「会員あっての通販です。にもかかわらず、顧客情報の管理への意識が、甘かった責任を痛感しています。当面の間、テレビやラジオの広告をやめて、営業を自粛します」

 その年の7月。高田明社長(当時)は、日経新聞のインタビューでこんなことを語っています。「(営業自粛について)『そこまでやらなくとも』と言って下さる方もいました」。

 そして「瞬間的には会社を解散してもいいぐらいに思いました」。結局、同社は1カ月半の営業自粛をした結果、約130億円の減収になったことも明かしています。データを盗まれた被害者でありながら、極めて重い処分を自主的に課したということです。

 自ら重い処分を課せば、他者からの処分が軽くなるのが日本です。同社の業績(売り上げ)は、2004年こそ減少しましたが、その後は回復して今では2千億円に達する勢いです(注:2019年時点の記述)。

 ***

 失敗例、成功例、いずれも学ぶべきところが多そうである。

デイリー新潮編集部

2021年8月19日 掲載

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