事件現場清掃人は見た 遺体が放置された部屋はどんな細菌が?殖しているかわからない

 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、現場での感染症対策について聞いた。

 ***

 高江洲氏は、現場で清掃を始める前に必ず“お清め”を行うという。部屋に塩をひとつまみ振りかけ、小瓶に入れた日本酒を数滴床に垂らし、亡くなった方に「お疲れさまでした」とねぎらいの言葉をかけるそうだ。

「しかし、本当の意味でのお清めは、この後に行う消毒作業なんです」

 と語るのは、高江洲氏。

「ご遺体のあった部屋には、どんな細菌やウイルスが繁殖しているかわかりません。まずはこれらを死滅させてからでなければ作業を始められないのです。床はもちろんのこと、ご遺体を運び出す時に警官が色々なところに触れているので、壁も棚もすべて丁寧に消毒します」


■二酸化塩素


 その際に使用する消毒剤は当初、次亜塩素酸ナトリウムを使用していた。

「いわゆるハイターのような塩素系の薬品です。それに木酢液にハーブを配合して使っていましたが、次亜塩素酸ナトリウムはトリハロメタンなどの発がん性物質を発生させます。消毒剤には安全性が求められるので、試行錯誤しているうち、二酸化塩素を主な成分とした特殊な消毒剤を開発している化学会社に出会いました。その社長が私の理念に賛同してくれ、ある時特殊清掃の現場にも同行してくれたのです」

 それは、典型的な孤独死の現場だった。

「アパートの大家さんから依頼でした。80代の女性がトイレの中で病死したのです。死後2週間経って発見されたといいます。女性は20年間、このアパートに一人で住み続けていたそうです」

 部屋の間取りは、2Kだった。

「玄関を開けると、いつもの死臭が漂ってきました。トイレの床には茶褐色の体液が広がり、固まっていました」

 高江洲氏は、トイレに件の社長の会社が開発した二酸化塩素の消毒剤を散布した。

「二酸化塩素の濃度が3100ppmだと、細菌が生き残っているという実験結果があります。濃度を3600ppmにして試したところ、死臭がたちまち消えました。それ以来、この消毒剤を使用しています」

 事件現場で一番恐いのが、感染症である。

「大ヒット映画『おくりびと』のなかで、遺族が一人ずつ遺体に口づけする場面があります。私はあのシーンを観た時、思わず『危ねえなあ』と呟いてしまいました。葬儀社では、社員が原因不明の死を遂げるケースがあると聞きます。おそらく感染症が原因だと思われます」

■股間が痛痒い


 特殊清掃では、病死した人の死因を特定するのは困難という。

「私たちには、依頼主から『心不全』『腎不全』と説明があるだけですからね。肝炎や結核、HIV(エイズ)のような感染症だった場合、ご遺体の血液や体液に触れる私たちに感染しないという保証はどこにもありません」

 感染を防ぐために、防毒マスクとゴーグル、ゴム手袋は欠かせない。

「それに、全身を覆うカッパも必需品です。靴はビニールのカバーで覆います。何時間も作業をしていると、途中で喉が渇いたり、トイレに行きたくなったりしますが、その時は手袋とカッパ、靴のビニールカバーを脱いでゴミ袋に入れて用を足し、作業を始める時は新しいものを身につけます。手袋やカッパ、ビニールカバーは常に3、4セット用意しています」

 ところが、ここまで感染対策を行っても、体に異変が起こったことが何度もあるという。

「私自身結膜炎になったり、扁桃腺が腫れて高熱がでたりすることがありました。中でも辛いのが、股間が痛痒くなることです。トイレで用を足す際に念入りに手を洗っても、股間に細菌が付着してしまうのかもしれません。また、年に数回体調が悪くなるのですが、細菌のせいだと思っています」

 特殊清掃の現場は、常に危険と隣り合わせというわけである。

デイリー新潮取材班

2021年8月27日 掲載

関連記事(外部サイト)