死刑判決を受けた工藤会トップ 中野会・元会長を軍師に迎えていた説の真贋とヤクザの「忖度文化」について検証する

死刑判決を受けた工藤会トップ 中野会・元会長を軍師に迎えていた説の真贋とヤクザの「忖度文化」について検証する

五代目工藤會の野村悟総裁

■「工藤会先鋭化」の背景に


 去る8月24日、特定危険指定暴力団「工藤会」トップで総裁の野村悟被告(74)に死刑判決が、ナンバー2で会長の田上不美夫被告(65)に無期懲役の判決が下された。両被告は、北九州市や周辺の地域で漁協の元組合長が射殺された事件のほか、元警察官や看護師らが襲撃されてケガをした事件に関わったとして殺人などの罪に問われていた。極刑宣告は、工藤会が警察や市民に対して牙を剥き、先鋭化していった結果だったわけだが、その裏では、5代目山口組中野会の中野太郎元会長(享年84)が工藤会の参謀役を務めているのでは? という説が時につきまとったという。中野会若頭補佐を務めるなどした後、2005年にカタギとなり、現在は暴力団員の更生を支援するNPO法人「五仁會」代表の竹垣悟氏が語る。

「ケンカ太郎」の異名を取った中野元会長が脳梗塞の発症から回復できず、亡くなったのは今年1月のこと。中野元会長は暴力団史に残る「宅見若頭襲撃事件」の責任を問われ、5代目山口組から絶縁処分が下された人物だ。

 1997年8月、新神戸オリエンタルホテルの喫茶店で、5代目山口組の宅見勝若頭が4人の作業服姿の男に銃撃される事件が発生した。宅見若頭は搬送先の病院で1時間後に死亡。隣席に座っていた歯科医も流れ弾に当たり、その後に亡くなったことで、抗争への風当たりは一気に強まることになる。

 犯行は中野会関係者によるものと直後に判断された。竹垣氏によると、
「親分(中野元会長)は酒飲んだらワケがわからなくなるタイプで、ある酒の席で、中野会風紀委員の吉野和利と一緒にいるときに、“宅見を殺せ”と言ったのが真相ではないでしょうか。その吉野が総指揮者となって、宅見若頭は銃撃されたのです」


■『報復、団結、沈黙』という3つの掟


 絶縁処分を不服として、解散せずに一本独鈷(どっこ)の道を選んだ中野元会長だったが、最側近が相次いで射殺され、結局は解散届を大阪府警に提出するに至る。2003年に脳梗塞で倒れ、05年に引退し、しばらく大阪に住んだ後、福岡県の門司に移り、以降は九州を転々としていたという。

「ちょうど相前後し、警察は工藤会壊滅のため頂上作戦を展開していました。中野元会長の基本スタンスは“何でも殺してまえ。やられたらやり返せ”です。両者のスタンス、考え方は重なるところが多く、工藤会の軍師を中野元会長が担っているという噂がまことしやかに流れたこともあります。実際、そんな事実はありませんでしたが……。中野元会長が所属した健竜会やその上部団体の山健組では、元会長が作った『報復、団結、沈黙』という3つの掟が強く信奉されていました。酒を飲みながらね、ゲキを飛ばすんです。山健組の中でも超武闘派であり超過激派でしたね」

 ある時、中野会の若い衆が警察による取り調べ中に亡くなったことがあった。警官に柔道技などでシボられた結果だと言われている。

「時代も時代やったから、メディアを集めて決起集会みたいなこともやりましたね。それで、取調官のところへ犬の首を放り込んだんですね。馬の首を登場させたゴッドファーザーのマネをしたんですね、もちろんカエシ(報復)としてね。結果的に、取り調べに関わった3人の刑事はトバされました」

 話を工藤会に戻すと、判決が言いわたされた直後、福岡地裁の裁判長に野村被告が「なんだこの裁判は。全然公正やない。全部推認、推認。あんた生涯、このこと後悔するよ」と異例の発言をしたことで、世間の耳目を大いに集めた。


■2号さんの子供の小さい靴下が本宅で見つかり


 野村被告はその後、「脅しや報復の意図ではない。言葉が切り取られている」と説明していることが明らかにされた。「公正な裁判を要望していたのに、こんな判決を書くようじゃ、裁判長として職務上、『生涯、後悔するよ』という意味で言った」というのだ。が、これをそのまま鵜呑みにしていいか――。

「ヤクザの世界は通常、親分の意向を忖度して実行に移すという思考回路になっています。野村被告が弁明したとはいえ、あの言い方は『裁判長を殺れ』と言っていると捉える組員も少なくないでしょう。警察が警戒を強めることに加え、工藤会の勢力が最盛期の2割ほどに減ってしまっているということもあり、報復は実現しない可能性が高いとはいえ、それでもどこかで裁判長のクビを狙っている組員や準構成員がいるかもしれません。両被告はすぐさま接見禁止になりましたが、タマ(命)は取れないにしても、それに近いことを決行する者がいても不思議ではありません」

 親分の意向を忖度する例をあげればキリはないが、例えば1953年に起こった俳優・鶴田浩二が3代目山口組の組員に襲撃・暴行を受けた事件では、鶴田のマネージャーに3代目の田岡組長が不快感を示したことを組員らが汲み取った結果とされている。

 竹垣氏自身も、「忖度」が目の前を通り過ぎていくような経験をしたことがある。

「初代古川組の古川雅章組長には本妻の他に2号さんもいまして、ある時、2号さんが産んだ子供の小さい靴下を洗濯した後どういうわけか誤って本宅に持って行ってしまったことがあり、その責任を取って、小山元啓本部長が指を詰めたことがありました。そこまでせんでもええでしょと思われるかもしれませんが、小山は純粋な男で、身内を射殺した事件に絡み、親分のために無期懲役に行っています。姐さんもデキた人物やったから何も指まで詰めんでもという感じはありました。結果、夫婦喧嘩は回避されたわけですが」


■特殊詐欺ならカネで済むが


 現在、暴力団員らの更生や自立を支援する立場である竹垣氏は今回の判決をどう見たか。
「画期的な判決だと思います。ヤクザから足を洗おう、ヤクザ稼業は割に合わないと考える組員などが出てくる可能性が高まるからです。乱暴な言い方になりますが、ヤクザ同士の抗争で1人殺せば無期懲役、カタギを1人でも殺せば実行犯でも死刑が待っているということです。警察官や国を相手に闘って勝ち残れるヤクザはいない。特殊詐欺の裁判において、代表者責任が認定され、親分にまで累が及ぶケースが出てきましたが、それはカネで済む一方で、カタギの命を狙うとトップの命で償うことになる。つまらない若い衆を置いといたら痛い目にあうという側面もあるし、とにかく現実を見つめてほしいと思います」

 当然、工藤会のみならず他の暴力団は今回の判決への影響も大ということである。

デイリー新潮取材班

2021年9月1日 掲載

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