事件現場清掃人は見た 父親が自殺し、痛々しい表情で私を見つめた子どもたちの行く末

 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、現場で出会った気の毒な子どもたちについて聞いた。

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 高江洲氏は、人が亡くなった部屋を清掃し、遺品整理を行うことで報酬を得ることに、時々疑問に思うことがあったという。

「特殊清掃を行うことで、遺族や大家の問題を解決し、その正当な対価を受け取ることは、プロフェッショナルとしてなんら後ろめたいことはありません。ただ、私の仕事の真の依頼者は、亡くなった本人だと思っています。私はいわば、故人によって生かされているとも言えます。『自分の生活が人の不幸の上に成り立っている』というある種の矛盾に、長い間葛藤を感じてきました」

 高江洲氏は、2014年に放送されたテレビドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)を見て感銘を受けたという。


■『コガモの家』


「ドラマに登場するのは、赤ちゃんポストに預けられた子、親が逮捕された子、両親を亡くした子、依存症の親に放置され保護された子などで、彼らは『コガモの家』という児童養護施設で暮らしていました。まるで特殊清掃の現場で目にしてきた、亡くなった人の子どもたちのその後を見ているように思えました」

 特殊清掃の現場では、こんなケースがあったという。

「30代の男性がマンションの浴室で練炭自殺したので、清掃して欲しい……。葬儀会社からの依頼でした」

 死後4日経って発見されたので、浴室はそんなに汚れていなかったという。

「清掃自体は、それほど手間はかかりませんでした。いつものように淡々と仕事を進めていると、背後から視線を感じました。振り返ると、30代の女性が立っていました。彼女は
 浴室に向かって、『こんなところで死にやがって!』と怒鳴り出したのです」

 女性は、亡くなった男性の妻だった。

「男性は会社を経営していましたが、事業に失敗し多額の借金を抱えてしまったそうです。借金の返済ができず、マンションも手放すことになりましたが、事故物件になってしまったので相場の金額では売れません。女性は途方に暮れて『どうしていいかわからない』と。彼女の背後には、小学生の女の子がいて、じっと私を見つめていました」

 特殊清掃の現場では、自殺者の半数は会社経営者だという。

「若い経営者が多いですね。そのため、残された子どももまだ幼い場合が多いのです」

 事業に失敗し、自殺した20代男性のケースでは同じような体験をした。

「見積もりを出すために自殺現場となったマンションに行くと、若い奥さんと小さな男の子がいました。借金返済のため、その部屋を手放すことになりました。私と奥さんとその相談をしている時、男の子は不安な表情をしながら私を見つめていました」

■事故物件を施設


 高江洲氏は特殊清掃の現場で、こういう子どもたちを何度も見たという。

「子どもたちの表情は、悲しみや怒りをあらわにしているというより、痛々しく感じられました。子どもたちはその後、どうなってしまうのか。母親が働いている間は、施設に預けられるのだろうか。路頭に迷う子どももいるかもしれません。彼らのその後の人生が心配でなりません」

 高江洲氏は、先の『明日、ママがいない』を見た時、特殊清掃の仕事でずっと感じていた葛藤が消えたという。

「実を言うと、私は現在、孤児院、今でいう児童養護施設をつくろうと計画しています。すでに社団法人を設立し、施設の名は、ドラマにちなんで『コガモの家』にする予定です。事件現場清掃人が児童養護施設を経営すると聞くと、突拍子もない話のように思われるかもしれません。でも、父親が自殺したりして、母親から見放されそうな子どもがいるのであれば、何とか助けてあげたい。特殊清掃で得たお金を有効に活用することもできるわけですしね」

 引き取り手のない遺品や買い手のつかない事故物件を、施設の運営に役立てたいという。

「そこで子どもたちが暮らし、勉強して、成長していく。私は元々料理人でしたから、食事を提供することもできます。そしてやがては、この取り組みがモデルとなって、クラウドファンディングなどで出資者を募って、全国各地に施設が作られたらと考えています」

デイリー新潮取材班

2021年9月3日 掲載

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