「一人で待つのは嫌だから子どもを作りたい」 大阪の3歳児虐待死事件、母親が周囲を驚愕させた異常な発言

 救えたはずの幼き命が無残に奪われた。何ともやりきれない思いに駆られる事件の背景を探ると、浮かび上がってきたのは行政の怠慢ばかりでない。容疑者の狂気と複雑な家庭環境。そして被害男児の母の周囲を困惑させる言動など「異様で悲しい風景」が見えてくる。

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「今回の事件は防げたはずの悲劇でした。あの子が虐待されていたのは周囲にいる人間なら薄々気付いていたこと。事件が起こる約3カ月前の今年6月2日、私は摂津市役所に行き“このままでは殺される”と訴えた。けれど、行政が真剣に動いてくれることはありませんでした」(母親の知人)

 8月31日、大阪府摂津市のマンション一室で、浴室のシャワー口から熱湯を浴びせられ、重度のやけどによる熱傷性ショックで亡くなった新村桜利斗(おりと)くん(当時3歳)。

 大阪府警が9月22日、殺人容疑で逮捕したのは、母親の交際相手である松原拓海容疑者(24)だった。

「司法解剖の結果、遺体に熱湯を避けようとした痕跡がなかったことから、松原容疑者が抵抗できないよう桜利斗くんの体を固定するなどして、熱湯を10分近くかけ続けたと見られています」(地元紙記者)

 取り調べに対し、松原容疑者は「熱湯を故意に浴びせていない」と容疑を否認。しかし桜利斗くんに対する「虐待」疑惑は以前から浮上していた。

 桜利斗くんの家族と交流があった同じマンションの住人が話す。

「松原が桜利斗くんとお母さんの住むマンションに越してきたのは今年5月のこと。出会い系アプリで知り合い、昨年10月頃から交際を始めたとお母さんから聞きました。同居と同時に、桜利斗くんの腕や足にアザが目立つようになった」

 この住人は保育園から帰ってきた桜利斗くんと一緒にエレベーターに乗った際、“たっくん(松原容疑者)いや!”とエレベーター内の隅で固まり、下りるのを拒もうとした桜利斗くんの姿も目にしている。

 一方で冷酷なイメージばかり強調される松原容疑者について、「昔は保育士を目指していた」と話すのは、幼少期から同容疑者を知る実家の近隣住民だ。

「拓海くんには中学生の弟と小学生の妹2人がいるんやけど、面倒をよう見てた。アパート前の駐車場で弟とサッカーボールで遊んだり、お菓子を買うため妹らをスーパーに連れて行ったり。拓海くんは地元の公立小中を卒業後、通信制の高校に進学したんやけど、その頃、母親が“あの子はホンマ子供好きやねん。保育士を目指してたけど、いろいろあって無理やった”と話してた」

 保育士の夢を諦めた理由は不明だが、松原容疑者は中学校に入ると「不登校になった」(同級生)といい、その背景には複雑な家庭事情が影を落としていたとも。

「拓海は一家6人でアパートに暮らしていたが、拓海だけ母の連れ子で、下の子らは再婚相手との間にできた子供たち。弟たちが生まれてから、拓海の母も継父も下の子らばかりを可愛がるようになった。拓海の学校行事より、次男のサッカーの試合を優先するなど、両親と話をしても拓海の話題は一切出てこない。こっちから“拓海は最近、どうやねん?”と振っても“ええねん、あいつは”って感じで関心がなさそうやった」(同じアパートの住人)

 小中学時代の同級生によると、進学した通信制の高校を中退後、松原容疑者は型枠大工の職に就いたが昨年夏、仕事中に足を怪我して辞めることに。以降、夜中に何時間も外で電話を掛ける松原容疑者の姿がたびたび目撃されるようになったという。

「ケガで仕事を辞めたはずなのに労災でも下りたのか、カネ回りは良かった。この約1年の間、実家から摂津まで8千円前後の距離をタクシーを使って頻繁に通ってた。いま思うと、ちょうど被害男児の母親と付き合いだしたタイミングやった」(地元のタクシー運転手)

■面談・電話53回、家庭訪問38回


 桜利斗くんの母親は2018年10月、離婚を機に大阪府泉南市から摂津市内に転居。20歳だった。19年12月から大手生命保険会社で生保レディとして働き始める。

「研修期間中、1歳だった息子さんを連れて出社したことがあったのですが、ズボンの上からでも分かるほどオムツがパンパンに膨れ上がっていた。話を聞くと、頼れる実家がないとのことで、育児にまで手が回っていない印象だった」(生保会社関係者)

 しかし同社を今年5月に退社。理由を周囲に「彼(松原容疑者)の実家で一緒に暮らす」と話し、相手にゾッコンだった様子を隠そうともしなかったという。

 以降、松原容疑者の虐待が顕在化していくのは前述の通りだが、桜利斗くんが亡くなった当日、母親は外出中で不在。翌日に会った友人によると、「おりちゃんがお風呂場でやけどして……」と泣き崩れたそうだ。

「9月4日に桜利斗くんの葬儀があったのですが、松原はムスッとして押し黙ったままで、見かねた彼の実母が“あんた、最低やな”と詰め寄った。すると松原は“俺、もう無理や”と突然、桜利斗くんのお母さんにすがりついた。お骨を拾う時には、松原とお母さんが“恋人つなぎ”で手を握り合い、さらに皆を唖然とさせた」(参列者の一人)

 9月7日、桜利斗くん宅を見舞った複数の知人に対し、母親が“たっくんが捕まっても10年でも20年でも待ってる。でも一人で待つのは嫌だから子供をつくりたい”と言いだし、困惑させる一幕もあったという。

 その後、松原容疑者が帰宅し、知人らが改めて事の経緯を糺(ただ)すと“シャワーの温度を38度から60度にまで上げる遊びをやっていた”などと悪びれず釈明。

「今年4月、桜利斗くんの左頬に大きな平手の痕が残っていたので、母親に“どうしたの?”と尋ねると、“たっくんがやった”と。理由を聞くと、バリカンで桜利斗くんの髪を刈ってあげてた時、松原が“俺にもやらせて”と割って入った。すると桜利斗くんが嫌がったので“じっとしてろや”と頬を叩いたそうです。以前から顔をアザだらけにしたり、松原を怖がって私から離れようとしない姿を目にしていたので“これ以上は命に関わる”と6月、市に訴えた」(前出・知人)

 昨年1月と今年4月には桜利斗くんの通う保育園が“顔にコブがある”として、今年5月には母親も“交際相手が子供を叩く”と、摂津市の家庭児童相談課に通報していた。しかし行政が動くことはなかった。

 市側の責任者である摂津市教委・次世代育成部の橋本英樹部長に理由を尋ねると、力なくこう語った。

「桜利斗くんの家庭にはこれまで面談や電話での接触を53回、家庭訪問を38回行っていましたが、こうした事態に至ったことは本当に申し訳なく思っています。今後は体制等を見直し、再発防止に努めていきたい」

 それだけ接触を重ねていたなら、なぜ「緊急性」を感知できなかったのか。

 虐待問題に詳しい家族問題カウンセラーの山脇由貴子氏はこう指摘する。

「何度も通告があったということは、それだけ保護するチャンスがあったということ。短期間で虐待が再発・継続していたことが容易に窺える状況であった点を考えると、行政側の不作為の責任は大きい」

 犠牲になるのは幼い命だ。突き付けられた教訓は重い。

「週刊新潮」2021年10月7日号 掲載

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