来年はデルタ株かカッパ株か 感染症の流行が「予測」される仕組みを解説

 新型コロナウイルスのワクチン接種完了率が国民の過半数に達した。官邸の公表するデータによれば10月6日時点で接種完了率が62.7%となり、国民の三分の二近くとなった。

 季節性インフルエンザと同じように、ウイルスの動きが活性化する秋口に国民が一斉にワクチン接種する、いわゆる「ウィズコロナ時代」が始まりつつあるといっていい。これからは毎年秋に、新型コロナウイルス対策としてファイザーを接種する人もいれば、モデルナを接種する人もいるという状況になるだろう。「ワクチン敗戦」が繰り返されないためにも、国産ワクチンの巻き返しにも期待したい。

 新型コロナウイルスはデルタ株やイータ株、カッパ株と変異したが、これはインフルエンザなどでも同様だ。その感染症の流行や変異のトレンドを予想しているのが世界保健機関(WHO)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)である。両者が各種データから感染症の「トレンド」を予想し、それに従ったワクチンを各製薬会社が製造している。

 医療・医学の最前線を取材を重ねてきたノンフィクション・ライターのビル・ブライソン氏の著書『人体大全―なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか―』(桐谷知未訳、原著2019年刊)を紐解くと、ワクチンの「トレンド」が予想される仕組みが見えてくる。

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■今いちばん危険な病気


 ワシントン大学のマイケル・キンチにセントルイスで会ったとき、わたしは彼に、今いちばん危険な病気はなんだと思うか尋ねた。「インフルエンザです」と、キンチはすぐさま答えた。「インフルエンザは、みなさんが思うよりはるかに危険なんです。まず第一に、すでにたくさんの人がこの病気で死んでいる。アメリカでは年間3万から4万人にもなりますが、それがいわゆる“よい年”の数字ですよ。しかもウイルスは瞬く間に進化し、そのせいでいっそう危険になるんです」。


■毎年2月に発表される「ワクチンのトレンド」


 毎年2月、世界保健機関(WHO)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は集まって話し合い、たいていは東アジアの状況に基づいて、次のインフルエンザワクチンをどのウイルス型からつくるべきかを決める。問題は、インフルエンザウイルス株には変異型がきわめて多いので、予測がひどくむずかしいことだ。あらゆるインフルエンザに、H5N1とかH3N2などの名前がついていることにはお気づきだろう。どのインフルエンザウイルスも表面に2種類のタンパク質――ヘマグルチニン(hemagglutinin)とノイラミニダーゼ(neuraminidase)――を持っているからで、HとNはそれを表わす。H5N1とは、ウイルスが5番めに知られた種類のヘマグルチニンと、1番めに知られた種類のノイラミニダーゼの組み合わせでできているということで、どういうわけかとりわけ厄介な組み合わせとなっている。「H5N1は“鳥インフルエンザ”として一般に知られる亜型で、患者の50パーセントから90パーセントが死亡します」とキンチは言う。「幸い、ヒト間ではたやすく感染しません。今世紀に入ってからこれまでのところ、約400人が死亡しています――感染した人のおよそ60パーセントです。しかし、突然変異に注意しなくてはなりません」。

 WHOとCDCが、手に入るあらゆる情報に基づいて2月28日に決定を発表すると、世界のあらゆるインフルエンザワクチンメーカーは、同じウイルス株で製造に取りかかる。キンチは言う。「2月から10月まで、メーカーは次の大きなインフルエンザ流行期に備えられることを願って、新しいワクチンをつくります。しかし、本当に破滅的な新しいインフルエンザが現われたとき、正しくそのウイルスを標的にできる保証はありません」。

■アメリカではインフルエンザで8万人が死亡


 最近の例を見てみると、2017〜18年のインフルエンザ流行期に予防接種を受けた人が発病する確率は、受けなかった人に比べて36パーセントしか下がらなかった。その結果、アメリカではインフルエンザに関して“悪い年”になり、死亡者数は8万人にのぼったと推定される。本当に壊滅的な大流行が発生すれば――たとえば子どもや若者に大勢の死者が出た場合など――たとえワクチンが効果的でも、全員に接種できるほどすばやくワクチンをつくることはできないだろうとキンチは考える。

「実のところ」とキンチは言う。「わたしたちは100年前にスペイン風邪で何千万もの人が死亡したときより、恐ろしい集団発生にきちんと備えられているとは言えません。ああいう経験がまだ繰り返されていないのは、わたしたちが特別しっかり警戒しているからではありません。これまでが幸運だっただけなのです」。

デイリー新潮編集部

2021年10月8日 掲載

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