「サクラ印ハチミツ」が“発がん性疑惑農薬”混入を隠蔽 発覚の背景に「先妻の息子」と「後妻の息子」の遺恨裁判

 まさに「仁義なき戦い」だ。国内トップシェアの、「サクラ印ハチミツ」の製造元はお家騒動の最中だが、訴訟で暴露されたのは、発がん性疑惑がある農薬成分「グリホサート」の残留基準値を超えた商品が売られている実態だった。本誌(「週刊新潮」)の独自調査でも驚きの結果が――。

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 手元にある、一本の音声データ。そこに入っているのは、「サクラ印ハチミツ」を展開する国内トップシェアのハチミツ製品メーカー「加藤美蜂園本舗」本社で行われた会議で録音された音声である。その会議が行われたのは今年2月2日。主な発言者は同社の取締役営業本部長だ。

〈“(加藤美蜂園本舗は)社長、取締役営業本部長、グリホサート混入しながらまだやってる。検査結果を使い回しにしている”。社内の人しか知らないことですね、これね、ハッキリ言って。外部の人が知っていますか。検査なんか使い回しにしているけど誰か知ってます?〉

〈私は回収はハッキリ言ってしたくないというのが現状です。まあ●●君が言われたようにグリホサートとそういうのに関しては、言い訳になってしまうか分かんないけども、食品衛生法からいったらアウトです〉

 ここに出てくる「グリホサート」とは、世界中で広く使用されている除草剤の主成分だ。2015年には、WHO(世界保健機関)の外郭団体である国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対しておそらく発がん性がある」とし、危険度を示す5段階評価で2番目に高い「グループ2A」に分類。そうしたことから、米国やフランスやドイツなどで規制強化の動きが広がっている“要注意成分”である。

■基準値の数倍のグリホサートが


 では、会議の音声データにある〈グリホサート混入しながらまだやっている〉〈食品衛生法からいったらアウト〉との発言は何を意味しているのか。それを読み解くためには同社で続く、創業者一族間の経営支配権を巡る争い、いわゆる「お家騒動」に触れなければならない。争っているのは元経営者側と現経営者側。目下、このお家騒動は元経営者側が現経営者側を訴える法廷闘争にまで発展しており、そこで飛び出したのがグリホサートに関する「証拠」だったのである。

 掲載した〈「お家騒動」訴訟 原告側調査結果〉の表をご覧いただきたい。件(くだん)の訴訟の原告側が複数の「サクラ印ハチミツ」を検査したところ、アルゼンチン産とカナダ・アルバータ産のものから、基準値を超えるグリホサートが検出されたというのだ。

「食品衛生法で定められたグリホサートの残留基準値は0・01ppmです。これは06年に施行された“ポジティブリスト制度”によるもので、それまで基準が定められていなかった物質に対して一律に0・01ppmの基準が適用されることになりました」(食品業界関係者)

 表にある通り、原告側の検査では、アルゼンチン産で0・02ppmや0・03ppm、カナダ・アルバータ産で0・03ppmとなっている。確かに、基準値の2倍や3倍という分析結果が出ているのである。先の音声データにある〈グリホサート混入〉〈食品衛生法からいったらアウト〉はこの分析結果のことを指しているのだろう。また、音声データに〈社内の人しか知らないこと〉とある通り、この分析結果について同社は一切公表していない。さらに、〈回収はハッキリ言ってしたくない〉との発言もある。つまり、「グリホサート残留基準値超え」の商品が、今も堂々と売られているということなのだろうか?

■実際に売られている商品を調査すると衝撃の結果が


 そこで本誌は東京都内の大手スーパー数店舗で購入した「加藤美蜂園本舗」製のハチミツを独自に調査した。すると、アルゼンチン産などの商品5本のうち、3本が基準値超えとの結果に(掲載の表参照)。加藤美蜂園本舗が製造し、「Vマーク」という別ブランドで売られていた商品は、基準値の5倍との分析結果となった。

 検査を行った「農民連食品分析センター」の八田純人所長が言う。

「“痕跡”というのは定量下限以下での検出を示すものなので、検出の有無だけで言えば、全てのサンプルからグリホサートが出ています。そのうち3点が食品衛生法上の基準値を超過していた。基準値超えのハチミツを摂取してすぐに身体に害が出るわけではありませんが、基準値を超えているものを摂取したくない人も当然います。実態が消費者にきちんと伝わっていないのは問題だと思います」

 なぜ除草剤の成分であるグリホサートがハチミツから検出されるのか。

「昨年7月、ニュージーランドの国有テレビ局が同国産のマヌカハニーからグリホサートが検出された、と報じました。同国の第1次産業省が全国から集めたハチミツ300サンプルの残留農薬を検査したところ、全体の約22%からグリホサートが検出された。そのうち五つのサンプルでは、同国国内向けの残留基準(0・1mg/Kg=0・1ppm)を超えていたといいます。マヌカハニーは基準値未満でした」(ハチミツ業界関係者)

 ニュージーランド政府が作成した報告書では、

「検出されたマヌカハニーの多くが、他の草花の蜜を含むブレンド品だったことと併せて、グリホサートを使用している農場や牧場の近くに蜂の巣箱を置いたことが原因ではないか、と指摘されています」(同)

 ニュージーランドの報道の影響で日本の業者は、それまで眼中になかったグリホサートに注意を向けざるを得なくなったという。

「あの報道もきっかけとなり、日本の厚労省が動いたからです。具体的には昨年10月から、畜産加工食品に分類されるハチミツのグリホサートのモニタリング検査が実施されるようになったのです」(同)

 そんな中、昨年12月に「日本蜂蜜」という会社がアルゼンチン産のハチミツ商品の一部販売休止を通知。

「アルゼンチンではグリホサートを主成分とする除草剤『ラウンドアップ』が農場などで大量に使われていますが、グリホサートの残留基準はなく、日本の厳しい基準を満たすハチミツを確保することが難しい。そこで販売休止という判断をしたのでしょう。誠実な対応といえます」(同)

 日本蜂蜜の担当者は、

「休止のお知らせを出した時にすでに輸入していたものについては全て廃棄ということになりました。損害額は分かりません」

 一方、加藤美蜂園本舗は問題を“放置”した、というわけである。こうした企業体質はどのようにして形成されてきたのか。


■お家騒動の原点


 現在、加藤美蜂園本舗の社長を務めているのは加藤禮次郎氏(70)。氏の父親、加藤重一(しげいち)氏が同社を創業したのは1947年である。

「重一さんの父親は戦前に中国に渡って牧場経営で成功していたのですが、戦後、日本に引き揚げて始めたのがハチミツの事業でした。これがもとになって、重一さんが会社を創業したわけです」

 そう振り返るのは、同社の株主の一人。

「現在、日本で消費されるハチミツの90%以上は輸入に頼っています。輸入が始まったのは63年頃。それまでは重一さんと、重一さんの先妻の息子である信一郎さん(79)が国内で生産したハチミツで商売をしていました。しかしそれでは需要に追い付かず、どうしようかと考えている時に海外では多く生産されているという話を聞き、当時の通産省と交渉して輸入の自由化を取り付けたのです」

 海外から原料を輸入して国内で瓶詰めする。今でいう新たな「ビジネスモデル」の構築に成功した同社は今でも「輸入ハチミツのパイオニア」と呼ばれているという。

「60年代末には中国から輸入するスキームができて、80年代には日本の輸入ハチミツの9割は中国産が占めるようになりました。ただ、ここ10年くらいで中国産の安全性に関する議論が出てきたこともあり、現在は7割くらいです。中国に次いで多いのがアルゼンチン、その次がカナダです」(同)

 創業以来、代表取締役社長を務めてきた重一氏が代表取締役会長となったのは01年のこと。

「同時に信一郎さんが代表取締役社長になりました。また、先妻と死別した重一さんの後妻の息子である禮次郎さんが代表取締役副社長に。そして07年に重一さんが亡くなると、信一郎さんと禮次郎さんの二人が代表取締役を務める体制となりました。ただ、その頃から二人の仲は悪かったので、会社の経営を巡る話がまとまらなくなってしまいました」(同)


■キーマンの寝返り


 今も続く「信一郎派」と「禮次郎派」の争いはこの時から始まっているわけだが、最初に主導権を握ったのは信一郎派。キーマンとなったのは、信一郎氏の甥のA氏だった。

「信一郎派と禮次郎派の株数は拮抗していたのですが、A氏を含む信一郎派の親族全員でギリギリ過半数となることが分かったので、全員の合意が取り付けられ、08年1月に臨時株主総会が開かれました」(別の株主)

 この株主総会で禮次郎氏は代表権のない取締役に格下げされ、信一郎氏が経営権を握ることとなった。しかしその天下は長くは続かなかった。

「A氏は横浜工場の工場長を務めていたのですがいろいろと問題があり、10年の暮れに本人としては不本意ながら本社の企画開発本部長に就任。ただ、後から聞いた話では横浜工場にいた頃から他の役員に対して“誰のおかげで今の体制になっているか分かっているのか”と言ったりしていたようです。また、11年頃からは社内外で“俺が体制を変えられる”などと吹聴していたとも聞いています」(同)

 12年春には信一郎氏、禮次郎氏、A氏、信一郎氏の息子の4人で話し合いが持たれたという。

「A氏は自分が代表者になることなどに対する『同意書』を持ってきたそうです。当然信一郎さんは同意しなかったのですが、禮次郎さんは同意。結局A氏が代表権を持つことにはならなかったものの、こうしてA氏が寝返ったことで“政権交代”が起こり、禮次郎体制がスタートしました」(同)

 12年夏の臨時株主総会以降、信一郎氏自身や信一郎派の役員は次々と外され、現在も「禮次郎体制」が続いている。しかし、信一郎派とてそれを黙って受け入れているわけではない。

「A氏に対して不自然に高い役員報酬を支払うことで、現在の体制が成り立っている。これは議決権買収ではないかということで昨年、訴訟が提起されたと聞いています」(同)

 その訴訟の中で、禮次郎体制の“腐敗の象徴”として、グリホサートの「残留基準値超え商品」が堂々と売られている実態が暴露されたのである。無論、その事実が広く知られることになれば「サクラ印ハチミツ」ブランドに傷がつく可能性もある。その意味では、なりふり構わぬ戦いなのである。


■「異常な状況」


 グリホサートの「残留基準値超え商品」を“放置”していることなどについて加藤美蜂園本舗に質問状を送付したところ、加藤禮次郎氏の名で次のような回答が寄せられた。

〈現在、裁判所において係争中であるため、現時点においてコメントを差し控えさせて頂きます。/なお、貴質問状にてご指摘の除草剤グリホサートの「基準値0・01ppm」とは厚生労働省が定める一律基準を指すというのであれば、昨今、厚生労働省において、はちみつ中のグリホサートの基準値を0・05ppmとすることについてパブリックコメントを募集したとの情報に接しております〉

 基準値を見直す動きがあるから問題ない、とでも言いたいのだろうか。

 東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授が言う。

「グリホサートが基準値を超えて含まれていることを知りながら、その事実を消費者に伝えなかったということだけでもきわめて悪質です」

 本誌連載をまとめた『本当は危ない国産食品』(新潮新書)でグリホサートの問題を取り上げたノンフィクション作家の奥野修司氏もこう語る。

「グリホサートに関しては発がん性だけではなく、腸内細菌への影響を指摘する論文も最近増えてきています。そのようにさまざまな“毒性”が懸念されているグリホサートの残留基準値を超過したハチミツが全国のスーパーで買えるという状況は、異常としか言いようがありません」

「基準値超え」疑いのハチミツは、あなたの家にもあるかもしれない。気になる方は今すぐチェックを。

「週刊新潮」2021年10月14日号 掲載

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