元公安警察官は見た 飲酒運転で一晩に6件の物損事故を起こして逃走した“不良外交官”の末路

 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を17年務め、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、交通事故を起こしても日本の法律を無視する外交官について聞いた。

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 日本に駐在する大使館員や領事館員の公用車や私用車に発行されるナンバープレートは、関係者の間で「ブループレート」と呼ばれている。青地に白で「外」の文字が入ったナンバープレートと、白地に青で「領」の文字が入ったナンバープレートの2種類ある。近年、ブループレートの車の交通事故や交通法規違反が増えているという。

「深夜、東京・港区の交差点で、1台の乗用車が停止していた車に追突する事故を起こしました」

 と語るのは、勝丸氏。当時、公安外事1課の公館連絡担当班だった同氏は、主に大使館や総領事館との連絡・調整をしていた。

「運転していた男性は車を降りると、ぶつけた車のドライバーと少しだけ話をしたものの、相手が携帯電話で110番している間にそのまま走り去ってしまったのです。被害者は車で後を追い、逃げた車のナンバーを確認して警察に通報。『外』ナンバーの車であることが判明しました」


■プロトコール・オフィス


 所轄の警察官が現場に急行した。

「被害者の話によると、逃げた男はアジア系の外国人で、息が少し酒臭かったそうです。所有者は旧ソ連から独立した某国の大使館に勤務する一等書記官でした。一等書記官の自宅近くの駐車場で件の車が見つかり、警察官が車体を調べたところ、バンパーが潰れて前照灯も片方壊れ、複数回衝突した痕があったそうです」

 相手が外交官でなければ、警察官が家に出向いてアルコール検知を行い、その場で逮捕もありうるケースだった。

「ウィーン条約により、外交官の自宅も不可侵となっています。そこで捜査中の警察官から私のもとへ連絡がありました。私は実況見分や事故現場周囲の防犯カメラの収集を指示しました」

 事故の状況を概ね把握した後、勝丸氏は某国大使館の領事に電話を入れた。

「私は領事に『これは重大な法令違反ですよ。一等書記官が車を運転していたのなら、我々の捜査に応じてくれないと、大使館に対して正式に出頭要請することになります。その場合、最終的には外務省のプロトコール・オフィスにも報告が行くことになります』と伝えました。すると彼はあっさり『わかりました。本人と話してみます』と答えました」

 プロトコール・オフィスとは、外務省大臣官房にある儀典官室の英語名。儀典官室は社交場の儀礼を統括する部署だが、在日外国公館の接受も担当し、外国公館のお目付け役のような存在だという。そのため、日本に駐在する外交官は、ここに通報されることを嫌うという。

■一夜に5、6件の物損事故


「外交官を逮捕できない代わりに、プロトコール・オフィスはペルソナ・ノン・グラータ(PNG、好ましからざる人物)に認定することができます。『外交官として好ましくないので、この国から退去してください』と通告されると、48時間以内に退去しないと、外交官の身分証明書が無効になり、外交特権が消滅して逮捕されることになります。もっとも、日本政府がこれまでPNGを発動した例は4件しかありませんがね」

 その後、勝丸氏が警視庁に出勤すると、一等書記官の上司にあたる領事から連絡があったという。

「領事が一等書記官に問い正したところ、事故を起こしたことを認めたそうです。本人は反省していて、与えた損害は退職金を前借りしてでも全額弁償するとのことでした。ただし、大使にこの不始末が知れるとまずいので、大使には内緒にして欲しいと言うのです」

 結局、大使が出張で不在となる日に、交通課の警察官が大使館に出向いて事情聴取を行った。

「一等書記官は40代前半で、流暢な日本語を話し、いかにもエリート然としていました。
 管轄署の調べで、事故のあった夜、同じ管内で計3台の車に当て逃げしていたことが判明しました。警察官が『こんな運転しちゃうってことは、お酒でも飲んでたんですか?』とさりげなく質問しても、表情を変えず、否定も肯定もしなかったそうです」

 最終的には物損事故を計6件起こしていたことが判明し、任意保険で全額賠償したそうだ。

「アメリカや韓国の外交官は、飲酒運転には気をつけています。ところがロシアやカザフスタンなどの中央アジアの外交官は、飲酒しても2、3時間経てば醒めると思っているので、飲酒後、平気で車を運転することがよくある。本国ではそれが常識ですから、日本でも同じことをやっているんです。外交特権という錦の御旗があるので、やりたい放題です。そんな輩には、プロトコール・オフィスへの通報をちらつかせるしかありません」

 ブループレートの車は国内で約2000台ある。交通事故だけでなく、駐車違反も多発していて、2019年は2615件で、違反金の未納が75%にものぼった。外務省が大使館幹部に注意を促したところ、2020年の駐車違反は1137件にまで減少したという。

デイリー新潮取材班

2021年10月22日 掲載

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