首都直下型地震で警戒すべき「埋没谷」とは 注意すべき3エリアは?

首都直下型地震で『埋没谷』に警戒 都内3カ所の埋没谷の位置を指摘

記事まとめ

  • 東京で今月7日に観測された震度5強は、東日本大震災以来、10年ぶりとなる揺れだった
  • 東京低地の地下には『埋没谷』が存在し、震度5強を観測した足立区はこの上に位置する
  • 東京には、23区の東部に広がる東京低地の地下など、3カ所に埋没谷があるという

首都直下型地震で警戒すべき「埋没谷」とは 注意すべき3エリアは?

 今月7日、東京で震度5強が観測されたが、揺れが強かった地域は、本誌(「週刊新潮」)も紹介した「地質地盤図」の警告通りだった。鍵になるのは地下の「埋没谷」。首都圏は早晩、直下地震に見舞われるといわれるが、意識し、準備しておけば、被害は大きく減らせるという。

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 小松左京のSF小説『日本沈没』が久しぶりにドラマ化され、話題を呼んでいる。むろん、荒唐無稽だと思えばこそ、気楽に視聴できるのであって、現実には、われわれは「地震大国」に暮らしていても、小さな揺れにさえ、すぐに右往左往してしまう。

 とりわけ首都圏は、1923年の関東大震災から100年近く、巨大地震を経験していないため、心の備えに緩みが指摘できるかもしれない。東京23区内では2011年3月の東日本大震災以来、10年ぶりとなる震度5強の揺れは、そんななかで観測された。

 10月7日夜10時40分すぎ、千葉県北西部を震源とするマグニチュード5・9の地震に見舞われた首都圏では、東京都足立区、埼玉県川口市、同南埼玉郡宮代町で震度5強を記録。少なくとも五十数人が負傷し、交通機関は大いに乱れて帰宅困難者が続出した。

 ほかにも、走行中の日暮里・舎人ライナーが脱輪し、停止したエレベーターに閉じ込められる事故も少なくなかった。さらには各所で停電が発生し、水道管が破裂するなど、ライフラインも脅かされた。

 都心部が地震に見舞われると、いかに多方面に影響が及ぶか。脆さが露呈した格好となったが、懸念されている首都直下地震の規模は、このたびの地震の比ではないという。現在の科学技術では予知できないといわれるなか、われわれはどう備えればいいのか。

■震度5強を観測した足立区も「埋没谷」


 実は、本誌は備え方のヒントを、今年8月に誌面で紹介していた。国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(産総研)がウェブサイトで公開している「都市域の地質地盤図」がそれである。これは、立体画像を表示するソフトをインストールすれば、だれでも東京都区部の地下の3次元マップを見られる、というもの。当該箇所の地質状況を知るために、断面図を描画することもできるのだ。

 その際、キーワードになったのが「埋没谷」だ。産総研の情報地質研究グループ長、中澤努氏は、本誌が前回取材した際、「今回分かったのは、東京低地の地下に『埋没谷』が存在することです。ここに昔できた谷があることは知られていましたが、今回、その形状をこれまでに例がないほど詳細に描き出すことができたのです」と答えていた。

 そして、このたび震度5強を観測した足立区は、まさに「埋没谷」の上に位置している。8月の記事でもそのことに警鐘を鳴らしていたのである。

 地下の地形や地質状況と地震の揺れの関係については、追って詳述する。まずは、先日の地震の原因等を押さえておきたい。


■埋没谷は揺れやすかった


 京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏(地球科学)が説明する。

「東京の地下には、陸のプレートである北米プレートと、海のプレートであるフィリピン海プレートと太平洋プレートという、三つのプレートが沈み込んでいて、先日の地震は、フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界付近で起きています。マグニチュード(以下M)は5・9とやや大きかったのですが、地表から75キロという、かなり深い地点で起きたために、それほど大きな揺れにはなりませんでした」

 その揺れの特徴だが、

「地震には短周期地震動と、長周期地震動があり、ガタガタと揺れるのは前者、ゆらゆら揺れるのは後者という違いがあります。地震が起きると、地下深くではどちらの周期も発生するのですが、地面に到達するまでの間にどちらかが減衰して、残ったほうが悪さをします。先日の地震では、長周期のほうが建物に影響を与えました。長周期地震動のゆらゆらとした揺れは、ゆっくりと揺れる高いビルと共振しやすいため、今回も高層ビルの最上層などで、食器棚の食器が落ちたり、モノにつかまらないと歩けなかったりしたのです」

 だが、その揺れも、震源からの距離の遠近とはまた別に、地区によって異なるが、それはなぜか。

「地震は地盤の強度や、表層地盤のやわらかさ次第で、揺れが強くなったり弱くなったりします。たとえば、強い揺れを観測した埼玉県川口市は、荒川や利根川が近くにあり、粘土や土砂が地下に溜まっています。それが地震の揺れを増幅するやわらかい地盤で、地震本来の揺れが地盤のために増幅され、より強く揺れてしまうのです」

 そうして話は「埋没谷」に及んでいく。

「産総研が出した3次元マップは、簡単に言うと、地盤の違いによる揺れやすさを示したもの。今回、川口市と同様に揺れが強かった足立区は、埋没谷が埋まっている地域でした。そういう場所はやはり揺れやすいということが、先日の地震で実証されてしまったことになります」


■都内3カ所の埋没谷の位置は


 そこで、あらためて産総研の中澤グループ長に、埋没谷について語ってもらうことにしたい。

「東京には大きく分けて三つの埋没谷があります。一つは、23区の東部に広がる東京低地の地下。いま荒川が流れていますが、昔は利根川も東京湾に流れ込んでいました。そうした川が氷河期に谷を作り、そこがやわらかい沖積層で埋まって、埋没谷になりました。新木場あたりから墨田区、江戸川区、葛飾区、足立区まで川沿いにつながり、埼玉県の川口や蕨も同様です。次に、われわれの調査で新たにわかった、武蔵野台地の埋没谷があります。そこは沖積層ほどではないものの、やわらかい泥層で埋められていて、台地をつくる地層としては、かなりやわらかい。一つは高輪から恵比寿、渋谷、代々木にかけての埋没谷で、深さがおよそ10〜30メートル、長さはおよそ10キロ、幅が3〜4キロほどです」

 1万年前までの氷河期にできた、深いところでは地表から80メートルという地下の地形が、いまもわれわれに影響を与えているというのだ。もう一つの埋没谷は、

「世田谷区西部の多摩川沿いの台地にあり、高輪の埋没谷とほぼ同時代にできています。確認できる範囲では、長さ約10キロ、幅が約1・5〜3キロほどで、世田谷の埋没谷のほうが高輪の層よりも泥分が多く、地層としては少しやわらかい」

 それでは中澤グループ長は、埋没谷と、先日の地震の揺れとの関係を、どう評価するのだろうか。

「震度が大きかった足立区から川口方面は、埋没谷が埋める沖積層が地下に分布する地域。震度5弱を観測した大田区も、多摩川低地の埋没谷を沖積層が埋めている。実は、震度5強や5弱を観測した地域のほとんどは、地下に埋没谷があり、沖積層が分布しているといえるのです」

 たとえば、舎人ライナーが脱輪した地点も、埋没谷の上に位置する。もっとも、埋没谷がある地域は必ず揺れる、という単純な話ではないという。

「足立区と同じ一連の埋没谷が分布している墨田区や江戸川区は、足立区や川口より震源から近いのに、さほど大きく揺れませんでした。地盤の条件が似ていても、揺れやすさに違いがあるのが気になります。沖積層はせいぜい数十メートルの深さ。もっと深い部分の地質構造や、地震そのものの特性なども関係するなど、種々の要因が重なって、局所的に揺れが強くなることがあるのでしょう」

 とはいえ、「埋没谷」が揺れにとって、一つのキーワードであることには変わりない。産総研のマップを参考に、自宅の周囲の地盤を確認したり、転居する場所を選ぶ際の参考にしたりする価値はあるだろう。


■「谷」に注意し「台」を選ぶ


 関東学院大学工学総合研究所の若松加寿江研究員は、同じ埋没谷の上に位置しながら、より南に位置し、震源に近い葛飾区亀有や江東区で、揺れが大きくなかったことについて、

「地震の規模がさほど大きくなかったからだ、と考えられます。また、埋没谷のなかでも、地表に近い部分が軟弱な地域で、揺れが強かったように見えます」

 と言い、さらに続ける。

「台地側で埋没谷がある高輪や代々木などでは、あまり強く揺れず、その理由ははっきりとはわかりません。ただ、震源から離れていたこと、あの地域の埋没谷は局所的で狭いこと、なども原因かもしれません。離れているというのは、水平距離だけでなく、深さも関係しています。今回の地震は震源の深さが75キロ。そこからの距離が離れていたということ。震源地が変われば山の手方面も大きく揺れる可能性はあるので、今後も注意が必要です」

 だが、そもそも埋没谷の上が揺れやすいのであれば、地上に露出した谷の周囲も、注意が必要なのではないだろうか。それについて、若松研究員が続ける。

「たとえば神田川沿いの谷地形周辺。飯田橋、早稲田、高田馬場のあたりは、23区内で最大の谷なので大きく揺れる危険性があり、注意が必要です。それにもう一つ、麻布十番など古川の上流のあたりも揺れやすい。埋没谷はなくても谷地形で、その下に湿地の植物が腐食して堆積した腐植土層が埋まっているため、地盤が緩く、地震が起きるとゼリーのようによく揺れるのです。赤坂の溜池山王なども、かつてのため池の上ですから、腐植土層が堆積し、水はけも悪い」

 われわれはそこから、どのような教訓を読み取るべきだろうか。

「世間的に高級とされる土地でも、地盤はよくない場合が多い。東京の地価は交通至便だとか、駅前に大きな商業施設があるということに引っ張られていて、地価が高い場所が、地盤もいいというわけではありません。住む場所を決める際は、できれば谷を避け、台地の真上の、古くから台や丘がついている地名を意識するといいでしょう」

 ただし、電鉄会社などが戦後、私鉄沿線のニュータウンなどに、単にイメージアップを狙い、旧来の地名と関係なく「台」や「丘」とつけたケースも多いから、注意が必要である。


■大地震は刻々と近づいている


 ところで、冒頭で首都直下地震の発生が懸念されている旨を述べたが、はたして先日の地震に、それとの関連性はないのだろうか。若松研究員は、

「首都直下地震の前兆ということはないと思う」

 と言いながらも、今後への懸念をこう述べる。

「ただ、日本列島は93年の釧路沖地震以降、地震活動が活発な時期に入って、それ以降は毎年、日本のどこかで大きな地震が起きています。関東周辺も同様です。関東大震災の前には、関東周辺で中小地震がたくさん発生したといわれています。ですから、今回の1回が大地震の前触れとか引き金、というわけではありませんが、首都圏を襲う関東大震災クラスの地震は、いつ起きてもおかしくありません。昭和になって大きな地震が起きていないのは首都圏くらいです。地震が起こらない地域だと思っている方もいますが、そうではなく、刻々と近づいているのです」


■首都直下地震を誘発するか


 一方、前出の鎌田氏は、

「今回の地震が、首都直下地震を誘発するのではないかと心配です」

 と、懸念を隠さない。

「首都直下地震が起こると考えられている場所は、首都圏19カ所。今回の震源地もそのうちの一つです。いまの地震学は首都直下地震を予測できませんが、それは地震が起きるまで、どれが前兆だったかわからないということ。今回の30倍の規模とされる首都直下地震が起きれば、埋没谷の有無にかかわらず激しく揺れます。M7・3、全壊家屋61万棟、被害総額95兆円というのが、考えられる最悪のパターンで、火災旋風が起きる可能性がある。約2万3千人と想定される死者の約7割は、火災が原因だと想定されています」

 鎌田氏は、東日本大震災を機に、タームが変わったとみている。

「そこから日本列島は、地震や噴火が活発な大地変動の時代に入りました。今後20年は地震が止まず、首都直下地震が起きる可能性も高まっています。もう一つ、さらに大きな南海トラフ巨大地震が、2030〜40年に起こる可能性が高いことにも注意をしたい。しかし、その前に首都直下地震が起きる可能性があるのです」

 どういうことか。

「東日本大震災に相当する地震が前回起きたのは、西暦869年。東北沖を震源とするM9クラスの貞観地震で、それを機に現在と同様に大地変動の時代に入り、全国で地震が頻発。そして9年後の878年、関東南部でM7・4の直下型地震が起き、さらに9年後の887年、南海トラフ西側と東側の震源域で同時に、仁和地震というM9クラスの巨大地震が起きました」

 鎌田氏は「過去は未来を解くカギ」と話す。もっとも、東日本大震災の9年後に首都直下地震が起きたわけではないが、

「エネルギーを溜めこんだ状態が続いています」

 と、鎌田氏は言う。

「被害総額で、東日本大震災の5倍規模とされる首都直下地震が近い将来に起きたあと、東日本の10倍規模の南海トラフ巨大地震が、関東から九州にかけて起きる危険性がある。最悪の場合、東京から大阪を通って宮崎まで、約6千万人の被災が想定され、被害総額は日本の税収の数倍になる。先日の地震がその前触れかどうかはわかりませんが、そういう地震が起きる可能性があることを知って、準備してほしいのです」


■二つの対策で「被害を8割減らせる」


 もちろん、100%はない。起きずにすむに越したことはない。しかし、想定し、準備しておくに如くはないだろう。鎌田氏は、

「地震の被害を減らすためにできることは、まずは道路の補強などインフラ整備。もう一つは、知識を身に付けること。この二つがきちんと機能すれば、被害を8割も減らせます。個人で行うことは、本棚や家具の固定や、外出先で揺れたら頭を守ること、家に3日分の水や食料を確保し、医薬品や簡易トイレを準備しておくこと、などです」

 と強調する。そして、若松研究員も言う。

「まずは生き延びることを考えてほしい。それは正直なところ、運と紙一重ですが、シミュレーションをし、自分のなかで想定外を作らずにおくことが大事。自宅で地震に遭うとはかぎらないので、繁華街にいたらどうするか、地下街にいたらどうするか、高層ビルにいた場合は、ということを考えておくといいでしょう」

 また、自分が寝起きしている、あるいは、これから寝起きする場所に選ぼうとしている土地は、地下に埋没谷がないか、地盤が緩い谷地形ではないか、といったことを、3次元マップなどで確認することも重要だろう。そうして防災意識を高めることが、身を守る第一歩になるはずである。

「週刊新潮」2021年10月28日号 掲載

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