ドリル優子とあだ名された「小渕優子元経産相」、初の女性宰相候補のデタラメすぎる政治資金【政治家の黒歴史07】

ドリル優子とあだ名された「小渕優子元経産相」、初の女性宰相候補のデタラメすぎる政治資金【政治家の黒歴史07】

「いずれは派閥ボス、そして宰相候補に」は既定路線

■明治座に吸い込まれる後援会の面々


 10月31日に投開票が行われる衆院選。各候補者たちの立派な公約とは別に、それぞれの人柄や歴史を知っておくのは有権者にとっては大切なことだろう。もっとも、その歴史の中には本人は消し去りたいものも多いのだが……。政治家のスキャンダルを振り返る第7回は2014年当時、“初の女性宰相”にも擬せられ、鳴り物入りで安倍改造内閣に加わった小渕優子元経産相(47)を取り上げる。デタラメすぎる政治資金管理がたたって大臣辞任に追い込まれ、その後の捜査に絡み、「ドリル優子」などと有難くないニックネームをいただくハメになった。

(※週刊新潮2014.10.23、2014.10.30号に加筆・修正をしています。年齢や肩書などは当時のママです)

 ***

 2014年10月8日の朝、東京・日本橋浜町の「明治座」前。50人は乗れそうな大型観光バスが続々到着し、そのつど車内から中高年女性の一団が現れる。ナンバーはいずれも「群馬」「高崎」。手馴れた係員の誘導で、彼女らは劇場へと吸い込まれていった。

 エントランスに掛かっていたボードには「本日の御予約団体様」として、

〈昼の部 小渕優子後援会女性部大会〉

 そう記されていた。

 この日、横付けされたバスは合計26台。ざっと1000入超の“観客”を運んできた計算だ。


■集めた費用と劇場に支払った額が著しく違う


 自民党群馬県連の関係者が言う。

「明治座と小渕家とは、父の恵三さんの時代からつながりが深く、優子さんが支部長を務める党の『群馬県第5選挙区支部』には、今でも毎年24万円の寄付を頂いています。また、地元の群馬県中之条町にある政治団体『小渕優子後援会』の女性部は毎年、明治座を借り切って観劇会を催しており、今年は10月8日と14日、地区ごとに分かれて天童よしみさんの舞台を観ることになりました」

 もっとも、名目は「女性部大会」。例年、冒頭で代議士自ら挨拶するなど、あくまで“政治活動”の体裁をとっている。ところが、不思議なことに、

「参加者から集めた費用と、劇場に支払った額が著しく違っているのです」(中之条町関係者)

 たとえば「小渕優子後援会」が群馬県選挙管理委員会に届け出た2010年分の政治資金収支報告書では、収入の項目に「観劇会」として372万8000円が記載されている。一方で支出を見ると、組織活動費の「大会費」扱いで、844万円余りが「入場料食事代」として明治座に支払われたことになっている。その結果、実に470万円もの差額が生じているのだ。

「第5選挙区支部のほか、政党支部として『自民党群馬県ふるさと振興支部』という組織があります。高崎市の司法書士の事務所が所在地となっており、かつては実質的に恵三さんの関連団体でした。今は、これを優子さんが引き継いだ格好になっています」(同)


■宙に浮いた1326万円


 そして、この自民党群馬県ふるさと振興支部からも、明治座に対し、同じ10年10月1日の日付で約844万円が支払われていた。報告書に添付された領収書のコピーを確認すると、2枚の番号は連番。つまり合計1688万円の支出を2等分し、異なる団体の支出として別個に届けたというわけだ。

 これにより、謎の“差額”は1316万円に広がってしまったことになる。
同じく11年についても、小渕優子後援会は「観劇会」名目で369万3000円の収入を得ているものの、明治座に対しては「入場料食事代」として10月5日に848万8000円を支払っており、ふるさと振興支部からも同日、847万1030円の支出が――。

 差し引き1326万円が、やはり適正に処理された形跡のないまま、宙に浮いてしまっているのだ。

 明治座の関係者に聞くと、

「貸切公演の場合は、定価の3分の2ほどに値下げさせて頂いておりますが、あまり観客が少ないと役者も演じにくいため、大体1000人を目安としてお願いしております」

 通常の公演では1、2階の合計約1200席がS席扱いとなり、定価1万2000円であれば貸切時は8000円に値引きされる格好だ。が、先述した2年分のケースは、“参加費”として集めた金額が、いずれもたったの370万円程度であり、1000人と見積もっても一人3700円だ。


■裏金か完全な横領か


 さらに、

「往復に使う観光バスの代金として、例えば11年には明治座への支出と同じ日付で地元のバス会社に244万9300円の支払いがなされているのです」(前出・中之条町関係者)

 従って、差額はさらに拡大。仮に収支が記載の通りであれば、選挙区の有権者らに破格の安さで芝居を観せたことになり、利益供与にあたり、さらに集票目的とみなされれば公選法221条の「買収」となるケースである。

 それでも、実際に参加した女性部関係者によると、

「明治座の大会には、いつも1万2000円の会費を払って参加しています。11年は小林幸子さん、12年は梅沢富美男さんと中村玉緒さん、昨年は石川さゆりさんのお芝居と歌を観ました。料金には、切符代からお弁当代、バス代が全て含まれますし、後日、余ったお金が戻ってきたようなことは一切ありません」

 となれば、徴収した会費はトータルで1000万円を超えるはず。政治資金に詳しい神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授が言う。

「1万〜2万円なら会計ミスで通るかもしれませんが、これだけ巨額では見逃すわけにはいきません。報告書の不記載ないし虚偽記載にあたり、それを行った者や、場合によっては団体の代表までも罰則を受ける可能性があります。さらには、この誤魔化した収入を政治資金に充てたのならば“裏金”ということになりますし、誰かがプライベートで使っていれば、完全な横領です」

 いずれにしろ、お咎めなしでは済まされそうにない。


■「東京ドーム巨人戦ツアー」


 付言すれば、12年の梅沢富美男と中村玉緒公演に関しては、そもそも報告書に収支の記載自体がない。もしや、出演者次第で政治活動と見なされない場合があるというのか。謎は深まるばかりだ。

 観劇会に負けず劣らず不可解なのが、「東京ドーム巨人戦ツアー」である。

 改めて報告書によれば、小渕優子後援会は10年に「野球観戦」として16万3500円の収入を記載しており、その一方で東京ドームには3回にわたり計51万4300円が支払われている。

 ここでも、差額の35万円は行方不明。ちなみに、「大会費」の明治座とは異なり「行事費」扱いで、添付された領収書の名目は「入場券代」。同年7月4日のゲームで、3700円の席を94人分購入したことになっている。

 11年はさらにエスカレートする。

「野球観戦」の収入2万5000円に対し、ドームには3回計59万3200円の支出。57万円が消えてしまった。参加者によれば、

「後援会青年部のメンバーを中心に観に行きました。切符代は実費で払っていますし、年によって小渕先生のスケジュールが空いていれば、東京でお会いすることもありました」

 その構図は明治座とそっくり。杜撰さに拍車が掛かったに過ぎないのだ。

 こういった政治資金のデタラメぶりを小渕大臣に直接尋ねると、

「事務所がお答えすると話しています……」

 とまるで他人事のように語っていたが――。


■〈私自身、分からないことが多すぎる〉


 週刊新潮が一連の事実を報じたその5日後、小渕大臣は辞任を決断した。辞任会見では、収支が乖離している行事費用について、

〈私自身、分からないことが多すぎる〉

〈何でこうなっているのか〉

〈全てを見通せない〉

 そうしたフレーズを繰り出しながら、「疑問」「疑念」といった単語を反復するのだった。

 何しろ、3年間でざっと3000万円近くが宙に浮いている格好。あるいは自身も狐につままれた心境なのかもしれない。

 ところが、それはこれまで見てきた東京でのツアーに限らないようで、

「毎年、選挙区内の地区ごとに開かれている新年会でも、同じような事態が起きているのです」

 とは、地元の群馬県中之条町にある政治団体「小渕優子後援会」のさる幹部である。

 おおむね1月から2月初めにかけ、群馬5区内では連日、後援会や、小渕議員が支部長を務める「自民党群馬県第5選挙区支部」の支払いで新年会が開かれる。その会場は、例えば高崎市内の温泉施設、あるいは安中市内の宴会場など、地区によって異なるのだが、

「出席するのは地方議員や後援会メンバーで、いずれも会費制。両団体とも、会場に支払った飲食代については、組織活動費の『行事費』などとして計上しています。ところが、なぜか参加者から集めたはずの収入の記載が、一切ないのです」(同)

 というから、明治座や東京ドームの“図式”と酷似している。


■クローズアップされた国家老


「観劇会や野球観戦とまったく同じ手口が、あちこちの新年会で行われていることになります。つまりこれは、同じ人物がずっとそうした処理を続けてきたのか、事務所内の暗黙のルールで脈々と引き継がれてきたのか、そのどちらかだと考えられます」(上脇教授)

 ここでクローズアップされるのが、経産相辞任とほぼ同じタイミングで職を辞した、お膝元・中之条町の折田謙一郎町長(66)である。役場関係者によれば、

「17日の午後を最後に、公の場から姿を消した町長は、週明けの20日、11時に突然、町議会議長に辞表を提出。そのまま車で走り去っていきました」

 この町長、小渕議員の関連団体のうち、前出の「後援会」「第5支部」そして同じく政党支部である「自民党群馬県ふるさと振興支部」の3団体について、報告書作成を実質的に取り仕切っていたという。辞職にあたっては、

〈ひとえに私の不徳のいたすところ。小渕大臣は政治資金には全く関与しておらず、収支の齟齬に疑念をもたれたのは当然のこと〉

 などとコメントを寄せていた。

「折田さんは、恵三さんの時代から30年以上にわたり私設秘書として小渕家に仕えてきた、いわば国家老のような存在です」

 と、本人をよく知る町政関係者。つまり、上脇教授が指摘したような、「ずっとそうした処理を続けてきた同じ人物」に当たるわけだ。


■小渕恵三の車を譲り受けて


 この町政関係者が続ける。

「当時から大物秘書として通っていて、建設業者は折田さんに挨拶しないと群馬県に入れない、なんて噂が立つほどでした。現在の知事の選挙を支えたのも彼で、県内自民党の大変な実力者と言っていい。高崎の小渕事務所の所長を務めたのち、定年を迎えていったんは一線から退きますが、12年1月、町長のなり手がなかったため担ぎ出され、無投票で初当選を果たしました。その時は、“裏の人が表に出てきた”などと言われたものです」

 加えて、

「折田さんの愛車は、練馬ナンバーのセルシオ。本人曰く、もとは恵三さんの車だったそうで、亡くなったのち奥様から“折田さんに乗ってほしい”と言われて譲り受けたというのです。日頃の移動には公用車でなく、常にこれを使っています」

 その後、東京地検特捜部は一連の疑惑にメスを入れ、折田氏の事務所にガサをかけるなどしたが、会計書類などを保存したパソコンのハードディスクがドリルで破壊されるなど極めて悪質な妨害行為に立ち往生せざるを得なかった。「ドリル優子」とはその時につけられたニックネームだ。

 結局、特捜部は小渕氏本人の立件を見送り、折田氏ら元秘書2名を政治資金規正法違反(虚偽記載)で在宅起訴した。

***

 小渕氏は同じ14年12月に行なわれた総選挙にみそぎを受けるべく臨み、圧勝。17年の総選挙でも他を寄せ付けず7選。21年10月、自民党組織運動本部長に就任した。「そう遠くないタイミングで派閥『経世会』のボスとなり女性宰相を目指すことでしょう。その意味では、スキャンダルが早めに出て冷や飯も早めに食っておいて良かったのかもしれません」(政治部デスク)とのこと。少なくとも永田町においては、ドリルが未来を破壊することはなかったようだが、それが国民の常識に合致しているかは別の問題であろう。

デイリー新潮取材班

2021年10月28日 掲載

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