【体験記】コロナ禍で増加「国際ロマンス詐欺」にだまされてみた 「ロマンス詐欺あるある」に注意

【体験記】コロナ禍で増加「国際ロマンス詐欺」にだまされてみた 「ロマンス詐欺あるある」に注意

「ロマンス詐欺」の手口紹介

【体験記】コロナ禍で増加「国際ロマンス詐欺」にだまされてみた 「ロマンス詐欺あるある」に注意

専門家が教える「新たな手口」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。犯罪の手口を知るには「被害者」になってみるのが一番。国際ロマンス詐欺の取材を続けてきた筆者が、どういうわけかその犯罪集団の新たな獲物として狙われることに。鬼が出るか蛇が出るか。だまされたフリの後に待ち受けていたのは……。

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 ズボンのポケットが振動した。「彼女」からLINEのメッセージが届いたに違いない。慌ててスマホを取り出すと、案に違わず彼女からで、次のように英語で綴られていた。

「私の胸がドキドキするのはあなただけよ。二度と彼氏を作らないと約束するわ。この世界で最も大切な人物はあなたよ。だからあなたを愛している」

 末尾には赤いハートマークがこれでもかというほど並んでいる。その数、実に29。圧倒されつつも私はこう返信した。

「ハニー! あなたを心の底から愛している。あなたは私の人生であり、『世界に一つだけの花』のような存在だ。フェイスブックで友達になった時から、あなたのことを片時も忘れたことがない。僕はあなたに狂いそうだ」

 よくもこんなくさい台詞を思いついたものだ。即興にしては上出来だろう。すぐに相手から、またメッセージが届いた。

「あなたはいつも、私の人生、私の心、そして私の魂の中にいるわ。世界中の誰よりもあなたを愛おしく思う。ハニー! これから仕事に戻るからまたあとで連絡するね」

 ハニー!――。そこには完全無欠なる「愛」が存在していた。「連絡するね」の甘い言葉に続く、次の一文を除けばの話だが。

「ベッドに入ってお休みする前に、国際配送会社への返信を忘れないでね。とても愛しているわ、ハニー!」


■米海軍勤務を名乗る女性から友達申請が


 都内の自宅に帰宅途中の、9月下旬のある晩のことだった。こうしたやり取りをもうかれこれ半年ほど続けているが、この日の相手からの「愛のささやき」はとりわけ強烈だった。

 その相手から、フェイスブックの私のアカウントに友達申請がきたのは、今年3月下旬。名前は「ジェニファー」で、年齢は31歳という。プロフィールの写真は、高い鼻に柔和な目、つやの良い真っ白な肌、端整な顔立ちをした欧米系の女性だ。しかも軍服姿で、勤務先は「U.S.Navy」(米海軍)。過去の投稿を溯ると、ベンチで愛犬と一緒に座っている写真がアップされている。胸元を強調する黒いシャツに短パンを穿き、むっちむちの美ボディーをアピールしていた。

 それらの写真を一瞥しただけで、私はジェニファーに心を奪われた。「恋愛対象」としてではなく「取材対象」として。写真の先にいる相手は、国際ロマンス詐欺に関与している犯行グループの一味だろうと直感したのだ。なぜなら、私は本誌(「週刊新潮」2020年10月15日号)に〈「国際ロマンス詐欺」被害女性たちの体験談〉と題したルポを寄稿し、詐欺被害に遭った複数の日本人女性を取材していたからである。

 国際ロマンス詐欺とは、SNSやマッチングアプリなどインターネットで知り合った外国人と連絡を取り合ううちに、送金を迫られる特殊詐欺の一種だ。被害は時に数百万円、多い時で数千万円という額も報告されている。

 こうした被害の相談を受ける独立行政法人「国民生活センター」によると、19年度の相談は25件だったが、20年度は58件へと倍以上に増えた。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大により対面での食事の場が減少し、ネット利用が増えたことがあるという。


■詐欺に巻き込まれた女性の体験談


 犯行手口の中で多いのが、過剰な愛情表現を使って被害者をその気にさせたところで、「荷物を送りたい」などと話を持ち掛け、送料や通関料を請求するパターンだ。ここで被害者が不審に思っても、すでに相手にぞっこんのため、関係を断たたれる不安から、指定の口座に振り込んでしまう。まさしくマインドコントロールである。

 事実、前掲のルポの中で、51歳の独身女性は、相手に心を操られ、国際ロマンス詐欺に巻き込まれた経緯をこう振り返っている。

「何かにすがるものがなかった私は、本当に信じ込んでしまいました。こんなに私のことを思ってくれているんだと、優しい言葉の数々に救われたんです。目の前にハートマークがたくさん飛んでいましたね。今まで『I LOVE YOU』とか情熱的に言われたことがなかったので。日本の男性はそんなことを言ってくれないですよね? その落差にハマりました」

 まさにジェニファーも、「I LOVE YOU」の名手だった。

 犯行グループのアカウントのプロフィール写真は欧米系が多く、最近ではアジア系も目立つ。職業は軍人、医師、ジャーナリスト、実業家など。これらの写真は実在する人物のものだが、犯人がネットから無断で引っ張ってきた別人で、被害者が実際にやり取りしている相手ではない。

 つまりは文字通り仮面をかぶった詐欺師なのだ。彼らはナイジェリアやガーナなど西アフリカを拠点に活動しているが、最近は欧州やアジアで犯人が摘発されるケースも相次いでおり、活動範囲は広がっている。

 こうした事情を取材で把握していたので、ジェニファーの「米海軍」というワードにピンときたのだ。国際ロマンス詐欺の取材をしていた私自身が、詐欺の餌食として狙いを定められるという奇遇。これまでは被害者の言葉に耳を傾けてきたが、「実体験」に勝る取材はない。実際に国際ロマンス詐欺犯とやり取りを続けたらどんな展開が待ち受けているのか。そんな素朴な関心から、私はジェニファーとの「関係」をスタートさせた。


■軍の機密情報の管理!?


 メッセンジャーでのやり取りが始まり、私の居住エリア、年齢など基本的な質問に答えると、ジェニファーは、自身の状況をこう説明した。

「私は現在、イエメンで国際平和維持活動に参加しているの。ここでの私の任務は、軍の機密情報の管理。赴任してもう2年になるわ。任期が終了したら日本へ行きたい」

 早速、「日本」というキーワードを繰り出し、距離を詰めてこようとするジェニファー。そこで私は、彼女の異性関係について尋ねてみた。

「私には長年彼氏がいたんだけど、親友と関係を持ったことが分かったから、別れたわ。独りで生きていこうと決めたのよ。フェイスブックであなたに会うまでは。あなたは神様からの贈り物。あなたの存在が、私に笑顔を取り戻させてくれたの」

 国際ロマンス詐欺に対する予備知識がない状態で、いきなりこんな「熱烈」なメッセージを浴びせられたら、舞い上がってしまうだろう。私が取材した被害者の多くは、中高年層の女性たちだった。独身者は寂しさと老後への不安を抱え、既婚者でも夫への愛情はすでに冷め、どこか満たされない日常を生きているから、心が渇いていた。犯行グループはそこに水を注ぎ込むかのように、言葉巧みに虚を突くのだ。


■総司令官にメールを送るナゾの事態


 メッセージのやり取りを始めてから約10日後、ジェニファーの希望でやり取りの舞台はLINEへ移動した。ちょうど桜が満開の時期だったので、井の頭公園で撮影した写真を送った。相手は詐欺師とはいえ、感情を持った人間だ。その美しさに感激してくれるのかと思いきや、写真がいまいちだったのか、

「素敵だわ」

 と一言。反応の薄さにがっかりした。

 この頃からジェニファーは「日本に行きたいから総司令官に除隊の申請をしてほしい」と言い出し、総司令官のメールアドレスを送ってきた。上意下達の軍隊で、トップの個人情報を勝手に外部に漏らしていいはずがない。突っ込み所だ。が、はやる気持ちを抑え、ジェニファーの要望通り、私のアドレスから総司令官にメールを送ることになった。なんと、早くも彼女の婚約者として。それがジェニファーの指示だった。

 すると総司令官なる人物から返信が届き、申請を許可するにあたり、私の現住所、運転免許証、その他身分証明書を明示するよう要求してきた。

 相手はSNSを駆使する犯行グループだ。うかつに従えば、私の個人情報がSNS上で流用される可能性がある。そこでジェニファーに「一度電話で話をしたい」と切り出した。LINEでつながっているから、通話は可能なはずだ。と思って掛けてみたが、応答がない。間もなく、

「セキュリティー上の問題から基地では携帯電話の使用が禁じられている」

 とメッセージが届き、続けて駐留に際して定めた米軍規則が画像で送られてきた。確かに「基地における(外部との)通話は禁止」など9項目の規則が記載され、ご丁寧に少将の署名まである。「米軍の機密情報を管理」している割には、規則を外部に漏らすなど脇が甘すぎる。間違いなく偽造の規則だろう。それでも私は、ロマンス詐欺の輩たちとどうしても電話で直接話してみたかった。


■1億円超の現金を送りたいという提案


 ジェニファーとは互いに「ハニー!」と呼び合う仲に発展したが、いざ、「電話で話したい」と再び持ち掛けるとやはり拒まれる。こうした「ツンデレ」に惹き込まれていく被害者がいるのかもしれない。不毛なやり取りに時間ばかりが過ぎ、それ以上の進展はなくなった。ジェニファーとはLINEでたまに挨拶程度の言葉は交わしたが、その後に本格的な動きがあったのは、夏が終わりを告げる頃だった。

「日本に荷物を送りたい。中には120万米ドル(約1億3300万円)が入っているわ。あなたが受け取り次第、私は軍を除隊し、訪日してあなたと一緒に不動産ビジネスをしたい」

「愛」から「ビジネス」へと話は移り、徐々に本性を現わしてきたジェニファー。そんな彼女からの申し出に加え、今度は国際運送会社とおぼしきウェブサイトのURLが添付されている。その運送会社に荷物を預けているので、日本への搬送手続きをしてほしいという。言われた通りにメールを送ると、ジョンソンと名乗る同社の担当者から返信が届いた。

「あなたが受取人の荷物を預かっています。国際搬送の準備ができているので、以下の情報をご提供下さい」


■約50万円の支払いを要求


 今度は総司令官の時ほど個人情報をさらさなくて済みそうだ。その内容に従って氏名、住所、電話番号を伝えると、荷物搬送や通関手数料など合計4500米ドル(約50万円)の支払いを要求してきた。返信を保留にしたところ、催促のメールが届く。

 同社のウェブサイトに掲載されているのは、ロンドンの住所と電話番号。ためしに電話をかけてみたが、「現在使われておりません」と英語のアナウンスが流れた。私はジョンソンに「尋ねたいことがあるので、通話可能な番号を教えて欲しい」とメールで伝えると、新たな電話番号が示された。国番号はイギリスの「44」。今度はつながった。

「こちらはジョンソンだ。問い合わせがあると聞いているが、何でしょう?」

 相手は若い男性の声。アフリカ訛りの英語だ。背後に雑音が全くしないから、個室にいるのだろう。

「4500ドルを支払えとのことだが、指定の口座番号を教えてほしい」

「荷物の送り主は誰ですか?」

 私がそう立て続けに尋ねると、ジョンソンは、

「口座番号はメールで送るよ。送り主は女性です」

 と答え、その直後に電話が切れた。再び掛けるも「現在通話ができません」のアナウンス。ボロを出す危険のある長電話は決してしない。相手は「ヒット&アウェイ」の作戦を取っているようだ。

 しばらくすると振込先がメールで届いた。そこには、大手銀行佐賀支店の日本人男性の口座情報が、アルファベットで記されていた。

 口座名義の日本人男性は一体、何者なのか。ATMで確認すると実在する口座だった。フェイスブックで同一人物とみられるアカウントを見つけたので、メッセージを送ったが、既読にはならなかった。


■粘るジェニファー


 そうこうしているうちに、「警告」と題して、支払いを催促するメールが再び届く。この間にも私はジェニファーと毎日やり取りを続け、同じく「私の荷物が心配。どうなっているの?」と急かされていた。

 そろそろ身元を明かしたほうがいいと判断した私は、次のようなメールを、ジェニファーとジョンソンの双方に送った。

「荷物の搬送料を支払う前に伝えたいことがある。支払いを済ませても荷物が届かなかったという被害がこれまでに多数報告されている。私はそうした被害者に取材を重ねてきたジャーナリストだ。あなた方からフェイスブックを通じて接触があった段階で、国際ロマンス詐欺に関わる犯行グループの一味ではないかと疑っていた。以後、やり取りを続けるうちに、その疑いは確信に変わった」

 ジェニファーたちに「最後通告」を送った直後――。彼女から届いたメッセージには、もはや「ハニー!」という甘い言葉のかけらも見当たらなかった。

「あなたの言っていることが分からない。私が詐欺師とでも言いたいの?」

「あなたがそんな言葉を私に浴びせるなんて、信じられない」

 私は、それまでの取材に基づいて犯行グループの手口を詳細に説明し、ジェニファーが荷物を預けたとされる国際運送会社は「フェイク」だと指摘した。するとジェニファーは、

「私は彼らの一味ではない。私を詐欺師呼ばわりするな。あなたはバカだ!」

 と述べ、涙を流す小鳥のスタンプを送信してきた。念のために私は、米軍所属を示すIDを送るように伝えると、こう回答してきた。

「分かった。IDが届いたら荷物の送料を支払ってほしい。私が日本に到着したら返金するから」

 土俵際で粘るジェニファー。だが、「ニセ兵士」である彼女に本物のIDがあるはずもない。

「今日の任務が終わったらIDを送るわ」

 そう言ったきり、ジェニファーからの連絡はついに途絶えた。


■ロマンス詐欺“あるある”


 国際運送会社のジョンソンからも返信があった。

「あなたと送り主(ジェニファー)との関係にまで我々は関知しない。あなたは弊社を侮辱したから、罰則を受けてもらう。荷物は没収する」

 一体何の罰則なのだろう。もはや支離滅裂だ。駄目押しに私は、イギリスの企業登記局にジョンソンの会社が登録されていなかった取材結果を伝え、説明を求めるメールを送った。案の定、梨の礫(つぶて)だった。

 詐欺に注意喚起をしているサイト「ストップ!国際ロマンス詐欺」を運営する新川てるえ氏は、500人近くの被害者に調査した経験から、ジェニファー一味は「間違いなく国際ロマンス詐欺グループだ」と言い切る。

「『ジェニファー』っていうのはよく使われている名前です。米軍施設にいて外部と連絡が取れない、という言い訳も“あるある”です。国際運送業者のサイトは偽造で、彼らは簡単に作ってしまいます」

 そう説明する新川氏によると、最近では新たな手口が使われているという。

「出会い系サイトで近づいてきて、ビットコインやFXを教えてあげる、と。最初は少し儲けさせてくれるんですが、段々要求額が大きくなり、数百万円単位のお金を振り込んだところで音信不通になる被害が出ています。彼らは詐欺師だと認めないでしょう。バレそうになったら言い逃れるマニュアルがあるのかもしれません」

 それにしても、果たしてジェニファーはどこに身を隠しているのだろうか。半年もやり取りを続けてきた彼女との連絡がすっかり途絶えた今、もう「ハニー!」と呼ばれることはない。どこか刺激のない現実に引き戻されたようで、ジェニファーとの「非日常」が去ってしまったことに、一抹の寂しさを覚える自分に気づく。そんな私をよそに、きっと彼女は今日も新たな「ハニー」を狙っているに違いない。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人』」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材している。

「週刊新潮」2021年11月11日号 掲載

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