「今冬はインフルが猛威」は本当か インド、バングラデシュで大流行

「今冬はインフルが猛威」は本当か インド、バングラデシュで大流行

半年ぶりに緊急事態宣言が解除された翌日の新宿(2021年10月1日)

 寄せては返すのが波なら、いずれ第6波は寄せ来るのだろう。今度こそ備えに不足があってはいけない。だが、同時にインフルエンザが猛威を振るうなんて取り沙汰されているので――。その可能性やいかに。そして諸々の備えは十分なのか。ここに総点検したい。

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 東京や大阪でも、飲食店への時短要請がほぼ解除されて3週間ほど。いまのところ、感染者数がリバウンドする兆候すらない。この状況が続くことを願わない人はいないと思うが、一方で専門家のほとんどが「第6波は必ず訪れる」と警鐘を鳴らしている。

 では、第6波が来るとして、第5波並みに感染が拡大する可能性もあるのだろうか。どのような心構えが、われわれには求められるのだろうか。

 このような懸念にいま、さらなる材料が加わろうとしている。この冬は季節性インフルエンザが大流行するかもしれない、というのである。

 たとえば、日本感染症学会が9月末に発表した「2021−2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方」には、概ね次のようなことが書かれている。

 バングラデシュやインドで、初夏から流行しており、国境を越えた人の移動が再開されれば、世界中にウイルスが拡散されうる。また、前シーズンの罹患者が少数だったため、社会全体の集団免疫が形成されていないと考えられ、そこに海外からウイルスが持ち込まれれば、大きな流行を起こす可能性がある――。

 したがって、インフルエンザワクチンの「積極的な接種を推奨」するというのだが、そこで新たな問題が生じているという。

「インフルエンザワクチンの供給が例年より遅れています。供給される見込みなのは2567万〜2792万本分と、去年より約2割少ないうえ、去年は10月下旬には、供給量の90%は出荷されていたのに、今年は65%程度にとどまっています」(厚労省担当記者)


■昨シーズンのインフルエンザの患者数は少なかったが…


 もっとも、昨シーズンのインフルエンザの患者数は、厚労省の推計では約1万4千人。1458万人に及んだ2017−18シーズンの千分の1で、新型コロナ対策として普及したマスク着用や手指の消毒などが功を奏したと考えられている。それらの対策はいまも続けられているが、それでもインフルエンザははやりうるのだろうか。

「今年は乳幼児によくみられ、呼吸器に症状が出るRSウイルス感染症が流行しています。昨年は新型コロナの影響で、このウイルスに感染した人が少なく、集団免疫が獲得されなかったからだとされています。これと同じことが、季節性インフルエンザでも起きるのではないかと、懸念されているのです」

 とは、倉敷中央病院の石田直副院長の説明である。

「仮にインフルエンザと新型コロナが同時流行すれば、医療機関に大きな影響を及ぼします。発熱外来に患者が殺到したとして、症状が発熱のみの場合、コロナかインフルエンザか判別が難しい。だから両方の検査が必要になり、ただでさえ飽和状態にある医療機関の診療態勢に、大きな負担がかかります」

 だからインフルエンザワクチンを接種すべきなのに、量が足りない、というわけだ。一方、国立病院機構仙台医療センターの西村秀一ウイルスセンター長は、

「ワクチンを打っておくに越したことはありませんが、現時点で大騒ぎする話ではないと思います」

 と言って、続ける。

「インフルエンザは短距離から長距離までの空気感染によるもので、コロナと感染経路が一緒。ひいては有効な対策も同じです。日本ではコロナ禍で、マスク着用や換気などの対策がしっかり行われているから、大きな流行は起こらないと考えます。コロナとの同時流行の可能性も、否定はしきれないにせよ、ケアすべきところは一緒。同時にはやる可能性があるなら、それを念頭に置いて行動すればいいだけで、やることが2倍になるわけではない。きちんと対策すれば同時に抑えられると思いますよ」


■病床は2割増やせるのか


 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、

「段階的緩和のなかで、マスクを着用している時間が減ると、流行の要因になるかもしれません」

 と言いながらも、

「今シーズンも、(先に冬を迎えた)オーストラリアなど南半球で流行が確認されていません。それに、日本ではマスクや手洗いなどの感染対策が引き続きとられ、それがなくなることはなさそうなので、今年もインフルを抑え込める可能性は十分にあります」

 と説く。現在は足りていないワクチンも、

「12月半ばには、ある程度供給されると聞いている」

 とのこと。コロナ対策を怠らず、できればインフルエンザワクチンも打つ。それでインフルエンザを抑えられるなら、話は振り出しに戻る。新型コロナの第6波にどう備えるか、である。寺嶋教授は、

「第5波のときは、酸素吸入や入院が必要であるにもかかわらず、自宅療養を余儀なくされる人が相次ぎました。そういった状況をなくすため、発熱などコロナが疑われる症状が出たとき、すぐに診察や検査をし、迅速に入院できる態勢を作っていくことが重要です」

 と訴える。自宅で容体が悪化し、亡くなった人もいたことを思えば、当然だ。

 同じ轍を踏まないために、岸田文雄総理は、感染力が第5波の2倍になっても対応できる医療態勢の整備を表明。「幽霊病床」を解消したうえで、入院患者をこれまでより2割多く受け入れられるようにする、といった考えを示した。

 その言葉に、われわれは安心していいものかどうか、ここは点検しておいたほうがいいだろう。まずは、各都道府県は本当に病床を増やすことができるのか、である。大阪府の保健医療室保健医療企画課計画推進グループに聞くと、

「すでに病床を提供していただいている公的病院から、プラス2、3床出していただく形で進めています。現状では重症者向けが605床、軽症と中等症用が2838床、確保されていますが、第5波を超えるような非常事態では、特に軽症と中等症向けの病床が足りなくなるので、それを3千床確保したい。ですからあと200、増やしたいと考えています」


■病床確保の現状は


 民間医療機関に協力を求める予定はないらしい。神奈川県の健康医療局医療危機対策本部室はどうか。

「もともと確保していた病床数は、全部で1790でしたが、第5波では入院者数が予想外に増えたために、“いざというときは緊急でない整形外科などの医療を、県の主導で制限するから”と頼んで、約2250床まで提供してもらえることになりました。この経験を踏まえ、災害級の感染拡大に際しては最大2300床、中等症用と軽症用を2030床、重症用を270床、確保できるように準備を進めています」

 また、神奈川県の場合は公的病院だけでなく、

「時間が経ち、コロナ患者の受け入れノウハウがわかってきたので、うちも受け入れる、と言ってくださる民間病院もあり、そういう病院にお願いしていく」

 とのこと。片や、東京都福祉保健局は、

「政府が示した骨格を受け、病床確保に乗り出したところで、これから医療機関などと話し合う予定です。現在の病床数は最大6651ですが、これにプラスする分を、民間と公的どちらの医療機関に多くお願いするかも、これから話し合うので、まだわかりません」

 と、すべてはこれからだというのである。


■「政府は何をすべきか分かっていない」


 医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授は、

「政府の示した骨格は、第6波への備えが必要だという点は正しいですが、具体案は相変わらず、何をすべきか分かっていない」

 と、手厳しい。

「病床数を1.2倍にするといっても、いままで増やせなかった理由を分析して、これまでと違いこうアプローチをするから増える、と示さなければ、説得力がありません。個々の医療機関に2、3床ずつ増やしてもらうだけでは、限界があります。私は以前から、複数の医療機関が人を派遣し合い、患者さんも移動できるようにすべきだと言っています。そうした環境整備を同時に進めなければ、増える病床も増えません」

 そして「協議会方式」の導入を提案する。

「ベッドは動かせず、動かすとすれば人。軽症、中等症、重症、回復病床の区別を明確化し、病院ごとの役割分担をはっきりさせたうえで、医療従事者が病院間をスムーズに移動できるように、各医療機関が連携する。複数の病院の間で、足りないところを補い合うのです。しかし、そういう仕組みができていないところを見ると、政府には医療現場が見えていません」

 その点、神奈川県の担当者は「ベッドより人材の確保が難しい」と言い、

「臨時医療施設を設けても、寄せ集めの集団だと、チームワークがバラバラになってしまう。県では医療法人の徳洲会に運営を委託することで、チームとして動ける現場を作っています」

 と説明する。神奈川県では、医療法人沖縄徳洲会の湘南鎌倉総合病院に隣接する土地に、中等症専用の医療施設を設けた。そこで酸素投与が必要な患者や、65歳以上または基礎疾患があり、重症化リスクが高い患者、自宅や宿泊施設での療養が難しい患者らを受け入れ、24時間態勢で診療を行った。そして運営を、沖縄徳洲会に委託したのだ。

 米村教授の提言に近い実践と思われるが、そうした仕組み作りも、すべて都道府県に任されているのが問題だろう。


■補助金をため込む医師会


 また、政府が「骨格」のなかで示した「幽霊病床の解消」について、

「幽霊病床ができたのは、多額の補助金が、日本医師会に所属する民間病院に計上されたのが一因です」

 と、東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長の川口浩医師。医師会は補助金が出るように促し、受け入れ能力がないまませしめている、というのだ。

「軽症の患者だけ受け入れ、“コロナ病床”の要件を満たしている民間の病院も多いですが、民間病院に求められていたのは、中等症患者の受け入れです。現に5波では、自宅療養を強いられた中等症患者が命を落とす不幸なケースもあったのに、そういう病院は、人材がいないのを理由に軽症者しか受け入れません。そして、軽症者でも受け入れていれば、幽霊病床には数えられませんが、そういう病院が補助金を受け取り、限りある財源がそこに割かれているのが現状です」

 そして、それ以外に、

「受け入れる能力がないのに、“コロナ病床”にカウントされている幽霊病床も、かなりあると思う。そもそも、そういう病院には診られる人がいないのですから、岸田総理がいくら叫んでも、幽霊病床の改善にはつながりません」

 さりとて、民間の力を借りないわけにはいかない。

「医師会は“幽霊病床”という言葉に反論していますが、重症患者は公的病院が受け入れています。自宅療養では救えない中等症患者を、民間が受け入れるようになれば、公的病院の負担はだいぶ軽くなります」

 受け入れ能力がある民間医療機関をあぶり出し、中等症患者の受け入れを依頼する。漠然と病床の確保をめざすのではなく、ターゲットを絞った策が必要だというわけだ。


■専門家と医師会の退場を


 一方、第6波の備えに必要なのは、病床だけではないはずである。川口医師が指摘する。

「政府の御用専門家たちは、なぜ第5波が収束したのか総括もせず、相変わらず人流一本足打法を貫徹し、感染者数の減少は“国民の意識と協力のおかげ”と繰り返しています。この根性論は、感染が広がると“国民の意識が緩んで人流が増えた”という表現に変わって、また非建設的なことが繰り返されるだけです」

 そして、さらには、

「次の波が来たときには、専門家と医師会の幹部の方々にはご退場いただき、政府はメルク社の経口治療薬や、ブースター接種のためのワクチンが確保できるように、しっかり契約を結んでほしい。これらはみな輸入品なので、それを確保するために外交に力を入れたほうがいい」

 と、主張する。続いて米村教授も提言する。

「今後に向けて、政府は経済と感染症対策をどう両立するか、方針を示す必要があります。最も合理的なのは、いままで通りのマスク、手洗い、換気の徹底。このような、感染を直接的に防ぐ“ミクロ政策”が圧倒的に重要なのです。人流を制限するなどのマクロ政策は、社会的機能を止めてしまいますし、みんなが家や会社でリスクが高い行動をしてしまえば、効果は薄くなる。重要なのは密閉空間に入ったあとのミクロの対策なのに、これまでまったく施されていません」

 それはなぜなのか。

「政府の専門家のほとんどは、感染症学の専門家だという点が挙げられます。マクロの目線で解析している人たち頼みなので、感染対策が人流抑制などに向きがちなのです。ミクロの対策のほうが現実的で、現にそちらに力を入れている国もありますが、日本は人流と水際ばかりです。たとえば、規制が解除された飲食店に対しても、店内での感染対策はお店に任せられていますが、もっと具体的に指導すべきだと思います」

 たとえば、約12万の飲食店が申請し、10万店強が認証された、東京都の認証店。都の産業労働局は、

「都の担当者か委託している業者が出向き、換気の状態、アクリル板の有無、消毒用アルコールの有無などを点検しました」

 と話すが、その後は放置されているのが現実だ。


■「第6波に至らないことも」


 ところで、コロナ患者を受け入れている現場では、

「これまで通り、医療関係者は全身防護服を着て、患者さんの動線は、ほかの患者さんと接触しないように分けています」

 と、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師。病室に出入りするたびに、防護服を着たり脱いだりするのは、大きな負担になると容易に想像がつくが、一度クラスターが発生した医療機関では、なかなか踏ん切りがつかないという。そうであっても、

「第6波が来ても、感染者の中心はワクチンを打っていない12歳未満や、未接種の10%の高齢者、接種後時間が経った医療関係者のブレークスルー感染で、5波より規模がだいぶ小さくなるでしょう。また、12歳未満やブレークスルー感染者は、ほとんど重症化しないので、病床もあまり圧迫しないと思います」(同)

 寺嶋教授も言う。

「6波がどうなるか。今後、ワクチン接種率をどの程度上乗せできるかにかかっています。3回目のブースター接種がどの程度できるかも、鍵になるでしょう。ただ、イスラエルやイギリスで感染者数が再び増えたのは、マスクをしているかという感染対策の要因が大きいと思う。日本も段階的に制限解除していますが、マスク着用のおかげで、現状、ぶり返していない。諸外国を見ても、マスクなどの感染対策とワクチンの両輪が必要でしょう」

 イスラエルの感染者数は、このところ1日あたり千人を切っているが、934万人という人口を考えれば、少ないとはいえない。片や、イギリスは1日の感染者数が5万人を超える日もある。それでも、重症者や死者が少ないので、再び行動制限を課す予定はないようだが。

 とまれ、これらの国にくらべれば、日本の現状は優秀というほかない。事実、マスクの効果は大きく、

「CDC(米疾病予防管理センター)によれば、デルタ株では、まったく感染対策をしなかった場合、基本再生産数は1人につき5〜9人ですが、マスク着用や距離の確保で1〜3人に減る。また、制限の解除で再生産数が増えても、ワクチン接種が進めば、増えた分を打ち消して再生産数を減らしていける。うまくいけば、第6波はかなり小さいものに抑えられるし、第6波に至らないことも考えられます」


■経口治療薬が近いうちに認可


 加えて、米メルク社の経口治療薬も、そう遠くないうちに認可されるとみられ、塩野義製薬のものも、年度内の実用化が目標とされているのである。

「メルク社の飲み薬、モルヌピラビルは現在、アメリカで緊急使用許可の申請中です。このまま認可されれば、日本でも即座に特例承認の動きが起こると思います。日本はメルク社とのパイプもあるので、承認されれば年内か、来年初めには使えるようになるのではないでしょうか」(同)

 最後にワクチンへの懸念にも答えておきたい。特にモデルナ製の接種後に起きる心筋炎や心膜炎について、寺嶋教授が話を続ける。

「30歳までの男性で、2回目の接種後に多い。全年齢層でみると、ワクチン接種後、100万回に1〜2件の頻度ですが、30歳までの男性は、10万回に1〜4件程度に起きるので、リスクは10倍ほど。モデルナはファイザーの3〜4倍起きやすいのは、モデルナのほうが強力だからかもしれません。しかし、新型コロナにかかっても心筋炎を併発する可能性があり、そのほうが、ワクチンが原因で心筋炎になる確率よりずっと高い。だからワクチンを打ったほうがよく、たとえ心筋炎になっても、ほとんど回復します。どうしても怖ければ、2回目はファイザーに替えてもいい」

 そして、3回目のブースター接種について、

「2回目を打ってから6〜8カ月で、高齢者や重症化リスクがある人は、特に接種が勧められます」

 と強調。矢野医師は、

「国民のほとんどが3回目のワクチンを打ったあとは、マスクを外してもいいと考えます。ブースター接種後は、抗体価は2回の接種後にくらべて10倍に、重症化を防ぐ能力は20倍になりますので」

 人流一本足打法の御用専門家がなんと言おうと、日本人はよくやっている。マスク着用率の高さも、ワクチン接種率が急上昇したのも、日本人の意識が緩まないからである。政府が同じ轍を踏むことを避けさえすれば、第6波は恐れるに足りないはずだが。

「週刊新潮」2021年11月11日号 掲載

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