元公安警察官は見た 駐日大使館のレセプションに勝手にやって来る人々のヒドい行状

 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を17年務め、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、各国の大使館が行うレセプションパーティーの会場に勝手に現れる迷惑な客について聞いた。

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 各国の駐日大使館は年に1度、友好親善や情報発信を目的にナショナル・デーのレセプションを開いている。

「ナショナル・デーとは、本来独立、建国、革命などの国家の記念日のこと。日本に大使館を置いているすべての国が、自国のナショナル・デーを外務省に届け出ています」

 と語るのは、勝丸氏。かつて外事1課の公館連絡担当班に所属していた同氏は、大使館や総領事館との連絡・調整を主な任務とし、日常的に外交官と接触していた。

「毎年、ナショナル・デーの当日またはその日の前後にレセプションを開くのが一般的です。この他、ギリシアは大使が離任する際に開催するなど、ナショナル・デー以外のレセプションも頻繁に開かれています」


■お国自慢の料理


 勝丸氏は公館連絡担当班にいた頃、年に100回以上、大使館のレセプションに出席していたという。

「大使館のレセプションには、普段なかなか接触できない国の大使や外交官と顔つなぎができるし、CIAやFBIの駐在員らと会って情報交換するのも参加する目的のひとつです。大きなレセプションの会場には、アメリカをはじめ色んな国の諜報機関の関係者が姿を見せます。ある意味、スパイの社交場のようになることさえあります」

 レセプションの会場には、帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニが使われることが多いという。

「レセプションでは、民族衣装や芸能、音楽、ダンスなどが披露されますが、なによりも忘れてはならないのがお国自慢の料理です。たとえばポーランドの場合、都内にあるポーランド料理店がホテルの厨房にレシピを提供。ホテルの調理スタッフと本国の料理人のコラボによるお国料理を提供していました」

 こんな異国の料理を味わえる機会は滅多にないため、お金を払ってでも参加したい人は結構いたという。

「そのため、ときには“パーティー・クラッシャー”と呼ばれる迷惑な人たちが出没することがあるのです」

 パーティー・クラッシャーとは、日本では聞きなれない言葉だが、招待されてもいないのにパーティー会場に押しかけて飲み食いし、迷惑行為に及ぶ人物のことである。

 欧米のパーティー・クラッシャーは破壊行為を行うケースもある。10年程前、イギリスの14歳の女の子がFacebookで誕生パーティーを呼びかけたところ、200人の若者が押しかけて暴徒化。家が破壊された事件が発生した。こうした事件が社会問題になり、欧米ではSNS上でパーティー会場の場所を告知することが疑問視されている。

 もちろん駐日大使館のレセプションで大暴れするようなパーティー・クラッシャーはいないが、勝丸氏は会場警備の相談を受ける立場だったので、彼らをどうやって締め出すかで頭を悩ませていた。

■韓国の某宗教団体職員


 それにしても、招待状もないのにどうやって会場に入るのか。

「受付で招待状を必ずチェックしますが、トイレに行って戻ってきたような顔をして入ってきます。入口の外で人の良さそうな大使を見つけると、『大使、こちらですよ』と知り合いのようなふりをして声をかけ、そのまま一緒に入場する者もいます」

 パーティー・クラッシャーの目的は、美味しい料理や華やかな雰囲気を楽しむことだが、

「各国の大使や来賓の著名人と自分が握手するところを写真や動画に収めてSNSにアップする人もいます。某宗教団体に勤める韓国人は、大使館のパーティーに参加するのが生きがいで、いつも有名ホテルのロビーをうろつき、ホテルのその日の催しを見て、大使館主催のパーティーに勝手に来ていました。大使と握手やハグしている写真や動画を連れの女性に撮らせ、SNSにアップしていました。後から招待客でないことを知ると大使たちは怒っていましたね」

 パーティー・クラッシャー対策として、受付で招待状と引き換えに花を渡し、花を胸につけていない人は再入場を認めないシステムにしている国もある。

「ところがその韓国人は、胸に花をつけた人が会場からでてくると、『お帰りですか』と声をかけ、帰る人であることが分かると『お花、お預かりします』といって花を受け取り、胸につけて入場するのです」

 日本人のパーティー・クラッシャーもいる。

「日本人も大使との写真や動画を撮りたがるのですが、私の知るケースでは、自分が関わっている語学学校や知人の経営コンサルタントのホームページにアップして、自分のビジネスに引用していました」

 常連のパーティー・クラッシャーは、大使館関係者に顔を覚えられることもある。

「あるミャンマー人女性は北欧の料理が大好きで、デンマークやノルウェーのレセプションに何度も現れたため顔を覚えられてしまい、会場の入り口で入場拒否されていました」

 もっとも、パーティー・クラッシャーが一度会場に入り込むと、退去させるのはなかなか難しいという。

「レセプションの会場で、ある大使から常連のパーティー・クラッシャーをつまみ出して欲しいと言われたことがあります。しかしそんな時は『難しいですね』とお答えしていました。パーティー会場で警察官が職務質問すれば、他の客に迷惑がかかるかもしれないからです。それでも大使から退去させて欲しいと頼まれたら、大使の部下に問題の人物を退去してもらうようお願いします。もしそこでトラブルになったら、私が対応していました」

デイリー新潮編集部

2021年11月19日 掲載

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