ひろゆき氏が「年末ジャンボを買う人は頭が悪い」とツイート 説得力がまるでない思考回路を分析

ひろゆき氏が「年末ジャンボを買う人は頭が悪い」とツイート 説得力がまるでない思考回路を分析

西村博之氏(Danny Choo from Tokyo/Wikimedia Commons)

 ORICON NEWSは11月24日、「『年末ジャンボ宝くじ』販売開始 7億円求め銀座に長蛇の列 購入者『コロナ禍を吹き飛ばす!』」の記事を配信した。

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 年末ジャンボ宝くじがこの日、全国で一斉に発売、東京・西銀座チャンスセンター(中央区)には長蛇の列ができた、という内容だった。

 元「2ちゃんねる」管理人の「ひろゆき」こと西村博之氏(45)が、この記事をTwitterで紹介し、以下のようにツイートした。

《確率と投資金額からのリターンの計算が出来ない頭の悪い人が罰金を払う季節がやって参りました。/売り上げの約40%は公共事業などで使われるので、お近くの情弱に「宝くじって夢があるよね〜」とか言って散財させると吉です》

 これにTwitter上で大きな反響が起きた。そのため、スポーツ報知、スポニチアネックス、中日スポーツといったスポーツ紙の電子版が反応した。担当記者が言う。

「ひろゆき氏の批判に一般ユーザーが『庶民が億万長者になるには宝くじしかないってこと』と反論しました。氏は『おいらの家庭も庶民』とした上で、『庶民から億万長者になった人は、IT起業家やYouTuberに大勢居ます。宝くじを買うと金持ちになれると考える頭の悪さのせいで貧乏のままなんだと思いますよ』と噛みつきました。3紙はこのやり取りを記事の中核に据えました」


■宝くじ購入者=馬鹿!?


 しかしTwitterを丁寧に調べると、ひろゆき氏の主張が支持されているわけではないことが分かる。

「3紙の報道ですと、ひろゆき氏が相手を“論破”したような印象です。ところがTwitter上では、氏に対する異論も相当数あります。内容は大きく分けて2つ。1つは『収益の一部が公共事業に使われるのなら、もっと宝くじを買おう』と、宝くじの公益性を支持するものです。2つ目は『宝くじは一攫千金のためでなく、ささやかな夢を買っているに過ぎない』と、《頭の悪い人》が買うという指摘への反論です」(同・記者)

 宝くじに関する実態調査を参照すると、ひろゆき氏の「頭の悪い人が罰金を払う」という発言は言いがかりに等しい。

 宝くじの公式サイトには、2016年に日本宝くじ協会が行ったアンケート調査の結果が掲載されている。宝くじ(数字選択式宝くじ以外)の購入動機は、以下の順だ。

【1】賞金目当て(61・9%)
【2】宝くじには大きな夢があるから(42・5%)
【3】遊びのつもりで(32・9%)
【3】当たっても当たらなくても楽しめるから(32・9%)


■「夢を買う」派の割合


「1位の回答に『ひろゆき氏の指摘通りだ』と考える人もいるでしょう。しかし、それは早計です。アンケートは複数回答ですから、『お金目当てではない。宝くじで夢を買っている』という2位から4位の割合を足すと108・3%に達します」(同・記者)

 この調査結果だけでも、ひろゆき氏の「頭の悪い人が、宝くじを買うと金持ちになれると考えている」という指摘は的外れだと言わざるを得ない。

「そもそも1位の『賞金目当て』という回答と、『夢を買う』という回答は相反するものではありません。年末ジャンボの1等賞金は7億円です。1等賞金は魅力だけど、当選するなんて全く考えていない。そんな風に考えてくじを買った人が、アンケート調査には『賞金目当て』と回答しても不思議はないでしょう」(同・記者)

 宝くじの公式サイトには、2020年度の「宝くじ長者白書」の内容も紹介されている。これは20年度の1年間に1000万円以上の当選金を受け取った高額当選者のアンケート調査をまとめたものだ。

「高額当選者が宝くじを購入してきた理由は、『夢を持ちたいから』が48%に達しました。最も少なかったのは『お金が欲しくて一発勝負』で11%。購入頻度に関する質問でも、『ジャンボのみ』を買っている人が37%と最多でした」(同・記者)


■経済学と宝くじ


 購入歴に関する質問では、「10年以上」の回答が68%に達した。

「高額当選者に対するアンケート調査と照らし合わせると、《頭の悪い》貧乏人が一攫千金を求めて宝くじを買っているという、ひろゆき氏の発言は間違っていることが、更に鮮明となります。ジャンボ宝くじを筆頭に、娯楽として無理しない範囲で長期的に購入している人がたくさんいる。そして、そういう人たちに高額当選という幸運が訪れるという面白い現象が、数字でも明らかになっているわけです」(同・記者)

 経済学の観点からも「宝くじを買う行為は決して非合理だとは言い切れない」と指摘されている。

 久留米大学商学部教授で経済評論家の塚崎公義氏は2019年7月、Webマガジンの「WEDGE Infinity」に「宝くじが人気な理由を考える」を寄稿した。

 塚崎氏は1981年に東京大学法学部を卒業し、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行したという経歴の持ち主。メディアへの寄稿では「経済評論家」の肩書を使うことが多いようだ。


■「人間は儲けるために生きているわけではない」


 宝くじを買っても、当たることはほとんどない。塚崎氏も《買うと損する可能性が高いわけですから、宝くじを買うことは合理的でないように思われます》と問題提起を行う。

 しかし氏は、《国際大会で日本選手を応援する人を見ていると、幸せそうです》と言う。応援したから日本選手が勝つわけでもなく、選手が勝ったとしても報酬がもらえるわけでもない。

 全く合理的ではない行動だ。しかし、応援している人が楽しみや幸せを感じているのなら、それで充分だろう。塚崎氏は以下のように指摘する。

《人間は儲けるために生きているわけではなく、幸せになるために生きているのです》

《「合理的経済人」として生きる必要などないのです》

《宝くじは「当たれ、当たれ」と応援できて、「当たったら何をしようか」と考えながら夢に浸ることができて、万万が一当たれば金持ちになれるわけですから、購入代金の数百円など安いものです》

 まさに「宝くじで夢を買う」という行為の正しさが、経済学者からも太鼓判を押されたと言えるだろう。


■宝くじと保険は一緒!?


 生命保険や損害保険と宝くじは似ている──この指摘に驚く人は少なくないだろう。だが、塚崎氏は《本質は同じ》と記している。

 宝くじは夢を買って楽しむ。一方の保険は、保険商品を買うことで不安から解放される。

《「自分が死んだら残された妻子が路頭に迷うのではないか」「自宅が焼けたら住む場所が無くなってしまうのではないか」といった不安は、実際の確率より高く感じられるので、保険に加入することでそうした不安から解放されるのは、非常に有難いことなのです》

《保険と宝くじは、実は本質は同じものなのです。全く違うもののように見えますが、「皆から金を集めて、特定の人に全部渡す」わけですから。特定の人が、宝くじは運の良い人で、保険は運の悪い人だ、というだけの違いです》

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「ひろゆきさんの発言を好意的に見れば、いわゆる“寺銭”について問題提起したかったのかもしれません」と言う。

 寺銭とは、「ばくちや花札などで、その場所の借賃として、出来高の幾分を貸元または席主に支払うもの」(広辞苑第七版)という意味だ。

 要するに「ギャンブルの主催者が強制的に徴収する参加費用」ということになる。


■ギャンブルを楽しむ人たち


 宝くじの場合、還元率は5割を超えてはならないと法律で定められている。2019年は46・5%で、残りの53・5%が“寺銭”ということになる。

「競馬、競輪、競艇といった公営ギャンブルで還元率は70%台とされていますから、残りが寺銭というわけです。海外のカジノになると還元率は94〜98%と高く、寺銭は僅か数%です。ひろゆきさんは『半分も主催側が取るような宝くじに金を使うのは馬鹿馬鹿しいことだ』と指摘したかったのかもしれません」(同・井上氏)

 だが、寺銭の問題を考慮したとしても、ひろゆき氏の指摘には違和感がある。その理由を井上氏は、「基本的に宝くじで破滅した人はいない」という事実を忘れているからだと指摘する。

「競馬で身を持ち崩した人間はいます。しかし、宝くじはどうでしょうか。友人や知人から借金を重ね、宝くじに全財産をつぎ込む人などいないでしょう。年末ジャンボなら『冬の風物詩』として購入する人が大多数のはずです。競馬なら『年に1回、12月に開かれる有馬記念の馬券だけは買う』という層と重なります。ひろゆきさんは『ギャンブルを楽しむ人たち』の存在を忘れて批判したため、多くの人から批判されることになったのだと思います」


■決めつけ言説の限界


 もし、ひろゆき氏がパチンコや競馬に依存し、身を持ち崩した人を「頭が悪い」と批判したのなら──その毒舌の是非はともかく──支持を集めた可能性があるという。

「ひろゆきさんの言説は『経済的合理性』や『プラグマティズム(実用主義)』に根差し、世の中の良識や正論に逆らうというのが基本的構図だと思います。発言は借り物の言葉ではなく、自分の言葉を使って舌鋒鋭く迫ります。そのため、一定のファンが存在するわけです。とはいえ、『経済的合理性』だけで全ての事象を批判できるはずもありません」(同・井上氏)

 いわば、ひろゆき氏の“弱点”が露呈したのが、今回の「宝くじ批判」だったようなのだ。

「功罪相半ばするという言葉があります。本来、世の中の動きは複雑で矛盾しているものでしょう。宝くじなら、『ハズレたら損をするけど、夢は買える』と相反するものが共存しています。ところが、ひろゆき氏は『宝くじに金を使うなんて頭が悪い』と、宝くじの一側面だけをピックアップし、一刀両断してしまいます。この決めつけは世論の反感を買うリスクがあります。実際、ひろゆき氏の人気は、炎上商法に重なるところがあるのは事実でしょう」(同・井上氏)


■ファン層の存在


 ただし、炎上商法と異なるのは、一定のファン層が存在することと、正論と受けとめられる発言もあることだ。

 例えば不登校の問題だ。一部のメディアや論者は、不登校に理解を示す。だが、ひろゆき氏は、不登校のYouTuberとその父親に対して「学校へ行け」と批判。かなりの支持を集めたことがあった。

 デイリー新潮は2021年4月に「議論百出の『ゆたぼん』中学問題、『不登校新聞』の編集長はどうみているのか」の記事を配信している。

 一方、ひろゆき氏は「古文、漢文を学校で教える必要はない」と主張したこともあった。この時は、不登校の問題ほどは支持を集められなかった。

 デイリー新潮も同年3月に「ひろゆき氏『古文・漢文オワコン』論に賛否 識者が語る“古典を学ぶべき高校生”は?」の記事を配信した。

「ひろゆき氏は『経済的合理性』や『実用主義』の観点から、『将来、全く使わない古文や漢文はいらない』と、世の常識に逆らいました。しかし、古文や漢文を学ぶことは、古典文化に触れる貴重な機会であることは言うまでもありません。実用主義を乱用し、文化や娯楽という観点を無視する。古文と漢文に異議を申し立てた姿勢は、宝くじを買う庶民を『頭が悪い』と批判した発言と共通点があると言えるでしょう」(同・井上氏)


■黒い優越感


 物事を批判する際、複雑な側面を切り捨て、とにかく一刀両断してしまう。だからこそ、ひろゆき氏の言説は“薄っぺらい”印象を受けることが少なくない。しかし、だからこそSNSでは拡散し、支持を集めるということも言える。

「かつて論壇は、月刊誌に掲載された論文がベースでした。文章量は多く、複雑で矛盾した側面を充分に説明した上で論が展開されていました。ところが今の“ネット論壇”はSNSと深い関係があります。そのため、短い文章で切って捨てるほうが説得力があるような錯覚が生じやすいのです。ひろゆきさんの発言は、SNSと相性が良いと言えるでしょう。そのため一部のネットユーザーは“岩盤支持層”のように、ひろゆき氏を支持するわけです」(同・井上氏)

 ひろゆき氏の熱心なファンは、年末ジャンボを求める長蛇の列を見た瞬間、「あ、頭の悪い貧乏人がいっぱいいる」と考え、“黒い爽快感”を味わうようだ。

 宝くじを買わないことで暗い優越感を覚えるのと、買うことでささやかな楽しみを得るのと、どちらが幸せか──? 答えは自明の理のように思える。

デイリー新潮取材班

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