養老孟司「日本人のストレスが『バカの壁』を求めた」 2003年流行語大賞入賞の新書が450万部突破

 先ごろ、養老孟司さんの著書『バカの壁』が450万部を突破したことが発表された。同書が発売されたのは平成15年(2003年)のこと。発売直後からベストセラーとなり、国会答弁で引用されることもあった。「話が通じない相手との間に見えない壁」がそびえたつ、というのは、たしかに国会でも常に見られる現象かもしれない。この「バカの壁」という言葉は、その年の新語・流行語大賞トップ10に選ばれた。

 特筆すべきはその売れ方で、発売時(4月)の初版3万部が同年末には200万部となり、翌年300万部、さらに翌年は400万部という調子で売れ続けた。結果、同書は「平成で一番売れた新書」となる。

 さらに令和になっても毎年数万部ずつ部数を増やし、この秋、450万部に達したというわけだ。

 その後、「壁」シリーズとしては『死の壁』『超バカの壁』『「自分」の壁』が刊行され、それらを累計すると630万部超。12月には『ヒトの壁』が刊行される予定だ。

 それにしても『バカの壁』は、なぜそんなに売れたのか。

 そんな質問を受けることも多いという養老さんに、改めて「450万部」突破を機に、著者なりの分析をお願いしてみたところ、以下のような文章が寄せられた。以下、全文ご紹介しよう。

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■『バカの壁』450万部突破を受けて


 本を出した2003年当初、ここまで売れるとは思っていませんでした。ありがたいことです。どうして売れたのか。よく聞かれるのですが、私自身もわかっていません。それをずっと考えていました。

 日本は、明治維新以来、欧米型の生活や思想を取り入れてきました。でも、千年以上続いてきた先祖伝来のやり方を簡単に変えられるものなのか。立ち居振る舞いが変わり、常識も変わりました。実際と求められるもの、その間のズレが日本人にはストレスになってきたのだと思います。

 皆さんそんなにそれをしたいんですか。周りがそう言っているだけではないですか。

 そう聞いてきたつもりです。何しろ私は長年、自分の常識は世間とズレていると考えてきました。今もそうですが、それが悩みでストレスだったんです。そのストレスとどう折り合いをつけられるか。世間とどう折り合いをつけられるか。それをまとめたから、読まれたのかと思います。

 だって、皆さん苦労されていますよね。新しい常識の辛さをみんな感じているんじゃないでしょうか。『バカの壁』はそうやって悩んできた日本人が読んでくれたように思います。だから、読んだ人にあまり抵抗感がなかった。内容が常識的なんです。刊行時からさらにグローバリゼーションが進んで、常識の変化のスピードも速くなり、悩みはさらに進んでしまっていると思います。私自身も、考えることが尽きません。

 そんなふうに悩んできた人がどれだけ多くいることか。ずっと版を重ねてきた理由として思いつくのは、そこです。『バカの壁』を読んで、長年喧嘩ばかりしていた母親と仲直りした、という娘さんがお礼を言いに来てくれました。うまく折り合いをつけて生きていく。そんなふうに役立ったなら、嬉しい限りです。

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 人と人が完全にわかりあえることはない。この世から「バカの壁」が消えることはないのだろう。

デイリー新潮編集部

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