【ルポ】ついに判明した国際ロマンス詐欺犯「ジェニファー」の正体 SNSを通じて筆者に語った呆れた言い訳

【ルポ】ついに判明した国際ロマンス詐欺犯「ジェニファー」の正体 SNSを通じて筆者に語った呆れた言い訳

ヨリを戻したい?

 コロナ禍で増加傾向にあるという国際ロマンス詐欺。筆者はだまされたフリをして、美ボディーを誇る詐欺犯「ジェニファー」とのやり取りを続けていたが“破談”。だが突如、再び彼女から連絡が入る。そしてついに、ジェニファーの「驚愕の素顔」が明らかとなる。

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「また来てる!」

「彼女」から届いたLINEに私は戸惑った。連絡は1週間前の10月末に途絶えていた。そこで私たちの「関係」は完全に終わったはずだった。

 それなのに、SNS上で私と「愛」を紡いできた白人美女のジェニファーが、まるでヨリを戻したいと哀願せんばかりに、黄色い小鳥が滂沱の涙を流すスタンプを送ってきたのだ(掲載の写真)。一体、彼女は私に何の「未練」があるというのか――。

 フェイスブックのプロフィールに写る、真っ白な肌にむっちむちの美ボディーを誇るジェニファー――と名乗る人物は、国際ロマンス詐欺に関与する犯行グループの一味とみられ、年齢は自称31歳。イエメンで国際平和維持活動に参加する米海軍兵士だと説明していた。

 この詐欺は、SNSやマッチングアプリなどで知り合った外国人に愛の言葉をささやき続け、荷物を送ると称して搬送手数料などをだまし取る特殊詐欺の一種だ。コロナ禍によって対面での食事の場が減少し、国際ロマンス詐欺の被害は増加傾向にある。


■またとない実体験取材のチャンス


 その手口を駆使するジェニファーから今年3月、私はフェイスブックで友達申請を受けた。その後LINEで半年間にわたってやり取りを続けた経緯については、本誌(「週刊新潮」11月11日号)に〈「国際ロマンス詐欺」にだまされてみました〉と題するルポを寄稿した。あらためて簡単に振り返っておく。

 かねて国際ロマンス詐欺の取材を続けていた私は、ジェニファーからのアプローチに、またとない「実体験取材」のチャンスだと判断。彼女にだまされたフリをして「ハニー!」と呼び合う仲になった。ジェニファーからの愛のささやきは、

「あなたはこの世界で最も大切な人。だからあなたを愛している」

「あなたはいつも、私の人生、私の心、そして私の魂の中にいるわ」

 などとエスカレートしていき、早くも私の婚約者として来日する計画まで持ち掛けてきた。その際、米軍を除隊するための申請や、120万米ドル(約1億3300万円)が入った荷物を日本へ搬送する手続きをするよう指示され、搬送手数料4500ドル(約50万円)の支払いも要求された。私もジェニファーに、

「ハニー! あなたを心の底から愛している」

「あなたに狂いそうだ」

 などと返し、彼女との「愛」を育み続けた。


■「友達になってくれるかい?」


 話は次から次へとトントン拍子に進むのだが、いざ電話で話したいと伝えると、「軍の規則で外部と電話はできない」と拒まれる。それを裏付ける証拠として、米軍規則が記された文書を画像で送ってきたのだが、どうも怪しい。荷物の預け先も架空の国際運送会社であることを突き止め、こちらに手持ちのカードが揃ったところで、ジャーナリストという身分を明かした。

「あなたが犯行グループの一味であることを日本の雑誌に寄稿する」

 だが、そんな最後通告にもジェニファーは屈することなく「詐欺師呼ばわりするな! あなたはバカだ!」と逆ギレし、以後のやり取りは途絶えた。

 ――ここまでが前掲のルポの顛末である。

 にも拘(かかわ)らず、ジェニファーは再度、私に接触してきたのだ。犯行グループの実像にもっと迫ってみたい。そんな思いから、私はできるだけ優しい言葉を選び、LINEでこう返した。

「あなたは今どこにいるの? 私はあなたを非難するつもりはないから、心配しなくて大丈夫だよ」

 すると意外な返信が届く。

「友達になってくれるかい? 実は……」


■ジェニファー、変身!


「実は僕、ナイジェリア人なんだ。名前はフランシス。まだ18歳だよ。あなたにやったことすべてに対して申し訳なかった」

 その文面に一瞬、目が点になった。ジェニファーが米軍兵士でないことは気づいていたが、女性ですらなかったのだ。「ハニー!」と呼び合っていた相手が突如、「彼女」から「彼」に変身してしまった。

 間もなくLINEのビデオ通話に場が移ると、そこには短いチリチリ頭の黒人の若者が映っていた。彫りが深くいかつい顔立ちだが、私の顔を見るなり白い歯を見せて笑うその表情には、まだあどけなさが残っていた。私の脳裏には、胸元を強調したジェニファーの美ボディーが焼き付いていただけに、対面した「実物」とのギャップにまず度肝を抜かれた。

「元気にしているかい?」

 フランシスからそう問い掛けられ、私たちは会話を始めた。

 時間は日本の午前1時過ぎ。東京から西に、飛行時間にして約20時間離れたナイジェリアは前日の午後5時過ぎだった。

 早速、私のほうからこう切り出した。

「今年の3月からフェイスブックとLINEでやり取りを続けたが、あなたの手口は間違いなく詐欺だ」

 フランシスはうなずいてから小声で、「申し訳なかった」と再び詫び、こう言葉を継いだ。

「この国の経済情勢が悪いから仕方ないんだ。仕事もない上に、政府もダメだ」

 自国の貧困が原因で、犯行に及んだ事実を認めたフランシス。現在、ナイジェリアの最大都市、ラゴスのアパートに1人で住んでいるという。東京より多い人口を抱えるラゴス(推計約2千万人)は、同国南西部に位置し、ギニア湾に面した港町である。

「大学で法律の勉強をしたいけど、お金がない。今は、週3日のペースで清掃の仕事をしているよ。日当は1日、千ナイラ(約275円)。両親はいるけど、父は病気で仕事をしていない。母は農民だ。僕のほかに姉妹が6人いて、うち1人は仕事をしているけど、あとの5人は学生だ。貧しい家庭なんだ」


■1人2役をこなすフランシス


 フランシスは窮状をそう訴え、部屋の中をスマホのカメラ映像で見せてくれた。薄汚れたコンクリートむき出しのワンルームで、扇風機とマットが置かれただけの、簡素な部屋だった。

「ここは電灯がないんだ」

 というフランシスの顔は、日が暮れていくにつれ、少しずつ暗くなっていった。だが、同情は禁物である。

 フランシスは現在、私以外に「ドイツ人男性2人とやり取りしている」と明かす。現金は「受け取っていない」と強調したが、要はまだ国際ロマンス詐欺を続けているのだ。

 ナイジェリアで国際ロマンス詐欺を取り締まる捜査当局、経済金融犯罪委員会(EFCC)の担当者は、詐欺犯たちの属性について、私の取材にこう答えた。

「大半は男性で、20〜30代の若者たち。彼らは組織的に動き、インターネットがつながる場所ならどこでも犯行に及ぶ。標的にするのは、未亡人や男やもめ、離婚者などで、時には相手を探している若い女性も対象だ」

 フランシスと話をしながらふと、彼の声には何となく聞き覚えがあることに気づいた。それはジェニファーが荷物を預けたという、架空の国際運送会社の担当者で、「ジョンソン」と名乗る男が話す英語の訛りに、そっくりだったからだ。

 ジェニファーから「荷物を日本に送る手続きをしてほしい」と指示を受けた私は当時、ジョンソンとメールを交わし、搬送手数料の支払いを要求された。その後、ジョンソンと電話で話すことに成功したため、彼の声がまだ耳に残っていた。

「ジョンソンはあなただろ?」

 そう尋ねると、一呼吸置いてフランシスは答えた。

「イエス」

 つまり1人でジェニファーとジョンソンの2役をこなしていたのだ。

「僕は1人でやっている。(犯行)グループに属しているわけではない」


■新たな「誘惑」


 この辺りでLINE電話がいきなり切れた。すぐにフランシスからメッセージが入る。

「ごめんなさい。データが終了しました」

「データ」というのは恐らく、プリペイドカードのようなもので、チャージした金額分を使い切ってしまったということだろう。その証拠にこんな要求が来た。

「グーグルプレイギフトカードを送ってほしい」

 末尾には両手を合わせて懇願する絵柄のスタンプが2個。「グーグルプレイギフトカード」とは、一定金額をチャージすることによって有料アプリや映画、音楽、書籍などを購入できるプリペイドカードの一種で、価格は1500円〜2万円まで段階的に分かれている。

「グーグルプレイカードがあれば、また電話で話ができるよ」

 新たに私を「誘惑」するフランシス。そこで私は、

「もう一度だけ今、電話で少し話せないか」

 と尋ねると、あっさり「OK」。「データ終了」と言う割には、つながるではないか。とにもかくにも、再びフランシスとのビデオ通話が始まった。


■再び連絡が…


 しかし、この通話で確認できたのは、ジェニファーの写真は他人のインスタグラムから無断で取ったことぐらい。それ以上、犯行の詳細について踏み込もうとすると、こう念を押された。

「グーグルプレイカードを明日には送ってほしい」

 翌日も、LINEのメッセージによる「グーグルプレイ攻撃」は続いた。既読にしないまま放置すると、

「親愛なる友よ。今は仕事中かな?」

 などとこちらの機嫌を伺う気遣いも見せる。だが、二言目には、

「グーグルプレイはどうなった?」

「友達になりたい」と近づいてきたその心は結局、「金づる」を作る目的でしかなかったのだ。

 もう一度電話で話せるタイミングを見計らったが、しびれをきらしたのか、今度はフランシスが私への最後通告を突き付けてきた。

「僕は昨日から何も食べていないんだ」

「僕はもう人生に疲れた。自殺を図って死ぬつもりだ。申し訳ないが、あなたとは二度と話さない」

 以後、再び連絡が途絶えた。最後通告から4日後、今度は私から、号泣する小鳥のスタンプを送信すると、すぐに既読になり、

「おはよう。今日は元気かい?」

 とあっけらかんとした返事。「自殺」はどこにいったのか……。そしてまたいつもの“あれ”が始まった。

「グーグルプレイカードを送ってくれ!」

 国境を越えた「友情」は、こうしてあっけなく終わってしまった。今、黄色い小鳥はどこを飛んでいるのだろうか――。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人」について、また事件を含めた世相に関しても幅広く取材している。

「週刊新潮」2021年11月25日号 掲載

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