「インスタ、フェイスブック止めます」 ラッシュの決断の背景にある「スマホ脳」問題

■SNSの更新停止を発表


 世界的なコスメブランド、ラッシュ(LUSH)の「決断」が反響を呼んでいる。ラッシュは「新鮮な野菜や果物を使った100%ベジタリアン対応のナチュラルコスメブランド」(同社リリースより)。駅ビルなどで店舗を見かけたことがある方も多いだろう。世界48の国と地域でビジネスを展開している。

 同社が26日に発表した方針は、Facebook、Instagram、TikTok、Snapchat、WhatsAppの五つのSNSの更新を停止する、というものだった。若い女性を中心のターゲットとしているであろう同社がFacebookやInstagramの利用を止めるとはどういうことか。

 その理由について、同社は次のような声明を出している。

〈今回の私たちの決断は、元Facebook社の勇敢な内部告発者によってもたらされた、昨今報道されているFacebookやInstagramが心身への悪影響をもたらす内部調査情報によって裏打ちされています。それは私たちの生活において、若者がアルゴリズムや緩い規制によってさらされている様々な弊害を明確に示すものです。

 いじめ、フェイクニュース、過激な意見や価値観、FOMO、幻想振動、操作的アルゴリズムなど…。際限なくスクロールできてしまうストリームは、若年層の自殺・うつ・不安の割合を大幅に増加させると言われています。〉

 ここで触れている「勇敢な内部告発」の中味は、

「Facebookは、ユーザーの心身に悪影響を及ぼすことを知っていながら対策を取っていない」

 というものだ。

 ラッシュによれば、完全な「反SNS」「反ネット」の立場に立つというわけではなく、「現時点では、YouTubeをはじめとするその他プラットフォームは継続利用していきます」(同)とのこと。身体に良い素材を用いることを売りにしている以上、心身に悪影響を及ぼす可能性があり、その状態を放置しているツールで宣伝するのは矛盾している、という考えが決断の背景にはあるようだ。

■SNSの悪影響


 今回の決断は、声明にもあるようにFacebook元社員の告発がきっかけだったようだが、SNSが利用者、とりわけ若い人たちに悪影響を与えていることは、近年指摘されてきた問題である。

 学校などの小さな集団内でのいじめを助長させる、といった事例は日本でもよく見聞きするが、欧米ではユーザーの精神に与える影響について、より本格的な研究が行われている。

 2021年、日本で一番売れた本(オリコン調べ・コミックを除く)となった『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳)では、この問題についての丁寧な説明がなされている。一部、引用してみよう。

「私たちは本当に、フェイスブックなどのSNSによって社交的になったのだろうか。そういうわけでもないらしい。2千人近くのアメリカ人を調査したところ、SNSを熱心に利用している人たちのほうが孤独を感じていることがわかった。この人たちが実際に孤独かどうかは別問題だ。おわかりだろうが、孤独というのは、友達やチャット、着信の数で数値化できるものではない。体感できるものだ。そしてまさに、彼らは孤独を体感しているようなのだ」

「5千人以上を対象にした実験では、身体の健康状態から人生の質、精神状態、時間の使い方までさまざまな質問に答えてもらった。そこにはフェイスブックをどれくらい使うかという質問も含まれていた。その結果、本当の人間関係に時間を使うほど、つまり『現実(リアル)に』人と会う人ほど幸福感を増していた。一方で、フェイスブックに時間を使うほど幸福感が減っていた。『私たちはSNSによって、自分は社交的だ、意義深い社交をしていると思いがちだ。しかしそれは現実の社交の代わりにはならない』研究者たちはそう結論づけている」

「10代を含む若者1500人を対象にした調査では、7割が『インスタグラムのせいで自分の容姿に対するイメージが悪くなった』と感じている。20代が対象の別の調査では、半数近くが『SNSのせいで自分は魅力的ではないと感じるようになった』と答えている。同じことが10代にも当てはまる。あるアンケートでは、12〜16歳の回答者の半数近くが『SNSを利用したあと、自分の容姿に不満を感じる』という。男子に比べ、女子の方がさらに自信が揺らぐようだ」

■デジタル・デトックスを


 米国の実験では、うつ症状のある人たちのSNS使用時間を減らしたところ、以前ほど気分の落ち込みや孤独を感じなくなった、という結果を示したものもあるという。

『スマホ脳』の中で著者、ハンセン氏は現代人に「デジタル・デトックス」を推奨し、いくつもの具体的なルールを提案している。たとえば、こんなルールだ。

「SNSは積極的に交流したいと思う人だけをフォローしよう」

 やたらと見る対象を拡げると、見なくてもいい、知る必要のない他人の私生活まで知ってしまうことになる。

 多くの場合、自分の人生と他人の人生の比較は幸福をもたらさない。かりに「自分より下」の人を見つけ、一瞬の満足感を得たとしても、ほぼすべての人にとって「自分より上」の存在がいるのだから。

 ビジネスには、そうした際に人の心に生まれる憧れ、あるいは妬みを利用するという面もあるだけに、今回のラッシュの決断はかなり思い切ったものだといえるだろう。あとに続く企業は現れるだろうか。

デイリー新潮編集部

関連記事(外部サイト)