元公安警察官は見た 民主党議員を手玉に取って詐欺的ビジネス……中国一等書記官のあり得ない行状

 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を17年務め、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、民主党政権時代に発覚したいわゆる「李春光事件」について聞いた。

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 今回は、中国大使館の一等書記官が立件された前代未聞の事件についてご紹介しよう。

「事件になったのは2012年5月のことです。当時は民主党政権でしたが、民主党には中国寄りの人が多かった。中国に対する警戒心もありませんでした。脇が甘かったと言わざるを得ません」

 と語るのは、勝丸氏。

「駐日中国大使館の李春光一等書記官が、鹿野道彦農水大臣(当時)らに農産物や衣料品の対中輸出の特別枠が得られる、中国でそれらを売らないかという話を持ち掛けた。民主党の人たちはその話を鵜呑みにし、トラブルになったんです」


■中国輸出促進協議会


 李は、2010年9月に民主党が政権を取って以降、経済担当書記官として、鹿野大臣や筒井信隆農水副大臣と何度も接触していた。そして彼らに中国の国有企業を紹介、中国へのコメ輸出拡大を柱とする覚書を交わした。さらに、農産物などの対中輸出の特別枠が得られるという話をしたという。

 その流れで2011年7月、農水省が音頭をとって一般社団法人「農林水産物等中国輸出促進協議会」が設立された。

 同協議会は、日本の農業団体や食品会社が北京の展示施設で農水産物やサプリメントを展示・販売するという計画を立て、参加を希望する企業から出資金を募った。同協議会の案内には、参加企業には、検疫条件緩和が期待できると記載されていたという。

 ところが参加企業は伸び悩み、出資金も思うように集まらなかった。同協議会は、結局中国へ1億4000万円送金したが、この計画は頓挫してしまったのだ。

「鹿野氏や筒井氏は、完全に李氏に騙されたわけですね。中国に送られた資金は、中国当局の諜報活動に使われたという見方さえあります」

 李は、中国人民解放軍総参謀部第2部に所属していたという。

「総参謀部第2部は、諜報機関です。そこで李氏はスパイの訓練を受けています。ただ、彼はいわゆるエリート外交官ではないそうです。外交官の身分を隠して外国人登録証明書を不正に取得して日本で銀行口座を開設、ウィーン条約で禁じるサイドビジネスを行っていました。つまり私腹を肥やしていたわけですが、それが事件になったきっかけでした」

■捜査線上に浮かんだ


 李は、都内の健康食品会社から顧問料、同社の関連会社から役員報酬も得ていた。さらに、千葉市内のアパートを約4000万円で購入。中国人を入居させ、家賃収入を得ていたという。

「実を言うと、公安部は李氏のことを2005年に発生した海上自衛隊の情報漏洩事件の頃からマークしていました」

 この事件は、技術研究本部(現・防衛装備庁)の元技官が潜水艦の船体工法などに関する部内向けの論文を日本人貿易業者に渡したというものだった。技官と貿易業者は北京で人民解放軍関係者と面会したため、警視庁公安部の外事2課は総参謀本部第2部の工作とみて捜査に乗り出した。

 公安は窃盗容疑で元技官の自宅を家宅捜査した。もっとも、流出した機密のレベルが低かったため自衛隊法での立件はできなかった。

「捜査の過程で、捜査線上に浮かんだのが李氏でした。彼はすでに日本の防衛関係者に人脈を築いていました。そのため外事2課は数年にも渡って李氏をマークしていたのです。李春光事件では、『農林水産物等中国輸出促進協議会』のことがメディアに報道されていますが、彼が本当に狙っていたのは防衛機密だったとみています」

 公安部は2012年5月中旬、外国人登録証明書を不正に取得したとして、外国人登録法違反と公正証書原本不実記載・同行使の容疑で李に出頭を要請した。しかし、5月23日、李は中国へ帰国。日本にはスパイ活動を取り締まる法律がないため、書類送検して事件は終了した。

デイリー新潮編集部

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