売れっ子子役から地下アイドル、AV女優に…営業職も始めた「27歳女性」が最近感じること

売れっ子子役から地下アイドル、AV女優に…営業職も始めた「27歳女性」が最近感じること

インタビューに答える紗里奈(仮名)さん

 映画の出演者にとって、撮影現場はとにかく待ち時間が多い。特に主演女優ではない「その他」のキャストの人達は。“脱ぎ役”としてオファーされたAV女優の紗里奈(仮名)と出会ったのも、ある映画の現場だった。【酒井あゆみ/ノンフィクション作家】

 実年齢は27歳。しかし、幼い容姿のせいか、21、2歳ぐらいしか見えない。だが、その幼いルックスとは裏腹にスラリとした長身だ。

 AV出身の女の子は、いわゆる一般映画の出演を極端に嫌がる。ギャラが格安な割に拘束時間が長いからだ。1日の撮影時間は朝6時集合で終わりがテッペン(24時)を超える場合が多い。「その他」の演者たちは、短くて10分、長くても1時間もない撮影のために、ほぼ一日、決められた場所で待機していなければならない。一応、台本は渡されるが、セリフなどはない場合が多い。

 一方、AV撮影はすぐに済む。極端な話、カラミのシーンを撮れたらそれで作品が出来てしまう。だから大半のAVプロダクションは一般作品の仕事を断るケースが多い。女の子を怒らせてしまうと、次の仕事に影響しかねないからだ。

 だが、紗里奈(仮名)は待ち時間でも、他の女の子と談笑していた。現場スタッフにしてみれば、そういう女の子が一人でもいるととても助かる。「待ち時間、長すぎるよね」などと一人の女の子が言い始めたらもう現場の空気が変わってしまう。

「私、子役からやってるんです」

 話を聞いてみると、そう返事がきた。現場の事情をよく分かっているようだった。興味をもって、後日、あらためて彼女に話を聞いてみることにした。


■「ステージママ」の導きで、芸能界へ


「ドラマのオーディションに受かったのが、芸能界入りしたきっかけです。0歳の時に、赤ちゃんモデルに母親が応募したらしいんです。ただ、記憶があるのは3歳の時からですね」

 そう語る紗里奈は東京都出身。高級住宅街で会社員の両親のもとに生まれた。3つ下に弟がいるという。

「家族とは今もすごい仲良しですよ。だから一人暮らしする意味がないので、実家暮らしです」

 子役をしながら、公立の小学校、中学校に通っていた。たまの撮影の際に学校を休むこと以外、いたって普通の子供時代を過ごしたようだ。

「母親が今で言う『ステージママ』ってやつで。コピーした地図片手に撮影現場に連れて行ってくれました。私から、じゃなくて母親がドラマなどに出したくて仕方なかったみたいです。私も別に嫌じゃなかったですし」

 当時共演した芸能人で記憶に残った方は?と聞くと、さる4人組女性アイドルグループのメンバーの名が返ってきた。いまは活動していないジャニーズグループのメンバーとは、ほぼ全員と現場で一緒になったことがあるそうだが、「子供ながらにオーラは感じなかったですね」。連続ドラマの端役が多かったが、もっとも大きかった仕事は、あるゲーム機のCMの主演。大ブームになった商品だったので、当時からあまりテレビを観る習慣のない私でもそのCMを覚えていたくらいだ。

「その時は嬉しかった、ですけど、いろんな仕事してたから。元宝塚の女優さんが主演のドラマにも出てました。ちゃんとセリフもあったんですよ」

 しかし、子役は大人以上に生き残るのが困難な世界――。しかも、紗里奈は顔が幼いのにどんどん身長が伸びてしまったのだ。撮影する側にしたら使いづらくなってしまう。あくまで子役は「幼くて小さい」のが第一条件なのだから。次第にドラマなどへの出演の機会は減り、所属プロダクションを変えながら、モデルの仕事にシフトしはじめる。


■地下アイドルを始めるも、稼げず、パパ活


 高校は芸能コースのある学校に進学した。同期には現在放送中のドラマにも出演している女優がいるが、「その子くらいであとはみんな売れませんでしたね」

 その頃、当時の事務所の企画で、アイドルグループに所属することになった。

「AKB48が出始めの頃で、色んなアイドルグループが誕生し始めていた時でした。私も地下アイドルのセンターの仕事が決まったんです。でも、本当は嫌で嫌で……」

 たとえ小さなグループでも、センターになりたくて整形を繰り返している女の子も大勢いる。はじめ彼女の不満はなかなか理解できなかったが、

「だって『地下』ですよ。いくら頑張ったってどうせメジャーには上がれないじゃないですか」

 子役時代から売れずにくすぶり続けていた“先輩”たちを見てきて、業界の現実を知っている彼女ならではの言葉なのかもしれない。

 とはいえ、不満を抱えつつも紗里奈はアイドルとしての活動を続けた。「レッスン代」「衣装代」の名目で所属タレントから搾取する悪徳事務所もあるなか、彼女のところはそうではなかったというから、地下アイドルとしては恵まれていたといえるかもしれない。しかし、多感な年頃でお小遣いが欲しかった。とはいえレッスンとステージで忙しく、アルバイトをする余裕もあまりない。

「ライブに来てくれたお客さんと有料チェキ(写真)を撮ると、その何割かは私の元に入ってくるんです。でも、1枚300円とかですよ。1ヶ月の最高額で1万円に達したことはなかったですね。何度かグループも変わって、一時期はオリコンランキングに顔を出すくらい売れたりもしたんですけれど……。やっぱり洋服とか欲しいものあったし、ライブの後の打ち上げで遊ぶお金も欲しかった。それで今で言う『パパ活』をしていました。携帯は他の子よりも早い時期に持ってたんで、アプリ使って。あ、でも、私だけじゃなくて周りの子にやってる子が多かったから」

 最初は「一緒にお茶」だけで5000円。「JK」のブランドで男性は群がってきた。しかし中には。

「この後、ホテルで1万円でどう? とか言ってくるオヤジ、すっごい多かったですね。なんでお茶、食事を一緒にするだけで5000円なのに、ホテルで1万円って……めっちゃ引いた」

 だが、だんだんと紗里奈もホテルに行くようになる。初体験は16歳の時、相手は同級生で「やってみる?」と好奇心で済ませていた。

「ホテルに行ったときにもらったのは、最高で5万円でした。なのに『次は2万円で良い』とか言ってくるんです。もちろん、2度と会わない。ブロックですよ。まぁ、『この人良いなぁ』って思っても2回目は全くなかったですね」

 ときどきパパ活でお小遣いを稼ぎつつ、高校に通いながら地下アイドルもつづけた。じつは年上のファンと付き合ってもいたそうだ。

「おじさんばっかりのファンのなかで、その人は若かったから(笑)。3、4年付き合いましたよ。あっちは会社員で一人暮らしだったけど、同棲するとかは全くなく。私、実家が好きなんで」


■バイト先にスカウトマン


 そうして高校を卒業したが、就職はしなかった。彼女にとって仕事は「芸能」以外は考えられなかった。それでも毎日、仕事があるわけではない。空いている時間に、六本木界隈の芸能人御用達のBARでアルバイトをするようになる。結局3年以上つづけたアイドル活動には見切りをつけ、辞めていた。

 紗理奈が働いていたBARの常連が、AVのスカウトマンだった。彼女も声をかけられたが、はじめは断った。それでもしつこく通っては口説いてきた。

「話だけでも良いから、って言われてたから、話聞いてみて嫌だったら断ろう、って思うようになってきて。それで事務所に行ったんです。そしたら凄いビックリしたんです。『明るい』というか『普通』の雰囲気で。AV業界、その事務所ってもっと暗い、ドロドロしたところだと思ってたんで……」

 事務所に行った日、紗里奈は「やってみようかな……」と返事をした。その翌週にはAVメーカーの面接をめぐるスケジュールが組まれ、その次の週には初仕事が決まった。

「もう。あっという間でしたね。初めてのギャラですか? 5万円です。2時間くらいで終わったんで。でも正直、『安いんだなぁ』って思いましたね。1カラミだけで、内容もソフトだったのもありますけど」

 『安いギャラ』でも、彼女はAVの仕事は辞めようとは思わなかった。ここにも子役や売れなかったアイドル時代の影響がある。

「だって『主役』『主演』なんで。私にとってAVでも地上波のドラマでも『作品』であることには変わりありません。演じることは同じなんです」

 AVはいいけれど風俗店では働きたくない、というのもこうした考えがあるためだ。彼女にとって、男優は「作品」のための共演者。だが風俗の客はそうではなく、行為も「作品」にはならない、からだ。

 気になるのは家族の反応だ。

「はじめての撮影から帰ってきて、親に言いました。『AVに出てきたから』って。実家暮らしですから、『今日はどこ行ってたの?』とか聞かれてそのうちバレちゃいますからね。親はびっくりしていましたけれど、『ドラマとか撮るのと同じだから』って説得して。アイドル辞めてからバイト以外何もしていなかったから、仕事をし始めたことで、そこは安心だったみたいです」

 まさかの即日親バレである。いまでは友人も皆、彼女がAVに出演していることは知っている。初対面の相手がいる飲み会でも「はじめまして、AVの仕事やってまーす」と隠さないそうだ。


■月に1本のペースで撮影、そして意外な“副業”も…


 紗理奈が企画女優として活動をはじめ、3年以上になる。いくつかの芸名を使い分け、出演作数は100本以上の作品に出ている。彼女のような企画女優は複数の女優が出演するのが一般的で、しかも彼女が出るのは、ここで書くのがはばかられるようなハードな内容ばかり。だが、あっけらかんとしている。

「AVの仕事って、最初の数ヶ月で仕事が切れて無くなるのが当たり前なんです。続けて行くにはNGを減らすことしかない。つまり、他の女の子が嫌でやりたくないことをやっていくしかないんですよね。そういうことを続けているうちに分かってきて。NGだと思った仕事も『意外と平気じゃん』ってなって。それで今では月に一本のペースで仕事はきます」

 そして実はいま、ある大手企業の営業職として働いている。間もなくボーナスが出るのが楽しみだと言う。

「きっかけはコロナで現場が全部バラシになったからですね。『AVなんてすっごい濃厚接触しかないじゃん』って。コロナの終息なんて誰も分からないじゃないですか。その時に、昔から付き合いがあった方から来ない?って誘われたんです。営業だから結果さえだせば時間の自由が利くし、ということで。さすがに職場の方々にはAVに出ていることは伏せていますけれど」

 趣味は貯金。都内の中古マンションが軽く買える金額が貯まっているという。最近の20代、30代の女性を取材すると、彼女のように、生活には何の苦労もない実家住まいの子が多い。かつての私がそうだったように、地方から出てきて生活のために“究極の選択”として売春をする女性たちの立場がないではないか……。

 話を聞く限りでは、アダルトの仕事にも誇りをもってやっているようだ。でも、何故だろうか。彼女は「日常生活」でも何かを演じているように見える。その「演じる」ことを糧に生きている。

「会社員になって余計にAVとかが自分の中で大きくなって。会社員の仕事って誰でも良い、私じゃなくても全然良い。でも、撮影は私じゃなくちゃいけない。作品の中で常に必要とされていたいんです」

 別れ際にそう言った彼女の言葉。それすらもどこかに書いてあった言葉にしか思えない。彼女の言うことは「台本」のセリフにしか感じないのは、私だけだろうか。

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』ほか、主な著作に『売る男、買う女』『東電OL禁断の25時』など。Twitter: @muchiuna

デイリー新潮編集部

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