日本は及び腰の「中国の弾圧」問題 在日のウイグル人ら訴え、中国公安はメールで恫喝

 中国共産党の元幹部からの性的暴行を告発して行方不明となった女子テニス選手の彭帥(ほう・すい)さんの問題を巡り、欧米諸国は来年2月に開催予定の北京オリンピックの外交的ボイコットに向けた動きを見せている。だが、日本の岸田文雄首相は「日本は日本の立場で」と腰が引けている。ウイグル人などに対する弾圧政策も国際問題化している。日本だけ政府高官をのこのこ出かけさせ国家主席の習近平と握手させては、中国に免罪の手を差し伸べることになる。【椎谷哲夫/ジャーナリスト】

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 筆者は宮沢内閣時代の平成4(1992)年に、当時の天皇陛下の中国ご訪問に担当記者として同行した。ご訪問を前に「陛下はまだ国内で沖縄だけは訪問されていない。そちらが先ではないか」との趣旨をコラムに書いた。当時の政府首脳や外務官僚らは中国ご訪問について「保守強硬派を半年かけて説得した」と胸を張ったが、結局はあの天安門事件(1989年)で世界中から総スカンを食って孤立していた中国に手を差し伸べて、真っ先に免罪符を与えただけではなかったのか。その後、中国が反日運動を煽るなど日本に対してどんな仕打ちをしたのも忘れてはいけない。そしてウイグル人らに対するジェノサイド(集団殺戮)とも指摘される弾圧を、見て見ぬふりをしているのが日本だ。30年前と同じ轍を踏むことは許されない。

■「私たちは消されようとしている」――在日ウイグル人女性の叫び


 11月13日、東京都内で「アジアの民主化を促進する東京集会」が開かれた。チベット人(チベット自治区)とウイグル人(新疆ウイグル自治区)、そして南モンゴル(内蒙古自治区)の女性たちが敢えて素顔を晒し、彼女たちにとっての“母国”が中国に弾圧されている悲惨な実態を訴えたのだ。

 チベット仏教の僧や尼僧が弾圧を受けている実情を語ったのは、チベット人のソナム・ギャルモさん。同化政策で矯正施設に送られた尼僧が中国当局から性的暴力を受けていることも明らかにした。

 日本に滞在して16年になるウイグル人のグリスタン・エズズさんは、中国政府が推し進めて来た「一人っ子政策」が民族弾圧にも使われ、これに反した女性は無理やり中絶させられていると明かした。さらにはウイグル人女性が中国人(漢民族)の男性と強制的に結婚させられていると訴え、集団結婚式の写真や、男性に“報償”として与えられる車が並ぶ写真を掲げた。

 さらには臓器売買目的で、ウイグル人の中学生(男女)が襲われて内臓をえぐられ畑に埋められていた事件もあったという。事件を告発した男性は警察に連行されたといい、「あれだけ多くの監視カメラがあるのに犯人は捕まらない」と嘆く。そして、

「私たちは消されようとしている。消えた後で歴史の教科書に載せてもらっても何の意味もない」
「日本の国会はミャンマーに対しては非難決議を行ったのに、なぜ中国にはできないのか」

 と怒りをぶつけた。

 この集会とは別に、10月29日には東京・立川市で、千葉大学非常勤講師を務めるウイグル人女性、ムカイダイスさんによる「在日ウイグル人が語るウイグル・ジェノサイドの真実」と題する講演も開かれた。ここでも呼びかけられたのは日本国民への連帯である。

 ムカイダイスさんは、東京大学に留学している知人のウイグル人女性(30代)の経験について語った。現地の友人らが受けている中国当局からの人権弾圧の実態をゼミで報告したが、誰も信じてくれなかったというのだ。日本人がいかにウイグル問題を理解していないかの証拠であり、「中国の国内問題」としてしか報じないマスコミの姿勢も関係していると、ムカイダイスさんは言う。ウイグルの研究をしている日本の学者は少なくないものの、「中国の機嫌を損なうと中国に行き来できなくなるから、弾圧されている現地の実情を伝えようとはしない」と言うのだ。


■これが中国の公安が南モンゴル出身女性に送ってきた恫喝メールだ!


 11月13日の集会ではさらに、20年前に留学で来日した南モンゴル人のヒヤン・オランチメグさんの発言もあった。日本人の夫がいて永住権を持っているが、故郷の南モンゴルにも家族がいるという。その南モンゴルでは昨秋、教育改革と称して「国語」の教科書がモンゴル語から中国語に変わったというのだ。さらに歴史の教科書も、道徳の教科書も中国語表記に換えられようとしており、中国共産党による同化政策が激しさを増しているという。

 彼女は今回、意を決してウイグル人やチベット人の女性たちとともに集会で顔を晒したが、その数日前から、南モンゴルの公安当局からのメール、電話が、ひっきりなしにかかって来たという。集会当日に送られてきたメールには、こんな威圧的な言葉が中国語で書かれていた。

〈あなたが今後、国家の利益にならない活動には参加せず、仕事に励んで安らかな日々を過ごすことを希望する〉

 オランチメグさんは、このメールを送った公安も同じ故郷の南モンゴル人で、仕事だから仕方なくやっているのだろうと気遣う。が、「向こうにいる友人たちから私の動向を聞き出したのかもしれないが、日本でも私を監視している人物がいるとしか思えない」と不安を口にする。

 ところで、オランチメグさんは故郷を「南モンゴル」と呼び、中国当局がつかう「内モンゴル」の呼称を避けるのはなぜか。内モンゴルと外モンゴルという名称は、漢民族を中心とする中国人が「内側か外側か」で区分けしたものであり、モンゴル人にとっては受け入れがたいものだからである。今年4月に設立された国会議員による支援組織も「南モンゴルを支援する議員連盟」(南モンゴル議連)と称している。


■中国国内に張り巡らされた無数の監視カメラが少数民族の虐待に使われている


 オランチメグさんが「監視」を恐れるのももっともだ。中国は言わずと知れた監視社会。それを支えているのが、2019年時点で2億台と言われる監視カメラである。交通監視用も含めれば既に7億台近くになっているのではないかとの見方もある。日本の監視カメラは500万台と言われるが、事実だとすれば中国では2人に1台の割合でカメラが設置されていることになる。

 それも、北京や上海など大都市ばかりではない。テロ防止の名目で、チベットやウイグルなどの自治区の高原や山間部にも、カメラは張り巡らされているという。高度の顔認識技術と組み合わせれば、瞬時に“要注意人物”の動向を探ることができる。2020年には米国の超党派の上院議員らが、当時のポンペオ国務長官に「中国は、顔認識技術を利用して個々のウイグル人の特徴を分析し、民族性に基づいて分類したうえで、追跡や虐待、拘留の目的で彼らを選別している」とする書簡を送っている。

 日本の民放TVのニュースで放送される事故や犯罪の“衝撃シーン”は、中国からのものであることが多い。監視カメラの映像を使っているからである。TV局関係者によると、中国の配給会社が当局から集めた映像をビジネスとして使っているようだ。


■中国の人権侵害非難決議から逃げた自民・公明の党執行部の罪


 こうした状況に対し、非難決議さえできないのが今の日本だ。国会では今年6月、各党が全会一致での対中非難決議の採択を目指したものの、最終的に見送られた。立憲民主党や日本維新の会は決議案を了承したものの、肝心の自民党や公明党が党内手続きが終わらないという理由で採択を避けたからだ。要するに、当時の自公の党執行部が中国共産党政権の反発を恐れたということにほかならない。小国のミャンマーに対するクーデター非難決議はすんなり採択しておいて、大国の中国への非難決議からは逃げたということである。

 今年3月、公明党の山口那津男代表は記者会見で、新疆ウイグル自治区でのウイグル人に対する人権侵害についてこう語っている。「我が国が制裁措置を発動するとすれば、人権侵害を根拠を持って認定できるという基礎がなければ、いたずらに外交問題を招きかねない」。「認定できるという基礎」とはどういうことか。欧米諸国がこれだけ明確に人権侵害を問題にしている中、政権を担う政党の党首として、その根拠を探す努力をしたのか。中国が自ら人権侵害を認めるまで待つとでも言うのだろうか。

 6月下旬になって、中国大使館での勤務経験があるという大阪の公明党の伊佐進一衆院議員が、自身のYouTubeチャンネルで、山口代表の発言を“エクスキューズ”していた。おそらく同党への批判が噴出したことを意識してのことだろう。しかし、その内容はひどいものだった。

「(山口代表の)主旨は、日本は欧米のような諜報機関がないんですよね。だから判断に足る情報を果たしてどこまで持ってんのかと(ということ)」

 挙句、

「米国だって他人(ひと)のこと言えない、黒人に対する取締りとか――」
「日本だって、LGBTの人たちの人権が本当に守られてんのか――」

 と言い訳に終始するのである。6月15日に東京・中野区議会が中国による人権侵害を求める意見書を可決した際、公明党の会派だけが反対したのは、この党の消極姿勢をあらわす象徴的な出来事だった(兵庫県議会が6月9日に日本政府に中国の人権侵害の実態調査の実施を求める意見書を採択した際には、公明党を含む全会一致だったが)。

 さすがに10月の総選挙では公明党も公約にこう記した。「中国における人権や基本的自由の尊重について国際社会から具体的な懸念が示されており、公明党も共有している」。「人権の実現を至上の目的価値とする」ことを標榜する公明党である。公約に嘘がないのであれば、自民党を巻き込んで国会で一刻も早く非難決議を採択すべきなのではないか。


■中国の人権問題に腰が引けたのか? 岸田首相は地元広島の日中友好協会会長だった


 岸田首相は11月19日、バイデン米大統領が来年2月の北京冬季五輪の外交的なボイコットを検討していると表明したのを受け、「それぞれの国でそれぞれの立場があり、考えがあると思う。日本は日本の立場で物事を考えていきたい」と述べた。強まる中国包囲網に気を揉む中国共産党は、さぞやほっしたことだろう。その岸田首相は総理になる直前まで、選挙区のある広島県日中友好協会の会長を足かけ4年ほど務めていた。

 日中友好協会の会長は、伊藤忠商事の社長や会長を務め民主党政権(菅直人首相)下で中国大使に抜擢された丹羽宇一郎氏が務めている。東京都が尖閣諸島購入のために募った寄付金が続々と集まっていることについて「日本の国民感情はおかしい。日本は変わった国」「もし計画が実行されれば日中関係に重大な危機をもたらす」などと発言した正真正銘の親中派である。

 日本国内には以下のように、日中友好協会を含め主な対中友好団体が7団体ある(日中友好会館、日中友好議員連盟、日本中国文化交流協会、日中経済協会、日中協会、日本国際貿易促進協会)。これらの団体について、麗澤大学特別教授の古森義久氏はネット配信の「JBpress」(2021年11月17日)で、ワシントンの研究機関「ジェームスタウン財団」が2019年に発表した「中国共産党による日本での影響力作戦についての予備調査」に次のような趣旨の内容があったことを指摘している。

「友好団体側は、統戦部との協力や接触に気がつかない場合もあり、違法活動をしているというわけでもない。だが、統戦部側は日本側の政界や世論への影響力行使のために常にこれら友好団体を利用しようとしている」

「統戦部」とは、中国共産党中央委員会の直属の「中国共産党中央統一戦線工作部」を指す。国内外のチベット人やウイグル人などの活動監視や工作などにも関わっているとみられている。

 こうした団体との関りと、岸田首相の中国の人権問題に対する曖昧な態度とを結び付けて考えたくはないのだが。

椎谷哲夫(しいたに・てつお)
ジャーナリスト(日本記者クラブ会員)・皇學館大学特別招聘教授。昭和30(1955)年宮崎県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、早大大学院社会科学研究科修士課程修了。元中日新聞社(東京新聞)編集委員。警視庁、宮内庁、警察庁担当、販売局次長などを経て、編集委員を最後に退職。著書に『皇室入門』(幻冬舎新書)など。

デイリー新潮編集部

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