元公安警察官は見た タレコミは9割以上ガセ、それでもバカにできないマジネタの具体的事例

 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を17年務め、数年前に退職。9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、公安警察に寄せられるタレコミ(情報提供)について聞いた。

 ***

 タレコミと聞くと、刑事警察ではよくありそうなことだが、公安でも決して珍しくないという。

「警視庁の代表番号に電話をかければ、受付の人が各部署に電話をまわしてくれます。中には公安部の組織を熟知していて、受付に『公安部外事1課(ロシア担当)をお願いします』と言う情報提供者もいます」

 と語るのは、勝丸氏。

「もっとも、タレコミの9割以上ガセ情報です。しかし、ごくたまに『マジネタ』もありますので馬鹿にできません」


■日本企業の情報を外交官に


 ある時、男性から「大事な話があります」と電話があったという。

「詳しく話を聞くうちに、彼は東アジアの外国人だということがわかりました。ガセ情報ではないと確信が持てたので、警察署に来てもらって話を聞くことにしました。勤務する日本企業の情報を母国の駐日大使館にいる外交官に謝礼と引き換えに渡していたそうです」

 最初は、企業紹介のパンフレットといった特に問題のなさそうなものを提供していたという。

「企業のホームページにあるような公の情報でも、謝礼として3000円相当の図書券や商品券をもらっていたそうです。当初彼は、こんな情報でも謝礼が貰えると喜び、しばらく、そういうやり取りが続いたといいます」

 ところが、月日が経つにつれ、徐々に謝礼の額が上がっていったという。

「高級レストランに招待され、現金を渡されるようになった。代わりに要求もエスカレートし、企業が独自に開発した技術や機密事項に関する情報が求められた。それを拒否すると、『ここまでやってきて、逃げられると思うか』と脅されたそうです」

 怖くなった男性は、公安に連絡してきたのだった。

「男性は外交官と10年近く接触していたそうです。私は当時、公館連絡担当班だったので事情を聞きましたが、この案件は東アジアを担当する外事2課に引き継ぎました」

 結局、情報漏洩は機密性の高いものではなかったので、事件化することはなかった。

「公安が捜査を行ったということで、その後外交官が男性を脅迫するような動きもなかったといいます。ただ、男性は会社に居づらくなり、一身上の都合で退職しました。実を言うと、このような外交官や大使館の職員が関係する犯罪行為のタレコミは、枚挙にいとまがありません」

■大使館の職員が営む「地下銀行」


 タレコミ情報をもとに捜査したところ、ある国の大使館職員が「地下銀行」をやっていたことが判明したこともある。

「地下銀行を営むのは、ベトナム人やフィリピン人が多いですね。正規の海外送金の手数料より安く送金できるし、何よりも税務当局から金の流れを把握されないというメリットがあります」

 地下銀行は、たとえば彼らが行う場合、母国にある自分の銀行口座に資金をプールしておく。送金の依頼があればお金は現金で受け取り、ネットバンキングで母国にある自分の口座から送金先の口座に振り込むというシステムだ。正規の海外送金手数料は最低で5000円以上かかるが、地下銀行だと手数料は1回の送金で1000円程度となっている。

 地下銀行で海外へ送金すれば無免許による為替取引となり、銀行法違反で3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が課せられる。

「日本に滞在する外国人が地下銀行をやるケースはよくありますが、大使館の職員となると社会的信頼もあるので、多くの依頼がある。中には、マネーロンダリングのために暴力団がこれらを利用するケースもあります。そのため厳しく取り締まる必要があります」

 不正送金に手を貸す外交官もいるという。

「外交官は、外交特権によって外交行嚢(こうのう・通称外交パウチ)と呼ばれる入れ物で航空便や船便で毎日のように母国と日本の間を行き来させています。この荷物は、一度封印してしまえば空港の保安検査や税関検査で開けられることがないので、これを使って現金を送ることが可能です。しかし、これには警察が手を出せないので、立件は極めて難しいと言えますね」

デイリー新潮編集部

関連記事(外部サイト)