ドン逮捕で日大「加藤新理事長は辞めろ」は田中派の思うツボ 田中派が考える巻き返し策とは

ドン逮捕で日大「加藤新理事長は辞めろ」は田中派の思うツボ 田中派が考える巻き返し策とは

12月10日、田中英寿日大前理事長の逮捕を受け、記者会見を行う加藤直人学長兼理事長

 日本大学の改革は本当にできるのか? 記者会見後の反応を見ると、懐疑的、批判的な論評が多い。最たるものは、「田中(英寿)前理事長に選ばれた加藤直人学長兼新理事長に改革できるわけがない」「加藤理事長にその資格があるのか?」という指摘だ。【小林信也/スポーツライター】


■「訣別」と言えた人はひとりもいない


 たしかに、加藤氏が記者会見でも回答したとおり、『ちゃんこ田中』に何度か足を運んでいた人だ。会合の場所だからそこに赴いたのだという主張は分かるが、田中体制の一翼を担っていた事実と責任は動かしようがない。しかし、今回逮捕された井ノ口忠男被告や『日大アメフト危険タックル問題』の当事者だった監督、コーチのように、利権構造の中にいたかといえば、彼らとは田中前理事長との関係性やその濃さが違うだろう。いわば、田中派だとしても外様の存在だ。

 私は、記者会見を学内の人はどう見たのか、アメフト問題の際に大学と理事長の対応や体制に厳しい批判を投げかけていた教授に話を聞いた。

「正直言って、驚きました。『田中と訣別する』と加藤さんははっきり言いました。よく言った、と思いましたよ。これまで、田中に対して『訣別』とまで言えた人はひとりもいませんでしたから」

 多くのコメンテーターや世論は、「口先だけで本当にできるのか?」といった反応だったが、学内の教職員にとって、まずそれを言ったこと、言葉だけでも衝撃的であり、変革の幕開けを強く実感させたようだ。

 教授はさらに続けた。

「次に、精査の上とはいえ、『日大事業部の清算』を明言しました。私もそうだし、多くの先生方が『解体すべき』と思っていた事業部の解体を加藤さんが宣言した。それはもう高い評価を得たと思います」

 これまでの田中前理事長と加藤氏の関係や距離を問う以前に、『田中との訣別』と『日大事業部清算』を最初に示した記者会見は、ずっと大学の体制に不満を抱き、改革を求めていた教職員の前に希望の光を灯したのだ。


■「意識が変わったのなら大きな前進」


 12月15日には、臨時評議員会が開かれ、『田中前理事長の評議員職の解任』が決議された。3日に理事を解任されたのに続いて、またひとつ日大の公職を解かれ、『田中追放』は着実に進んでいる形だ。

 今回注目すべきは、解任決議に反対がゼロだったことだ。田中前理事長の理事職解任決議を可決した理事会では賛成26に対して、「反対6」という数字が関心を集めた。脱税容疑で逮捕され、数々の疑惑が深まったにも関わらず、理事解任に反対した理事が6人もいた事実。田中支持の根強さを示すのか。あるいは理事長を解任されてもなお田中が怖いのか。田中への忠誠を示さねばならない6名と田中とはどんな関係なのか?

 加藤理事長の招集で午後2時から日本大学本部で開かれた臨時評議員会には、評議員121名のうち、欠席1名、委任状による出席者15名を除く、105名が出席した。欠席は田中前理事長ということだろう。委任状での出席者は、議長を務めた加藤理事長に「一任」だから、採決においては加藤氏の意見に賛同する形だ。採決の結果は、賛成119、棄権1で解任が決議された。棄権1はやはり賛成に投じられない人がいたことを表しているのだろうか。しかし、理事会で反対票を投じた6名全員が評議員でもあるのだが、そのうち少なくても5名が今回は賛成したことを意味している。

 評議員のひとりはこう語っている。

「理事解任に反対した6人の理事がメディアでも強く非難されていました。そのおかげというか、日大はもう絶対に改革しなければ世間の信用を回復できない、ようやくそういう認識に変わったとすれば大きな前進だと思います」


■校友会長の解任も必須のステップ


 これは実はすごく重要な点だ。田中前理事長はもうひとつOB会組織のトップである『校友会長』の職にある。校友会長は『校友会枠』で選ばれる8名と言われる理事選任に深く関与できる。アメフト事件で辞任した井ノ口被告が2年後に易々と理事に復帰できたのも『校友会枠』で推薦されたからだ。だから次は当然、校友会長の解任も必須のステップだ。

 臨時評議員会でも評議員のひとりが加藤理事長に、「一部のテレビ番組で校友会長を解任されたか除名されたと報道があったが本当か?」と質問したところ、加藤理事長は、「他の組織のことは発言を控えたい」と答えたという。つまり、いかに現状、田中前理事長が築き上げた強大な権力を田中に変わって保持している加藤理事長にしても、『校友会長解任』までは自ら手を下せない。校友会の中枢を担っているのが、理事会で理事解任に反対票を投じた6名ではないかと見られている。

 要するに、この6名が現状を認識し、田中追放やむなしの結論に至って行動しなければ、校友会長留任の可能性はゼロではない。


■「加藤さんが一存で喋った」


 これに関して、私は日本大学の校友で現在も大学と関わりのある人から、新しい事実を聞かされた。

「理事会で6人が反対に投じた後、加藤さんが田中前理事長に代わって校友会の中心になっている人物と直接、膝詰めで話し合って協力を取り付けたと聞いています。田中前理事長と完全に訣別しないと、日大の未来がなくなると説得したそうです」

 加藤理事長は、記者会見で宣言しただけでなく、すぐに行動も起こしていた。田中復権あるいは田中復権をもくろむ中心とも見られる校友会幹部に働きかけていたのだ。それがあっての、「全員一致で評議員解任」だったのだ。

 田中派と言っていい加藤理事長で改革できるのか、という批判に対して、その人はさらにこうも教えてくれた。

「記者会見で田中前理事長との訣別と永久追放を宣言しました。あの文言は、事前の打ち合わせにはなかったと言うんです。あの場所で、加藤さんが一存で喋ったらしい。加藤さんが覚醒しちゃったんでしょうかね。それを聞いて、大学内部の人間がいちばん驚いてひっくり返ったそうです」

 あの言葉は、加藤氏自身と田中前理事長との訣別宣言でもあったのかもしれない。


■大学の自浄能力も発揮したい


 そうした加藤氏の覚悟が学内の教職員に伝わったのだろう。取材に応えてくれた教授はこうも語った。

「これまで田中体制で学長だったことは脇に置いて、田中との訣別をはっきり宣言した加藤さんを支援して、改革を進めるのがいま私たちの取るべき行動だと思っています。なぜなら、加藤さんを田中派と言うなら、現理事は全員が田中派です。評議員もほとんどが田中派。うっかりすれば、ミニ田中が要職について台頭する可能性もないとは言えないのです。そういう意味では予断を許しません。

 だから、『加藤理事長はすぐやめさせるべきだ』といった世論が高まってしまうのは、むしろ心配です。今や田中派の最大の敵は加藤さんです。はっきりと訣別と追放を宣言した加藤さんを追い出して利を得るのは田中派かもしれません。いつのまにか、田中派の誰かが実権を握ることになれば、それが最悪のシナリオです」

 来年1月には、外部有識者を中心に組織する「日本大学再生会議」が発足し、改革への具体案が検討される。日大の教授有志の間では、「外部の有識者だけにすべて任せるのでなく、大学の自浄能力も発揮したい。これまでのように体制を批判するだけでなく、具体的にどんな改革が必要なのか、『再生会議』への提言をまとめようという声も上がっている」という。

 次の注目は、「誰が再生会議のメンバーを託されるのか」だ。田中派復権を画策する田中配下の校友や職員たちは、すでに自分たちの意を汲んでくれる外部有識者を推薦し、送り込む動きも始めているという。さらに、反田中を明確にした加藤理事長への敵視を深め、加藤おろしの画策も水面下で行われているとの噂もある。改革実現の道のりはまだ盤石ではない。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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