元公安警察官は見た 南アジアの某駐日大使館のパーティーで毎年“暴動”が起きるワケ

 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を17年務め、数年前に退職。9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、毎年喧嘩騒ぎが起こるある駐日大使館のレセプションについて聞いた。

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 駐日大使館のナショナル・デー・レセプションで、毎年のように殴り合いの喧嘩が起こる困った国がある。念のために言っておくと、ナショナル・デーとは、独立、建国、革命などの国家の記念日のことだ。

「南アジアのこの国は与党と野党が激しく対立し、選挙のたびに揉めるのです」

 と語るのは、勝丸氏。かつて外事1課の公館連絡担当班に所属していた同氏は、大使館や総領事館との連絡・調整を主な任務とし、日常的に外交官と接触していた。

「日本で暮らすこの国の人々も、与党支持派と野党支持派で対立していました」


■政治談議好きな国民性


 この国は1990年代以降、与党と最大野党が交互に政権を担っていた。二大政党の対立が激化したきっかけは2011年。与党の首相が中立的立場を持つ選挙管理内閣による総選挙を定めた憲法の条項を撤廃したことだった。

 これに反発した野党が選挙の不参加を表明。首相の辞任と選挙管理内閣の設置を求めて手製の爆弾を爆発させるなど過激な抗議活動を繰り返し、治安部隊との衝突で150人以上が犠牲になっている。2014年に行われた総選挙では、野党が選挙をボイコットするという異常事態になった。

「5年ほど前の話です。毎年12月に開かれる独立記念日のレセプションは、大使館で開かれます。この日ばかりは与党支持者も野党支持者も分け隔てなく、50人ほどの人たちが大使館に集まって一緒にお祝いをするのが恒例となっていました。ところが、その時は政治談議好きな国民性ゆえに、人が集まるとあちこちで議論がはじまったのです」

 やがて、与党支持派と野党支持派の間で口論となり、もみ合いになったという。

「少しすると、殴り合いが始まりました。壁にかかっていた絵の額装が叩き割られ、カーテンも引き裂かれました。まるで暴動が起こったような騒ぎとなり、大使館の人が管轄の警察署に通報。逮捕者こそでませんが、警察官が騒ぎを収束させたのです。以来、殴り合いの喧嘩は毎年のように起こりました」

 なんとも物騒なレセプションである。来賓がいる前でこんな醜態をさらすのは大使としても面目丸つぶれのはずである。そこで、日頃から各国の大使館と付き合いのあった勝丸氏に連絡がきたという。

「大使から、レセプションで喧嘩騒ぎにならないようにするにはどうしたらいいか相談を受けました。私は大使に『騒動を起こした人物を排除すべきだ』とアドバイスしました。大使は納得したようでした」

■「オー、ウェルカム」


 翌年、大使館の入り口に職員と警察官を配備して、前年のレセプションで騒ぎを起こした人物を中に入れないようにしたという。

「大使館の入口には、問題の人物の顔を知っている職員を配置しました。ところが、大使はすべての職員に、問題人物を排除せよという方針を伝えていなかったのです。レセプションが始まり、騒ぎを起こした人物が現れると、『オー、ウェルカム』と言う職員がいたのです」

 むろん、大使から問題人物を入れるなと指示を受けた職員は『君は入れない』と言って制止したという。

「それを受けて、警察もその人物を中に入れないようにしました。入場を拒否された人物は『毎年レセプションに来ているのに、なんで入れないんだ。あの職員はウェルカムと言ってくれたぞ』と言って、また騒動になりました。中に入れろ、入れないの小競り合いになり、入場を拒否した警察官の胸倉がつかまれる事態となったのです」

 この騒動に、さすがの勝丸氏も呆れかえった。

「大使に『なぜすべての職員に問題人物排除の方針を伝えなかったのか』と抗議しました。激しやすい人たちを抑えるのは非常に難しいですね。この国では、選挙のたびに野党支持者が投獄されるなど、日本では信じられない事が起きます。与党と野党の対立の根は深いですよ」

 2018年にあった総選挙でも各地で暴動が起こり、少なくとも18人が死亡、200人が負傷した。現在も与野党の対立は続いていて、レセプションも相変わらず暴力沙汰が起きているそうだ。

デイリー新潮編集部

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