政府はコロナ対策で病床数を大幅に増加させたと言うものの…医療現場から聞こえてくる冷ややかな声

政府はコロナ対策で病床数を大幅に増加させたと言うものの…医療現場から聞こえてくる冷ややかな声

政府はコロナ対策で病床数を大幅に増加させたと言うものの…(※写真はイメージ)

 新型コロナの新たな変異型(オミクロン型)の国内初の市中感染が、12月22日確認された。オミクロン型はデルタ型に比べて重症化リスクは低いものの感染力が高いとされている。新型コロナの感染状況について分析する厚生労働省の専門家会議は「感染拡大が急速に進むことを想定すべき状況にある」との危機感を示した。入院患者が再び急増し医療体制が逼迫する懸念が生じているため、厚生労働省は各都道府県に対し医療体制の点検を強化するよう要請した。

 デルタ型の流行による今夏の第5波の際に最大で約2万8000人の入院が必要となった教訓を踏まえ、政府は11月中旬に「第6波で入院患者がさらに3割増加すると想定し、3万7000人分の病床を用意する」ことを明らかにしていた。感染のピーク時でさえ確保病床の使用率が6〜7割にとどまり、病床が空いているはずなのに入院できない「幽霊病床」が問題になったこともあって、病院ごとの病床稼働状況を12月から毎月公表(見える化)し、ピーク時の使用率を8割以上に高めるとしている。さらに医療逼迫が見込まれる場合には、大都市など感染拡大リスクが高い地域に医療人材を派遣するよう、それ以外の地域の病院に国が要求・要請することも確認されている。

 政府の新たなコロナ対策を受けて、厚生労働省は国や自治体が病床や医療人材を確保しやすくするため迅速な要請や指示ができるように、来年の通常国会に感染症法の改正案を提出することを予定している。改正案では、感染症の拡大時にどれだけの病床数をどの程度の準備期間で確保できるかなどを把握するため、自治体と医療機関が平時のうちから協定を結ぶ仕組みを定めている。公立や公的病院に対しては協定締結を義務付け、協定の内容に沿った対応を義務化する。民間病院についても協定締結の協議に応じることを義務付けるとしている。

 だがオミクロン型の市中感染の発生により、時間の猶予はなくなりつつある。


■医療現場からの冷ややかな声


 米国の新型コロナ感染者のうち、オミクロン型の割合は11日の12.6%から18日には73.2%となったという。1週間で5.8倍に膨れ上がったことになる計算だ。この感染拡大の速さを前提に試算すると、東京の1日当たりの感染者数は1月中旬に6000人を超え、第5波のピークの数字を上回るという。オミクロン型の重症化リスクが低ければ入院患者数のピークは第5波を上回らないかもしれないが、油断は禁物だ。

 政府は「コロナ病床数を大幅に増加させた」としているが、医療現場からは「病床を増やしてもスタッフ不足の状況は変わらない」との冷ややかな声が出ている。

 コロナ病床における看護師不足が指摘されているが、日本全体で看護師が不足しているわけではない。2018年時点の日本の看護師数は人口1000人当たり11.8人と、OECD加盟国平均の9.0人を上回っている。一部のコロナ患者受け入れる病院の看護師たちが必死に頑張っている状況なのだが、後述するように、政府が病院に対して強制的な措置を強いることができない日本では「言うは易し、行うは難し」だ。

 民間病院が多いこともコロナ対応の障害になったと言われている。政府のコントロールが届きやすいとされる公立・公的病院の比率がわずか2割であるのは事実だが、民間病院が多くても、米国のように非常時に大統領や知事が緊急命令を発出して、病床確保を民間病院に命じられる制度があれば、公立・公的病院の割合が少なくても対応できる。韓国の医療制度は日本とよく似ているが、韓国政府は感染拡大の際に重症病床を確保するための行政命令を出す権限を有している。

 これに対し、日本では非常時でも民間病院に対して行政命令を出すことができない。コロナ禍が深刻化した折に「協力要請だけでよいのか」との議論が生じたものの、医療界の猛反発に遭い、今年2月の感染症法改正でも行政命令にまで踏み込むことできなかった。来年の通常国会に提出される感染症法改正案でもこの点について言及していない。

 これまでは法律上の行政命令が使えないため、コロナ病床確保に対する各種補助金を用いて民間病院にコロナ患者を引き受けさせようとしてきた。だが効果がほとんどあがらないばかりか、空床に対する病床確保料をもらっていながら、コロナ患者の受け入れを拒否するケースも相次いだ。国民の税金がこれ以上無駄遣いされないためにも、厚生労働省は補助金に関する実態調査を早急に実施すべきだ。


■脱「負担の平等化」の提唱


 法律上もさることながら、コロナ病床が増えない背景には日本の医療が抱える構造的な問題がある。日本では「負担の平等化」を図る観点からなるべく多くの病院に対して少しずつ病床を空けるよう要請してきたが、中小規模の民間病院が大半を占める日本で、コロナ病床を上積みすることは困難だと思う。

 コロナ禍の医療体制の問題に詳しい鈴木亘・学習院大学教授は「非常時に大病院にコロナ患者を集中的に受け入れさせ、大病院のコロナ以外の患者を中小病院に転院させる仕組みを構築する」ことを提案している。病院のコロナ患者が増えると、はじめのうちは経営が苦しくなるが、一定の患者数を超えると逆に収益が増して経営が楽になることが、東京都内の病院データの分析から明らかになっている。このことは、コロナ患者受け入れは必ずしも病院経営にとってマイナスばかりではないことを意味する。幸いにも大病院は公立・公的病院や大学病院が多いことから、国や都道府県がやる気さえあれば、現在の法的枠組みの範囲内でも実施することは可能だろう。

 このような課題に手を付けずに、現場から報告された病床の上積み数を鵜呑みにしていると第5波の悲劇を繰り返すことになるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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