動物園でイノシシを丸ごと餌にする取り組みが 肉食獣のストレス軽減に有効

動物園でイノシシを丸ごと餌にする取り組みが 肉食獣のストレス軽減に有効

イノシシ肉を食べるシマハイエナ(写真提供:羽村市動物公園)

〈シカ・イノシシ肉 愛称選定中止〉

 12月6日付読売新聞夕刊社会面の見出し、何のことかと思ったら、農水省がシカとイノシシのジビエ(野生獣肉食)利用を拡大しようと愛称を昨年募集したものの、選定を中止したそうな。同省に経緯を聞くと、

「コロナ禍で落ち込んだジビエの需要回復のため愛称を募りました。しかし、応募を取りまとめた後で飲食店や流通業者の方々に伺うと“ジビエの名称が浸透している”等の意見があり、決定しかねていたのです。やがて消費も回復したため、作業継続を見合わせました」(鳥獣対策・農村環境課)

 募集にあたって作られたサンプルは「天然のプロテイン」や「森のジューシーミート」で、まずはセンスが泣けてくる。同課は害獣駆除で捕えたシカやイノシシを捨てずにジビエで利用するよう、意味ある呼びかけをしているが、ならば以下の取り組みはどうだろう。

 動物園の中にはイノシシなど屠殺動物の肉を皮も骨もついたまま餌として与えるところがある。これを「屠体給餌(とたいきゅうじ)」といい、東京都の羽村市動物公園は先月、シマハイエナにこれを実施した。

「最初は昨年2月、サーバルキャットに、次いで8月、アンデスコンドルに行いました。ハイエナで3例目。普段は見られない採食行動を観察でき、これを目当てに来園されるお客さまもいますね」(園担当者)


■ストレスから生じる「常同行動」が改善


 残酷でグロテスク? とんでもない。同園では「動物福祉」の観点から屠体給餌を始めたと話す。動物のストレスを減らすなど、より動物福祉に配慮した飼育が模索されるなか屠体給餌の促進に取り組む「ワイルドミートズー」の西村直人理事がその意義を説く。

「動物福祉を考える際、動物本来の生活を参考にします。たとえば大型肉食獣なら、獲物を狩り、毛皮の内側の肉を骨から噛みちぎって食べる、というように野生下の動物は採食行動に多くの時間を費やしますが、現状、動物園の多くは小さく切った肉を与えるため食事は刺激や喜び、行動の多様さに乏しく数分で終わってしまいます。檻の中を動物が行ったり来たりし続ける“常同行動”は暇すぎるストレスから発現するといわれています。屠体給餌後は常同行動も改善されています」

 屠体は感染症対策のため頭部と内臓を除去し、低温殺菌・凍結処理したものを解凍して与えている。

「屠体給餌を続けると食べ方も上手になります。切り身しか与えていないと口だけ使って食べますが、前脚で餌を押さえて食いちぎるなど多様な動作ができるようになります」(同)

 屠体給餌の際は動物の生態に関する解説イベントも併せて行われるそうだ。

 害獣減に飼育動物のストレス軽減、来園者への教育にも役立つといいこと尽くめ。政府も妙な愛称選定に時間を費やすくらいなら、こちらにわずかでも予算を割いてあげてはどうなのか。

「週刊新潮」2021年12月23日号 掲載

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