元公安警察官は見た 被害に遭う日本人続出…上海のカラオケクラブは中国ハニートラップの巣窟

 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を17年務め、数年前に退職。9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、上海日本総領事館の領事(46)の自殺について聞いた。

 ***

 スパイ映画でよく登場するハニートラップとは、女性スパイが男性に対して色仕掛けで行う諜報活動のことだ。今でもこの手法を積極的に使って情報収集しているのは中国だという。

「2004年5月6日、上海にある日本総領事館の領事が自殺しました」

 と語るのは、勝丸氏。

「自殺したのは、中国が得意とするハニートラップにかかり、強迫されたことが原因でした。上海にいくつもあるカラオケクラブは、ハニートラップの巣窟となっています。日本と違って特別料金を払うと店の女性と個室を利用することができますが、その個室で女性とイチャついていると、隠しカメラで写真や動画を撮られます。自殺した領事は、上海市長寧区にあるカラオケクラブに通い、特定の女性と親密な関係になったといいます」


■上海のカラオケクラブ


 件の領事は元々旧国鉄の職員で、分割民営化の時に外務省に入省。アンカレジやロシア勤務を経て2002年3月、上海日本総領事館に単身赴任した。同僚に連れられて初めてカラオケクラブを訪れたのは、着任して数カ月後のことだった。その後、領事はその店へ頻繁に通うようになった。

「カラオケクラブの女性は、中国の情報機関と繋がっています。お客が外交官や企業の幹部だとわかると、諜報員が現れ女性と関係を持ったことを問題にして脅し、協力者(情報提供者)に仕立てるのです」

 2003年6月、領事はカラオケクラブの女性から、2人の中国人を紹介された。1人は女性の通訳で、もう1人は情報機関のエージェントだった。

「中国のエージェントは、最初は上海領事館の要員表など、当たり障りのない情報を領事に求めました。それから次第に機密性の高い情報を求めるようになったそうです」

 領事の担当は、領事館と外務省との通信を担当する「電信官」だった。

「電信官は、世界各国189カ所にある在外公館と外務省の情報伝達を担う仕事です。外務省と在外公館でやり取りする公電(電報)で暗号が使用されています。暗号電文を組み立て、解除するシステムは電信官しか知りません。中国が狙っていたのは、その暗号システムでした」

 日本の暗号システムはかなり複雑で、暗号が使われた電文は中国では解読できないという。

■残された5通の遺書


 2004年4月末、領事はロシア・サハリン州の在ユジノサハリンスク総領事館に異動が決まった。

「領事の異動を知った中国のエージェントは激高したそうです。『ここまでやってきて、逃げられると思うか。我々に協力しなければ、女との関係を領事館だけでなく、本国にも暴露してやる』と言って脅迫したのです」

 追い詰められた領事は5月6日、中国のエージェントと再び会う約束をしていたが、その日の午前4時、領事館の宿直室で首を吊った。当時の杉本信行総領事や妻、同僚などに宛てた5通の遺書を残した。

 杉本総領事に宛てた遺書には、こう綴られてあったという。

「あの中国人たちに国を売って苦しまされることを考えると、こういう形しかありませんでした」
「日本を売らない限り私は出国できそうにありません」

 外務省は遺族のことを考え、1年半以上もこの件を首相官邸に報告しなかった。2005年12月、週刊誌が報じてようやく問題になったのだ。

「この事件は、公安捜査員の間では有名な話です。中国がいかにしてハニートラップを仕掛けてくるのか、具体的事例として教訓とすべき事件です。上海のカラオケクラブは、いまだにハニートラップをやっていますよ。最近、上海にある日本企業に勤務している私の知人がカラオケクラブで女性と関係を持ったところ、企業の機密情報を出せと脅かされたそうです」

デイリー新潮編集部

関連記事(外部サイト)