麻布、開成…中高一貫校でコロナ世代に起こった“奇跡”とは オンライン文化祭などで見せた驚異の適応力

麻布、開成…中高一貫校でコロナ世代に起こった“奇跡”とは オンライン文化祭などで見せた驚異の適応力

中高一貫校で驚異の適応力

麻布、開成…中高一貫校でコロナ世代に起こった“奇跡”とは オンライン文化祭などで見せた驚異の適応力

おおたとしまさ

 昨春の一斉休校以来、学校現場はコロナ禍に翻弄されてきた。ハンデゆえに「コロナ世代」の烙印を押されないか懸念されたが、子どもたちは、大人以上の適応力を発揮していた。紹介するのは私立一貫校の実例だが、どんな子どもにとってもヒントになるはずだ。

 ***

 覚えておられるだろうか。この国初の大がかりな新型コロナウイルス感染拡大防止策は、まず学校を閉めることだった。当時の安倍晋三首相が全国一律の休校要請を唐突に発したのは、初の緊急事態宣言が発出された2020年4月7日よりも1カ月以上も前、2月末のことである。春休み期間を挟んで、休校期間は最長で約3カ月間におよんだ。

 その後も学校現場は、オンライン授業への対応や分散登校など感染防止対策に追われた。世間では「GoToトラベル」が実施される一方で、部活、運動会、文化祭、遠足、修学旅行などが軒並み中止や延期に追い込まれた。現場の教員からは、日々決断を迫られる緊張感と強い葛藤が伝わってきた。私自身も、全国一斉休校以来長らく学校取材を自粛していた。先生方には取材対応に使う時間があったら、生徒たちへのケアに使ってもらいたかったからだ。

 しかし学校が新年度を迎えたころから、私の耳に飛び込んでくる現場の教員たちの声には変化も表れた。さまざまな制約下であるにもかかわらず、むしろ子どもたちのほうが、できないことを嘆くのではなく、できることを積極的に見つけて実行しようとする姿勢を見せ始めたというのだ。

 そこで今回、子どもたちのたくましさが垣間見られたコロナ禍でのエピソードを、日ごろから情報交換をさせてもらっている私立中高一貫校に文書で求めた。集まったのは、ポジティブな意味での「コロナ世代」ともいうべき子どもたちの姿だった。


■コロナ禍を逆手にとって


 豊島岡(としまがおか)女子学園中学校・高等学校(以下、豊島岡)では、中3の4人が中心となって、コロナ禍でも楽しめる学年イベントを企画した。それが「クラス対抗運針リレー」だ。

 豊島岡には、毎朝5分間、真っ白い布に赤い糸をただひたすら縫っていく「運針」の時間がある。この5分間だけは学校中が静寂に包まれる。裁縫学校としての生い立ちがある豊島岡の名物だ。それを競技にしてしまったのだ。

 毎朝使う運針用の白い布は約1メートルだが、これを何枚もつなぎ合わせ、1クラス47人が15秒間ずつリレー形式で縫い、どれだけ長く縫えたかを競う。優勝チームの記録は7メートル48センチだった。

 豊島岡は合唱コンクールの強豪校でもある。コロナ禍で中学合唱コンクールは中止になったが、代わりに生徒たちが発案したのは、ボディーパーカッションによる合奏のクラス対抗大会だった。見事な発想の転換である。

「(コロナ禍を通して)慣例となっていたものに対して『なぜ?』とか『その必要はあるのか?』などと考える姿勢が顕著になった」(小美野貴博教諭)


■運動会をYouTube配信


 開成中学校・高等学校の教育は運動会に始まり、運動会に終わるといわれている。しかし2020年、開成は大運動会中止という苦渋の決断を下した。その悔しさをバネに21年は、YouTubeライブを利用して、東京オリンピックさながらのライブ実況中継放送に挑戦した。生徒たちは各教室のモニターで、保護者は自宅から、実況中継を楽しむことができた。密を避けるだけでなく、これまでの運動会にはなかったプラスアルファの楽しみ方を考案したのだ。

「普段はグラウンドの混雑によってじっくりと観戦できないことが多かったが、撮影された映像はたいへん見やすく、好評でした」(宮利政教諭)

 武蔵高等学校中学校(以下、武蔵)では、ドイツ、オーストリア、フランス、中国、韓国の高校生たちとのオンライン交流会が2度開かれた。

 もともと武蔵には、1980年代から続く国外研修制度がある。中3から始まる第二外国語の授業で、優秀な成績を修めた生徒たち約15人が高2の終わりから高3の初めにかけての約2カ月間、前記の国におもむいて現地の提携校で授業を受けることができる制度だ。コロナ禍で海外渡航ができなくなってしまったため、それならと、武蔵の生徒たちが中心となって世界各地の提携校を結びつけたのだ。

「いま、新生武蔵として『世界をつなげる』を掲げています。まさにその体現でした」(小池保則教諭)


■いろんな国に旅行に?


 小学生親子を対象にした進学相談会で麻布中学校・高等学校(以下、麻布)を訪れたある保護者は、麻布名物の「論集」をパラパラとめくり、驚いた様子で教員に質問した。「麻布の生徒さんは(コロナ禍にもかかわらず)いろんな国に旅行に行っているみたいですが、そういう課題でもあるのですか?」。教員としては、してやったりだった。

 保護者が目にしたのは、中1の夏休み恒例の社会科課題「仮想旅行記」の優秀作品だった。本やインターネットを駆使して、行ったことのない国や地域に関する情報を集め、あたかも本当にそこに行ってきたかのような旅行記を書いて提出することになっているのだ。

「コロナ禍で海外旅行が難しい中、生徒諸君は想像力豊かに世界を旅していたのだなと思いました」(駒直樹教諭)

 以上は、それぞれの学校の名物が、コロナ禍でも存在感を示した例といえる。


■休校期間にフリーペーパーを作成


 奈良県の東大寺学園中・高等学校(以下、東大寺学園)の生徒会長である谷津凛勇(たにつりんゆう)さんは、高1だった休校期間中に暇をもてあまし、児童書紹介フリーペーパー「月あかり文庫」を創刊した。

 谷津さんは幼いころから子ども文庫(民間の人が自分で集めた絵本や児童書を中心とする蔵書を地域の子どもたちに無料で貸し出す小規模図書館)に通い、これまでに4千冊以上を読破してきた。

 子どもの読書離れが社会問題とされる中、自分と同じような「本の虫」を増やし、「より良い読書体験で自立する読者を育てる」ことを目指す。全国から集まった高校生〜社会人の7人で、子どもの読書文化振興NPO(任意団体)、Dor til Dor も立ち上げてしまった。

 この活動が評価され、「全国高校生マイプロジェクトアワード2020」では全国優秀賞、「読者大賞2021」では「事」部門大賞を受賞。「ASHOKAユースベンチャー」にも認定された。

 谷津さんにとって休校期間は、自分が本当にやりたいことに気づき、それを実行するために与えられたボーナスタイムだった。ちなみに東大寺学園には正規の授業として「読書」がある。国語の教員が文庫本などを、生徒に読み聞かせるのだ。問題を解くための国語ではなく、純粋に読書を楽しむ姿勢を忘れさせない意図がある。


■個性的な生徒に光が


 兵庫県の甲陽学院高等学校の杉山恭史(たかし)教諭は、オンラインで実施された文化祭でW君の大活躍を教えてくれた。

 準備を進めるうえでどうしても避けられない対面での打ち合わせや作業の場における感染防止策をマニュアル化し、各担当者が制作する素材の集約やチェックのスキームを組み立て、学校のサーバーに負担をかけない方法や著作権問題を回避する方策まで考えた。

 前例のないオンラインでの文化祭開催に、生徒たちが果敢に挑戦したエピソードは、多数の学校から寄せられた。各学校の教員たちも「オンラインでの文化祭開催は、よそでもたくさんやっていますよね」と詳細を語るのを控えるほどだ。しかしW君のケースに私が注目したのは、彼がコロナ以前から起立性調節障害を抱えていたと聞いたからだ。

 この障害は中高生に多い。自律神経不全により、起立時に立ちくらみ、失神、頭痛、疲労などが出現。午前中は体がいうことを聞かず、午後になるとようやく普通に活動できるようになることが多い。

 W君もコロナ前から、午前中は学校に通えず、なんとか午後の授業だけ参加するような生活を送っていた。しかし友人は多く、知的好奇心も旺盛で、インターネットを通じて全国の高校生や大学生とつながって各種イベントを企画運営することができる手腕の持ち主だと杉山教諭は言う。そんなW君の持ち味が、コロナ禍中の活動で全面的に生かされたわけである。

 学校のあり方がちょっと変わるだけで、いつもは光が当たらない個性的な生徒に光が当たり、水を得た魚のように力を発揮しだすことがある。そんなことも、コロナ禍から得られた学びの一つではなかろうか。


■「時代の転換点にワクワク」


 駒場東邦中学校・高等学校では、コロナ禍での夏休みをふまえ、中3の現代文で「贅沢とは何か」を話題にした。生徒たちのコメントがほんわかしていて微笑ましい。

「水菜ともやしを大量に育て、スーパーで買ったちょっと高いラーメンに入れて家族と一緒に食べた」

「祖父母からお菓子やお小遣いが届いたとき、いつもなら電話ですませてしまうが、今回は鳥獣戯画展で買った便せんを使って手紙を書いた」

「24時間寝ないでいくつかのドラマやアニメを最終回まで見続けた。翌日は約24時間寝続けた。その翌日は大量に食べた」

 ステイ・ホームだからこその時間の使い方に、贅沢を見出しているようだ。

 鴎友(おうゆう)学園女子中学高等学校では、高2の生徒にオンライン授業についての感想を聞いた。その中に次のようなコメントがあった。

「コロナウイルスの影響で沈みがちなことも多いですが、私は時代の転換点に立っている気がして、ワクワクしています。私よりも経験値の高い人も私も、コロナに振り回されています。どんなにすごい人もコロナを倒すための武器のストックはないという点では同じ地表にいます。そうであるならば、明日世界のヒーローになれるのは私だという可能性が十分ある。それは今までの世界の回り方じゃあり得なかったことなのではないかと思っています。無論本当にそんなことはできません。まったく同じ地表にはいません。お気づきかもしれませんが、私はしかし夢想家なのです。自粛中に修行僧のような生活をしていたら気づきました」


■コロナ世代が得たもの


 ピンチをチャンスととらえるたくましさが感じられる。ほかにも似たような主旨の回答が多数寄せられたと、若井由佳教諭は言う。学校全体にポジティブ・シンキングが浸透しているのだろう。入学直後から自己肯定感を高く保つ教育に力を入れている成果ともいえる。

 一方で、女子学院中学校・高等学校の生徒指導担当教員からは次のような意見が寄せられた。

「大人も暗中模索の状況です。その大人から指示を受けて我慢を強いられる生徒たちのストレスには計り知れないものがあります。きっと将来には『コロナ世代』という言葉が使われると思いますが、この言葉がポジティブな表現として使われるためには、もっともっと子どもたちの内面の変化やストレスに、大人が耳を傾けていかなければならないと思います」

 普連土学園中学校・高等学校では、一人の高校生が校長室にやって来て、

「部活や行事を簡単に中止にしないでほしい。ましてや簡単に休校などしないでほしい。家庭で難しい状況を抱えていて、学校にいる間だけはつらいことを忘れられるというひとも、友人の中にはいるから」

 と訴えたという。

「もしこの生徒たちを『コロナ世代』と呼ぶことがあるのだとするならば、ともすれば当たり前の日常として通り過ぎてしまうものの本当の大切さを、身をもって知ることのできた世代といえるのかもしれません」(池田雄史教諭)


■大人の目配りの大切さ


 2021年10月13日に文科省が発表した「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」によれば、前年度に比べ、小・中学校における不登校児童生徒数は約8.2%増えた。自殺者は調査開始以降最多を記録した。

 なお、21年5月に実施された「全国学力・学習状況調査」の結果を分析した文科省は、一斉休校による学力への影響について、「全体では見られなかった」との見解を示している。一方、アンケート結果からは、子どもたちが学業に不安を感じたり、計画的な学習に課題を感じたりしていたことも浮き彫りになっている。

 コロナ禍以前から、学力格差は存在した。むしろ懸念されているのは、コロナ禍で格差が一層拡大することだ。

 その点、無料塾「中野よもぎ塾」代表の大西桃子さんは、

「もともと学校の授業についていけていなかった生徒たちにとっては、この休校期間が『学習の遅れ』を取り戻す絶好の機会になりました」

 と証言する。

 大西さんが運営する無料塾では、経済的な理由で進学塾に通えない中学生を対象に、ボランティアスタッフが無料で学習指導に当たっている。通常は公的な施設の会議室を教室代わりに使っているが、コロナ禍では思い切ってオンライン授業に切り替えた。手探りだったが、やってみると意外と簡単にできた。

 しっかりと目を配ってくれる大人さえいれば、子どもたちはコロナ禍でもたくましく育つのだ。


■先行き不透明な時代を生きる実地訓練


 東京都など多くの地域で一斉休校が長引いた際には、「9月入学への移行」が検討される一幕もあった。時計の針を巻き戻そうという話である。

 子どもたちから奪われた機会を取り戻してあげたい気持ちは痛いほどにわかるが、そもそも教育課程は、そのときどきの子どもの発達を考慮して決められている。コロナ禍だろうが子どもは毎日成長しているわけで、小学1年生のための遠足を小学2年生の年齢になってから行うのでは、意味合いが異なってしまう。9月入学への移行は、そういう現実を無視した安直な案だった。

 このような世界的災禍において大切なのは、失われた過去を取り戻すことよりも、ある意味で気持ちを切り替えて、いまできることや、これからすべきことに意識を集中することであるはずだ。いま大人は、そういう姿勢こそを、子どもに見せるべきだろう。

 君たちは先行き不透明な時代を生きなければならないから、探究的学習が大事だとか、学び続ける力が必要だとか、だからこそ大学入試改革を行うのだとか……。これまで大人たちは散々子どもを脅してきた。しかし期せずしてコロナ禍が、子どもたちにとって、先行き不透明な時代を生きる実地訓練となった。

 そこで子どもたちは大人顔負けの適応力を発揮した。それは子どもが子どもであるがゆえの「才能」である。

 彼らが失ったものばかりでなく、彼らがこのコロナ禍で得たものにこそ光を当て、それを社会として大事に育てようではないか。

 彼らは、「IT知識と語学力を駆使し、いつでも誰とでもつながれる世代」であり、「慣例となっていたものに対して疑いをもてる世代」であり、「できないことを嘆くのではなく、できることを探して実行できる世代」であり、「ともすれば当たり前の日常として通り過ぎてしまうものの本当の大切さを、身をもって知ることのできた世代」なのだ。ポジティブな意味でコロナ 世代と呼ばれてほしい。

おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中高卒、東京外国語大中退、上智大卒。リクルートから独立後、教育誌等のデスクや監修を務める。中高教員免許を持ち、私立小での教員経験もある。『受験と進学の新常識』(新潮新書)など著書多数。

「週刊新潮」2021年12月16日号 掲載

関連記事(外部サイト)