「名古屋金利」を生み出したトヨタのお膝元で地銀再編 愛知ならではの特殊事情とは

「名古屋金利」を生み出したトヨタのお膝元で地銀再編 愛知ならではの特殊事情とは

記念撮影に納まる愛知銀行の伊藤行記頭取(左)と中京銀行の小林秀夫頭取(2021年12月10日、名古屋市中区で)

■愛知県内のトップバンクに


「ここが愛知だということを忘れてはいけません。統合・合併で規模は大きくなるのでしょうが、それだけで地元の企業はメインバンクに選んだりはしませんから」

 こう語るのは、愛知県内の金融関係者。昨年12月に発表された愛知銀行と中京銀行の経営統合について、釘を刺すような語り口だ。愛知銀行と中京銀行の両行は今年10月にも持ち 株会社を設立して経営統合、2年後の2024年には合併する。

 両行は経営統合に向け、両頭取を共同委員長とする統合準備委員会を昨年12月に設立。審査分科会や市場業務分科会など9つの分科会を立ち上げ、いよいよこの1月から週一回のペースで統合作業を進めていく方針だ。

 統合発表をうけ、マスコミ各社は一斉に愛知県内の金融機関の序列が変わるかのように報じた。たしかに両行が統合すれば総資産6.4兆円、貸出金残高は4兆円超となり、愛知県トップの名古屋銀行(総資産4.9兆円、貸出金残高3.1兆円)を抜き去り、規模の上では県内 のトップバンクになる。


■全国平均を大きく下回る金利


 記者会見で愛知銀行の伊藤行記頭取は、「経済規模が大きい愛知県の中で(融資額)10%近いシェアが取れる。地域金融機関の中ではトップシェアになり、愛知県内での存在感を高められる」と強気のコメントを発した。

 だが、規模が大きくなるからといって県内の企業が愛知・中京連合をメインバンクに選びなおすかといえば、そうは言えないというのが県内金融界の支配的な見方だ。地元の金融マンが解説する。

「愛知県はトヨタ自動車のお膝元。県内には自動車部品メーカーなどトヨタグループの一時下請け、二時下請け企業だけで何万社とあり、名古屋、愛知、中京の3行以外にも信用金庫、信用組合の数が20以上もあります。他県と比べて金利競争が激しく、全国平均を大きく下回る金利は『名古屋金利』と呼ばれてきました。かといって地元の企業がメインバンクを低金利の金融機関へポンポンと乗り換えていくかというと、そうではないのが愛知の特徴。『おたくの前支店長はうちが苦しい時に助けてくれたから』とか『あんたとこの親父さんはうちの親父が世話になったから』という風に、金利よりも恩義や仁義が重んじられる土地柄なのです」


■「機屋には貸せても鍜治屋には貸せない


 こうした愛知特有の企業文化を生み出しているのが大元のトヨタだ。トヨタと銀行の関係について、県内金融界には連綿と語り継がれるエピソードがある。2014年にはこのエピソードがテレビドラマでも描かれ、話題を呼んだ。県内の銀行関係者が解説する。

「そのドラマは、戦後の焼け野原の中で国産自動車の夢を追いかけたアイチ自動車の物語でした。戦後のデフレや日銀の金融引き締め策によって倒産危機に瀕していたアイチ自動車は、取引銀行25行の協調融資で難局を乗り越えようとします。ところがメインバンクの一つだった西国銀行はアイチ自動車の懇願を突っぱねました。その際、西国銀行の名古屋支店長が言い放ったのが『機屋(はたや)には貸せても鍜治屋(かじや)には貸せない』という言葉です。機屋とは繊維業のことで、アイチ自動車の前身が紡織会社だったことを意味します。つまり、成功していた繊維業にはカネを貸せても、成功するかどうかもわからない自動車業に貸すカネはないという趣旨でした。

 その後アイチ自動車は世界的な自動車メーカーへと成長していくわけですが、苦しい時に助けてくれなかった西国銀行とはしばらく一切の取引を断絶しました。アイチ自動車のモデルは言うまでもなくトヨタ自動車。西国銀行のモデルは大阪銀行、のちの住友銀行です。企業と銀行のあるべき姿を考えさせるエピソードとして、今でも金融マンの間で語り継がれているのです」

 資金需要が肥沃な愛知県内には近隣県からも十六銀行(岐阜県)や百五銀行(三重県)、三十三銀行(同)などが進出してきているが、企業のメインバンクになれるケースは少ない。長年取引をしてきた地元金融機関との関係が優先されているからだ。


■活動エリアを他県に広げることではない


 それが理由なのかどうかは不明だが、実は、中京銀行の統合相手は十六銀行になるという見方が以前から根強くあったにもかかわらず、結局、実現はしなかった。中京銀行の株式4割を握る三菱UFJ銀行が、同じ三菱系の十六銀行に全株式を与えるだろうという見立てが多かったのだ。名古屋の民間調査会社の調査員が言う。

「以前、同じ三菱系の岐阜銀行が窮地に陥っていた時、救済する形で合併したのが十六銀行でした。その借りがあるから、三菱UFJは中京銀行株を十六銀行にプレゼントするのではないかと見られていたわけです」

 他県よりも地元、地元のなかでも長年取引してきた金融機関が選ばれる愛知の特殊事情がものを言ったのが愛知銀行と中京銀行の経営統合だ。ただ、だからこそ、これまで両行をメインバンクとしていなかった企業が、統合を境に、規模で大きくなった愛知・中京連合をメインバンクに選びなおすというわけでもない。

 愛知銀行と中京銀行もその点は折り込み済みだろう。経営統合発表の際のプレスリリースには「単独では為し得なかった水準のコンサルティング・ソリューション型ビジネスモデルを構築し、高度化・多様化するお客様のニーズに総力を挙げて応えてまいります」とある。日銀による低金利政策の下、融資だけでは稼げなくなっている地方銀行が近年、新たに稼ぐ手段として育成しているのがビジネスマッチングや事業承継、M&A(企業の合併・統合)といったコンサルティング・ソリューション型ビジネスだ。

 愛知・中京連合の狙いは、活動エリアを他県に広げることではなく、顧客基盤を統合することで、これまで以上に愛知県内企業との結びつきを強めるところにある。

 菅義偉前首相が「地方銀行の数が多すぎる」と地銀再編に発破をかけて以来、にわかに高まってきた再編機運だが、そこで想定されていたのは単独では生き残っていけない弱小銀行をどうするかが主たる問題だった。

 愛知銀行と中京銀行の統合が異質なのは、両行とも単独では生き残っていけない弱小銀行ではないこと。また、広域エリアにまたがる統合・合併が目立つ中、愛知県内にどっぷりと腰を落とすことを目的にしていることだ。

 新しいタイプの再編が、全国の地銀幹部たちに新しい選択肢を与えるかもしれない。

デイリー新潮編集部

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