沖縄の気候に適応した名建築「名護市庁舎」 “空調ナシで快適”を実現した驚きの手法とは

■名護市庁舎(沖縄県名護市)


 地元の人にとっては見慣れた存在。でも歴史を知ると、かなり立派な名建築であることがよくわかる「身近にある意外な名建築」をご紹介する本連載。8回目となる今回ご紹介するのは沖縄県名護市庁舎。地元の人たちが泡盛を酌み交わし、激論を闘わせた末に生まれたのだという。『日本の近代建築ベスト50』(小川 格・著)から引用してみよう。

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 1970年、1町4村の合併を機会に、人口4万人の名護市が発足した。この時から市庁舎建設の歩みが始まった。しかし、実際に動き出したのは1976年、市民各層の代表者19名からなる「名護市庁舎建設委員会」が設置されてからだ。

 委員会は、泡盛を酌み交わし、議論は夜遅くまで続けられた。なかには、「永遠に市庁舎を造らなくていいじゃないか。こうした議論の過程こそ市庁舎なのだ」といった意見まで出た。そんな熱のこもった議論が1年以上続いた。

 たび重なる議論の末に、市庁舎は、沖縄の気候風土に適した設計案を広く全国から公募して求めるべきだという結論に達した。

 その結果、1978年より公開設計競技が公表され、全国から308案の応募があった。

 ここで、最終的にTeam Zoo(象設計集団+アトリエ・モビル)の案が選ばれた。

 象設計集団は実はこのコンペの10年ほど前から沖縄の建築や都市、地域の計画に関わりをもっていた。沖縄での第1作は沖縄こども博物館。次は今帰仁(なきじん)の公民館である。さらに、まちづくりなど地域計画に関わり、その間、沖縄の各分野の人々との共同作業を続けていた。こうして得た知見がこのコンペで開花した。

 この時代、まだ市民の住居でも空調は半分ほどしか設置されていなかったので、ここでは空調なしで、夏も快適に仕事のできる建築が求められた。

 これはこのコンペの最大の難関だったといわれている。そこで象設計集団は、天井の下に、海からの風を取り込む「風のミチ」を造り、そこから吹き出す風で、室を冷やす工夫を生み出した。

「風のミチ」は2メートル4方のコンクリートの筒が建物を南から北まで突き抜けるもので、その側面に50センチメートル角の穴があいている。それが事務所の天井に何本も設置された。

 南側は街道に面して一直線のファサードを立てているのに対し、北側の住民が歩いてくる方は、ジグザグの「アサギテラス」になっており、日除けのスペースが心地よい日陰をつくっている。

「アサギテラス」は穴のあいた、風の通るコンクリートブロック製の日除けである。

 沖縄では、台風に強く、材料が手軽に手に入り、工事も簡単なコンクリートブロックが非常に普及している。内外ともにこのコンクリートブロックが全面的に使われていることも大きな特徴である

 沖縄の気候風土の特徴をよく理解し、計画、材料、施工等の工夫がめぐらされ、その結果、居心地のよい建築に結実している。

 近代建築は、近代産業に裏付けられた鉄・ガラスなどの工業生産品を用いて世界中に同じ建築を造ることを夢見ていた。しかし、それは、ヨーロッパ文明の身勝手な構想だったのかもしれない。

 世界は広く、多様な環境に適応した多様な建築こそ人々が求めているものなのではないか。そんな反省が起きていた。

 国際主義から地域主義への転換である。それをこれほど見事に表現してみせた建築はないかもしれない。

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小川 格(おがわいたる)
1940(昭和15)年東京生まれ。法政大学工学部建築学科卒。新建築社で「新建築」の編集を経て、設計事務所に勤務。相模書房で建築書の出版に携わった後、建築専門の編集事務所「南風舎」を神保町に設立、2010年まで代表を務めた。2022年1月現在は顧問。『日本の近代建築ベスト50』が初めての著書。

デイリー新潮編集部

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