「第6波の死者はコロナでなく細菌性肺炎が原因」 専門家が指摘、予防法は?

「第6波の死者はコロナでなく細菌性肺炎が原因」 専門家が指摘、予防法は?

岸田文雄内閣総理大臣

 オミクロン株は肺に入らないというわりには、肺炎で亡くなる人がいる。実は体力が弱っている人は、誤嚥性をはじめ細菌性肺炎を引き起こす危険性があるのだ。コロナの出口も見えてきたいま、もう一息を乗り切るために、敵をよく知って命を守る対策を講じたい。

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 感染力が強いオミクロン株も、ピークアウトしたように見える。東京都の1日あたりの感染者数も、前の週の同じ曜日を超えた日は、このところわずかしかない。ところが死者数は、減らないばかりか増える傾向にある。全国の死者数は2月15日から19日まで、5日続けて200人を上回り、17日には過去最多の271人が亡くなった。

 オミクロン株は重症化しにくいと言われてきたのに、話が違う――。そう感じている方も少なくないのではないだろうか。

 死者数が多いとことさらにあおるテレビ番組もあるので、不安を感じている人は多いだろう。たとえば、2月16日のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」では、コメンテーターで同局の玉川徹氏が、「過去の波にくらべても(死者数が)最多レベルになっているときに、過去の波ではとってきた緊急事態宣言を出さなくて、本当にいいんですか」と発言している。


■専門家は「もはや普通の風邪」


 しかし、結論を先に言えば、オミクロン株の毒性が高まったという話は聞こえてこない。東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科の寺本信嗣教授も言う。

「私の実感としても、コロナはもはや普通の風邪になったと思います。正確にいえば、ウイルスによって引き起こされる一般的な風邪症候群の一つです。コロナウイルスが進化して感染力を強めた結果、病原性は弱まっています」

 ただし、寺本教授は注釈をつける。

「人類が初めて感染するウイルスである以上、油断はできません。多くの人が感染を経て中和抗体を得るまでには、まだ時間がかかり、どうしてもその過程で、一定数の人が亡くなってしまうことにはなります」

 いま死者数が増えている理由を、札幌医科大学の當瀬(とうせ)規嗣教授(細胞生理学)はこう分析する。

「一つは、これまでの感染拡大の波とくらべ、感染者数が圧倒的に多いからです。二つ目には、現在の感染拡大の波のなかで、フェーズが変わってきていることが挙げられます。1月時点では、10〜20代など若い世代の感染が目立っていましたが、彼らがウイルスを家庭に持ち込んだことで、家族間に感染が広がるようになりました。そして施設に暮らす高齢者を含め、もっと上の世代に感染が広がったのです。高齢者の間で感染が広がれば、亡くなる方はどうしても増えます。三つ目の理由は、高齢者を中心に、2回目のワクチン接種から半年が経過し、効力が落ちてきたタイミングと重なってしまったことが挙げられます」


■「人工呼吸器やECMOを使うケースが激減」


 だが、それでも「デルタ株までにくらべれば重症化リスクは減っている」と寺本教授。そこで、デルタ株までと比較したオミクロン株の特徴を、あらためて寺本教授に説明してもらう。

「ウイルス性肺炎は一般に、重症化リスクが低い疾患です。ところが、デルタ株までのコロナウイルスは肺のなかで急速に増殖し、さらには血栓まで作ってしまう性質があり、特殊で悪質なウイルス性肺炎を引き起こしました。結果として、酸素濃度が一気に下がってARDS(急性呼吸窮迫症候群)を発症し、人工呼吸器や、最悪の場合、ECMOまで使っていました。当時は、ここまで一気に症状が悪化するウイルス性肺炎の治療経験がある医師がいなかったので、医療現場がパニックに陥ったのです」

 それがオミクロン株に移行して、どう変わったか。

「悪質なウイルス性肺炎を引き起こすことがほとんどないので、ARDSにも至らず、人工呼吸器やECMOを使うケースも激減しました。私が勤める病院でも、最重症の患者用の人工呼吸器が設置された治療室は現在、一人も使っていません。ですから、昨年末におよそ170万人だった累計感染者数が、現在450万人ほどに増えていますが、死亡率をみると、昨年末のおよそ半分です」


■コロナで直接、は少ない


 実際、全国の死亡率を見ると、第5波の0.4%に対し、第6波は0.11%だという。それでも、感染者数という分母が大きければ、どうしても死者数は多くなる。そこに寺本教授は、

「コロナに感染していれば、直接の死因がコロナウイルス自体ではなくても、すべてコロナ死にカウントされているから」

 という理由を加える。事実、厚生労働省は各自治体に、コロナ患者が入院先や宿泊及び自宅療養中に死亡した場合、「厳密な死因を問わず、全数を公表する」ように通知している。このため、直接の死因はコロナ以外であっても、コロナに感染していれば、コロナ死として公表されるのである。

 寺本教授が続ける。

「デルタ株までは、亡くなる方が50〜90代まで比較的均等に分布していましたが、現在はほぼ70〜90代の高齢者に限定されています」

 事実、70代以上が死亡者の91%を占めている。

「そこからわかるのは、デルタ株まではウイルス性肺炎によって引き起こされたARDSによって、つまり、コロナウイルスが直接の原因で亡くなる人が多かったのに対し、現在はコロナが直接の原因で亡くなる人は少ない、ということ。現在は高齢でコロナに感染したために体力が衰え、基礎疾患の悪化や老衰、誤嚥性肺炎などで亡くなる人の割合が増えているのです」


■誤嚥性肺炎のリスク


 しかし、いまはそれらもみなコロナ死とされている。オミクロン株に感染後、肺炎で亡くなる人も少なくないといわれるが、その内実は、以前と大きく異なっているのである。

「誤嚥性肺炎は細菌が肺に侵入して引き起こされる細菌性肺炎で、もともと口腔内や気道に定着している菌が、体力の低下などが原因で誤嚥を繰り返すと増えて活性化し、肺に入り込むことで発症します。一般的に、ウイルスに感染したのちに発症する細菌性肺炎のほとんどは、誤嚥性肺炎で間違いありません。オミクロン株は上気道、つまり鼻や喉のあたりに炎症を引き起こすので、嚥下(えんげ)機能が低下しやすく、誤嚥性肺炎のリスクが高まると考えていいでしょう。実際、臨床現場でCTを撮ると、第5波までは肺全体にGGOというすりガラス状の淡い影が出る、ウイルス性肺炎に特有の画像が見られましたが、現在は影のコントラストが強い、一般的な細菌性肺炎に近い画像が増えています」


■要介護度が高い人は注意が必要


 寺本教授はそう説明するが、では、どういう人がこうした細菌性肺炎を起こすリスクが高いのか。

「70歳以上の高齢者がほとんどで、なかでも重症化リスクが高いのは85歳以上の方。そもそも肺炎で亡くなる方の大多数が85歳以上で、現在、コロナで亡くなる方の年齢分布が、その他の病気など一般的な死因で亡くなる場合のそれに近づいています。さらに言えば、特に気を付けるべきなのは、認知症を患っていたり、脳梗塞の後遺症があったりして、ベッドで寝ている時間が長い方。つまり要介護度が高い方です」

 これまでも冬場は風邪やインフルエンザをこじらせ、細菌性肺炎を発症して亡くなる高齢者は多かった。同じことが、オミクロン株が原因で起きているようだが、予防できるなら、しておきたい。寺本教授は、

「普段から口腔ケアを怠らないようにしたい。しかし、コロナに感染して高齢者施設から病院に移された場合、人手が足りず、それまで行われていた口腔ケアがなおざりになってしまうかもしれません。本人はもちろん、ご家族もその点に気をつける必要があります」

 とアドバイスする。


■口腔ケアが重要


 国際医療福祉大学教授で、山王病院呼吸器センター内科副部長の須藤英一医師も、

「誤嚥性肺炎の予防について、あらためて意識するのは悪いことではない」

 と、こう話す。

「特に気をつけたほうがいいのは要介護度が高く、普段の活動量が落ちている方です。オミクロン株に感染して全身の体力がさらに落ち、嚥下反射機能の低下を引き起こしやすいからです。高齢者でなくても高血圧や心疾患、糖尿病、肺気腫などの慢性的な持病、すなわち基礎疾患を抱えている方も気をつける必要があります。基礎疾患のために白血球中のNK細胞やT細胞の働きが鈍り、ウイルスや菌への免疫力が下がってしまうともいわれています。また、基礎疾患の多くは血管の老化につながります。血管が弾力を失い、血液もドロドロになっていれば、血栓が詰まりやすい。するとオミクロン株に感染して高熱が続き、脱水症状に陥れば、血栓が詰まって脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなるのはもちろん、痰をうまく吐き出せないなど、誤嚥の原因にもなります」

 要は、要介護度が高い高齢者や基礎疾患を抱える人は、オミクロン株に感染すると、いろんなリスクを引き寄せてしまう、ということだ。では、それをどう予防するか。須藤医師は、

「3回目のワクチン接種です。感染しても症状が軽く済む。つまり免疫力を上げることができます」

 と、まず提案。続けて誤嚥性肺炎の予防策について、次のように述べる。

「一つは口腔ケアです。普段の歯磨きをしっかり行えば、悪玉菌の割合を減らせるうえに、口内が刺激されて神経伝達物質が分泌され、嚥下反射や咳反射の能力が向上します。施設に入って活動量が落ちている高齢者の場合、介護をしてくださる方に口腔マッサージを頼むのもいい。常在菌が増殖しないように、歯科医で歯周病の治療を受けておくこともお勧めです。次に、肺炎球菌ワクチンの接種という手もあります。そもそもこのワクチンは、65歳以上が接種対象。高齢で普段の活動量が落ちていたり、基礎疾患を抱えていたりするなら、接種はよい選択肢だと思います。コロナワクチンの接種後、13日間空ければ、一般の病院やクリニックで打つことができます」


■ストレッチも効果的


 基礎疾患がある人のリスクについて、誤嚥性肺炎にかぎらず、さらに深めておきたい。當瀬教授が言う。

「たとえば、肺の病気ではCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。これは主に喫煙によって、肺胞が壊され、血液に酸素を運ぶ能力が衰えてしまっている状態です。この持病を抱えている方が、オミクロン株に感染して重い症状を患えば、高熱や咳が続き、ただでさえギリギリだった酸素の供給能力が失われてしまう。結果として、身体中の酸素濃度が下がり、危篤状態に陥るリスクが出てくるでしょう」

 心臓や血管系の持病を抱えている人も、リスクが高いという。

「たとえば、慢性的な心不全を抱え、すぐに息が切れてしまうような方。感染して脱水症状が続くと、血液の量が減っていくので、ただでさえ血の巡りがよくないところに、身体中に十分な血液が回らなくなり、やはり危篤状態に陥るリスクが出てきます」

 対策としては、

「特に高齢者を中心に、3回目のワクチン接種を急ぐこと。リスクが高い高齢者の免疫力を上げることが必要だといえます」

 と、當瀬教授。そこに須藤医師が加えて言う。

「基礎疾患を抱えている方には、特にストレッチ体操がお勧めです。リンパの流れをよくして免疫力を活性化します。同時に、血液の流れもよくなります」

 リスクが高い状況が、これから先も延々と続くわけではない。それだけに、できる予防策は重ねておいても損はないだろう。


■喫煙と肥満も危険因子


 ここまで述べてきたのは、主に介護が必要な高齢者や、基礎疾患を抱える人が対象の話だが、若い世代でも喫煙者と肥満体質の人は気を付けなければならない、と寺本教授は指摘する。

「まずは喫煙。喫煙習慣によって、ACE2というコロナウイルスの受容体が増えるからです。ワクチンを打てばスパイクタンパク質に対する抗体が作られ、ウイルスと受容体が結合しにくくなるので、細胞内に入り込むリスクが減る。しかし、ワクチンを打ってもすべてのウイルスの侵入を阻止できるわけではありません。受容体が増えれば、細胞内に入り込もうとするウイルスの総数が増え、相対的にワクチンの効果は落ちます。そのうえ喫煙は喉を傷つけ、オミクロン株が増殖しやすい状態を作ります。二重の意味でよくありません。喫煙習慣があると、若い世代でも重症化につながり、細菌性肺炎にかぎらず、さまざまな合併症を引き起こしたり、場合によっては、ウイルス性肺炎にまで至ったりするリスクが高まってしまうでしょう」

 続いて肥満体質だが、

「肥満者の肥満細胞は、普通の細胞にくらべてサイトカインを放出しやすく、コロナウイルスに感染すると、それが大量に放出されてしまいます。したがって、肥満体質の人がコロナに感染すると、免疫システムが暴走し、身体中が高熱を帯びて炎症を起こし、多臓器の状態が悪化するリスクが高まります。これがサイトカインストームで、最悪の場合、身体中のあちこちに血栓ができ、血管が詰まってしまう播種性血管内凝固症候群を患って、死に至るリスクもあるでしょう」

 だから寺本教授は、肥満体質の人に呼びかける。

「ダイエットはもちろんのこと、糖尿病や高血圧、脂質異常症など基本的な生活習慣病の治療と管理を、改めて見直したほうがいい」


■コロナ禍の出口は近い?


 このように、オミクロン株にもリスクは多方面に存在する。だが、数ある病気のなかで新型コロナウイルス感染症は、もはや特別なものではなかろう。

 たとえば、コロナ禍を迎える以前、季節性インフルエンザで亡くなる人は、国内で年間1万人を超えるといわれていた。風邪をこじらせて細菌性肺炎を発症して亡くなる人も、年間1万人規模だったという。

 オミクロン株は「普通の風邪になった」という声もすでに紹介したが、要するに、風邪やインフルエンザと同様、オミクロン株にもリスクがあるから気を付ける、ということだろう。

 事実、高齢者や基礎疾患がある人の3回目のワクチン接種が進み、よく効く飲み薬が複数揃えば、コロナ禍の出口は一気に近づくはずである。浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師が解説する。

「特例承認されたファイザーのパキロビッドは、効果が実証されており、期待しています。この薬に含まれる抗ウイルス薬のニルマトレルビルが、ウイルスの増殖に必要な酵素3CLプロテアーゼの作用を阻害する仕組みです。臨床実験では、重症化率を89%下げたという結果が出ています。ただ、一つだけ問題があって、抗ウイルス薬が肝臓で分解されるのを抑制しその血中濃度を上げるために、リトナビルという薬と一緒に飲むのですが、高血圧などほかの薬にも同じ効果を発揮するため、一緒に飲めない薬が結構あります。たとえば不整脈の薬を飲んでいる人は、飲むのをやめたら死んでしまうので、パキロビッドは使えません。薬が必要な基礎疾患がある高齢者が飲みにくいのです」


■シオノギの新薬


 その穴を埋めると期待されているのがシオノギの新薬で、間もなく承認申請されるといわれている。

「こちらもファイザーと同じ仕組みですがリトナビルは使いません。日本の会社なので日本に優先供給してくれるはずで、その点でも期待度が高いです。まだ治験の結果が出揃っていませんが、効能があればインフルエンザに対するタミフルのような存在になる。そうすれば、コロナがインフルのような存在になると言って間違いありません」(同)

 新型コロナがインフルエンザや風邪と大差なくなるまで、あと1カ月か、2カ月か。しかし、もう一息のところで隙を作って命が危険にさらされたら、もったいない。その小さな努力は、ウィズ・コロナ時代の日常的リスクに対しても、有効なはずである。

「週刊新潮」2022年3月3日号 掲載

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