「SNSで説教と自慢」「ゲームに高額課金」 中高年を蝕む「スマホ脳」の実態

「SNSで説教と自慢」「ゲームに高額課金」 中高年を蝕む「スマホ脳」の実態

高齢者"スマホ認知症"に警鐘

「SNSで説教と自慢」「ゲームに高額課金」 中高年を蝕む「スマホ脳」の実態

コロナ禍に高齢ユーザー急増でトラブル多発!

 オンラインゲームにはまり、SNSで炎上騒ぎと聞けば子どものネット依存が頭に浮かぶ。だが、これらは中高年の「スマホ脳」がもたらすトラブル。利用者急増の陰で、IT知識の乏しさから予期せぬ出費に見舞われ、人間関係にヒビが入るケースも後を絶たないのだ。

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 コロナ禍での自粛生活が続くなか、スマホを使う高齢者が急増している。

 IT分野のマーケティングリサーチを手がけるMMD研究所が発表した、「2021年シニアのスマートフォン・フィーチャーフォンの利用に関する調査」によると、60〜79歳のスマホ利用率は実に84.7%。前年比で7.7ポイントも増加したことになる。

 神奈川県の老人クラブで役員を務める女性(70)もそのひとりだ。

「対面での活動や集会ができず、感染を恐れて外出しない会員も多かった。少しでも交流の場を持ちたいと、娘に猛特訓を受けて1年前にLINEのグループを立ち上げたんです」

 参加者は地元の60〜80代の高齢者約20人。当初は誰もが「おっかなびっくりだった」というが、次第に気楽なやりとりができるようになった。だが、喜んだのも束の間、思わぬ話題が増えていく。

「家族への愚痴やお嫁さんの悪口を書き込む人が出てきたんです。病気の話も多くて、あっちが痛い、こっちがつらいと暗い内容が続く。励ましたり、やんわり注意したり、私なりに気を使っていたけど、そのうち仲間割れしてしまい……」


■セクハラメッセージが……


 きっかけは昨春開始されたコロナのワクチン接種だ。若者よりも接種を優先された高齢者だが、一時は予約の電話さえ繋がらない状況だった。

 LINEのグループ内では、不安を募らせる人がいる一方、早々に接種を済ませた人もおり、おまけに嬉々として報告する投稿があったからたまらない。

「カチンときた人たちがきつい言葉で批判すると、言われたほうも言い返してもうめちゃくちゃ。必死に取りなすと、今度は私がやり玉に挙げられてしまった。親しかった人から、“あなたがLINEに誘ったせいよ!”と責められて、すっかり落ち込みました」(同)

 良かれと思ってはじめたSNSが人間関係の火種になるのは、高齢者同士に限らない。小学生の息子を持つ女性(39)は、地域のイベントで知り合った高齢男性からフェイスブックで「友達申請」された。相手は自治会の会長として一目置かれる存在だったため、個人間で簡単なメッセージ交換をするようになった。

「私が自宅でピアノ教室をしていると伝えると、クチコミで生徒集めに協力するとか、いかにも親切そうな印象。当初は、子ども会の行事や通学路の防犯活動を話題にしていました」

 ところが、次第に休日の過ごし方や夫の職業といった私生活を尋ねられるように。ついには「ピアノの先生だから、エッチな指使いもうまいんでしょう」と卑猥なメッセージまで届いた。

「仲良しのママ友に相談したら、“そんなエロジジイは許しちゃダメ”と彼女が自分のツイッターで告発してくれたんです。当事者の名前は出さなかったけど、わかる人にはわかる。男性の信用はガタ落ちだし、近所のママたちには完全に嫌われてますね」


■SNSで説教と自慢話


 一方、フェイスブックでは共通の友人や会社名、出身校などの登録情報をもとに「知り合いかも」と自動表示されることがある。利用者同士を結びつける機能だが、「つながりたくない人が表示される」と困惑の声も少なくない。

 食品メーカーに勤務する男性(45)は、退職したかつての上司からの「友達申請」を断れなかったという。

「友達になると、お互いの投稿へのコメントや個人間のメッセージ交換ができます。元上司は私の投稿にいちいち絡んできて、仕事の進捗状況を批判したり、今どき通じない根性論を振りかざして説教が始まったりする。“自分は5年連続トップセールスで社長表彰だ”と昔の自慢話までされて、本当に迷惑ですよ」

 都内で高齢者向けのスマホ教室を開催する、NPO法人「竹箒の会」の橋詰信子副理事長は、「高齢者のSNS利用は、若者とは違った注意が必要」と指摘する。

「SNS上のコミュニケーションでは、互いの表情や仕草、声色がわからない。ニュアンスを伝えたり、相手との距離感を測ることが難しく、真意とは違った解釈をされることもあります。特に高齢者は、かつての井戸端会議の延長で噂話を広めたり、これまでの経験からくるプライドで偉そうなことを言ったりしてトラブルを招きやすいのです」


■60歳以上の相談件数は34万件


 SNSを利用しなくても、スマホが原因で高齢者が思わぬ事態に巻き込まれることは少なくない。身近なところで気を付けたいのがネットショッピングだ。

 たとえば、〈今ならお試し無料〉という広告を見て健康食品や化粧品を申し込む。ところが、実際には〈定期購入の初回のみ無料〉で、意図せず商品代金を支払う羽目になったりする。

 2020年度に全国の消費生活センター等に寄せられた相談のうち、60歳以上の相談件数は約34万件に上り、このうちネットショッピングでの定期購入に関する相談は、約1万4千件と過去最多を記録した。

 定期購入などのトラブル以外にも、「うっかりミス」が起きやすい。

「ペットフードを5袋買おうとして、間違って1ダース入りを5ケース注文した」と話す女性(74)は、ショッピングカートの確認画面でミスに気づいた。

「でも、カートの中身を削除する方法がわからない。画面の文字は小さくて見えにくいし、指がすべって変なところを押しちゃうこともある。あれこれ操作してもっと注文数が増えるのも怖いから、結局、そのまま決済しました」


■利用明細を見て仰天


 一般的にショッピングサイトでは、カスタマーサービスで返品や交換を受け付けている。ただ、手続きにはアカウント(個人の登録情報)の確認が求められたり、メールやチャットによる問い合わせ画面が優先的に表示されたりする。操作に不慣れな高齢者には、こうした仕組み自体が難解だ。

 そもそも、スマホの利用契約自体が複雑で、端末の分割代や割引サービス、通信プランの内容が理解できないというケースも多い。

「77歳の母がひとりで携帯ショップに行き、5Gスマホとタブレット、光回線を契約した」という女性(50)は、実際の利用明細を見て仰天した。固定電話や電力会社まで変更され、有料動画配信サービスなどのオプションがセットされていたのだ。

「店員から“一緒に契約すればキャンペーンプランが適用されてタブレットは無料、光回線の通信料は半額になる”と言われたそうです。ただ、端末だけがタダでも基本料金は必要だし、通信料半額は最初の3カ月だけ。それまで月に5千円だった料金が全部合わせて2万円近くなりました」

 前出の橋詰氏のもとには、予備知識もなくスマホを購入し、後から困って相談してくる高齢者が後を絶たないという。

「スマホには昔の家電製品のような分厚い取り扱い説明書が付いてきません。契約や料金内容もWeb上で確認する方法が主流なので、“紙”になじんだ高齢者には使い勝手が悪いのです」

 おまけにIDやパスワードの設定、PINコードの入力、定期的なアップデートなどが必要だ。いざ使おうとしてもパスワードを忘れた、ロックが解除できない、うっかりアプリを消してしまった、といったトラブルも頻発している。


■恋愛ゲームに夢中


 無論、スマホやネットを使いこなし、ゲームに動画、ビデオ通話などを存分に楽しむ人もいる。

 オンラインゲームで対戦する「eスポーツ」では、平均年齢69歳という秋田県内のチーム・マタギスナイパーズがプロを目指して活動中。動画投稿サイトのユーチューブでは、節約料理や洋服のリメーク、DIYなどの動画を配信するシニアユーチューバーが注目を集めている。

 総務省の「通信利用動向調査」によると、インターネットを使う高齢者のオンラインゲーム利用率(2020年)は、70代男性が5.9%、女性は5.6%。脳トレにカラオケ、漢字パズル、歴史クイズなど、高齢者向けのゲームアプリも次々に登場している。

 夫婦二人暮らしの女性(66)は、キャラクターを自分好みに育成し、仮想空間でデートする恋愛シミュレーションゲームに夢中だ。

「ドラマチックな展開にときめいて、つい熱くなっちゃう。キャラクターの衣装やデートのお店で使うコインが必要なので、月に1万〜2万円は課金してます。ゲームを通じて知り合った人と深夜までチャットで交流すると、さすがに疲れて家事ができない。主人には散々叱られてるけど、逆に憂さ晴らしで、もっとゲームをしたくなるんです」


■父親が麻雀ゲームに熱中


 豊富なアプリが揃い、自宅にいながら手軽に遊べるオンラインゲームだが、その反面、依存や高額課金といった問題も起きやすい。

 都内在住の女性(45)は、地方の実家で一人暮らしをする父親(72)の様子が不安でならないという。

「もともと麻雀が趣味でした。コロナ禍で行きつけの雀荘が閉鎖され、スマホの麻雀ゲームを始めたら、たちまちのめり込んでしまった。睡眠時間を削り、ときには食事も取らずに没頭しているようです」

 感染拡大中は帰省もままならず、遠くから気を揉むばかり。昨年末、久しぶりに会った父親は妙にテンションが高く、麻雀ゲームの楽しさを一方的に語りつづけた。

「父のスマホをこっそり見たら、ゲーム仲間の女性から援助交際を求めるメッセージがあったんです。それとなく注意したところ、“俺に干渉するな”と激高し、以来まともに口をきいてくれません」

 半年前に夫(68)がオンラインゲームを始めたという女性(69)は、「月に5万円も課金しているんです」と嘆息する。

「VR(バーチャルリアリティー)ゴーグルを装着して、アダルトゲームをやってます。映像が立体的に、本物みたいに見えるようで、“すごい美人を相手にできる”と興奮してる。何度もやめるよう言ったけど、“外で浮気してるわけじゃない”、“性欲は男のバロメーターだ”と開き直られて。年金生活なのに課金が家計を圧迫するし、この歳になってこんな低俗な悩みを抱えるとは思いませんでした」


■脳過労が蓄積


 こうした高齢者に懸念されるのが「スマホ認知症」だ。物忘れ外来を設置し、多くの高齢患者を診察するおくむらメモリークリニックの奥村歩院長は、「スマホの使い過ぎで『脳過労』を起こす人が増えている」と警鐘を鳴らす。

「スマホから入ってくる情報は一方通行で刺激が強い。ネットサーフィンやオンラインゲームで一日中刺激にさらされるのは、いわば一日中甘いケーキやアルコール飲料を摂取しているようなもの。大量の飲食が健康を害すように、過度な情報の取り込みによって脳が疲れる。脳内の情報がうまく整理できず、認知機能に影響が出るのです」

 もとより高齢者は加齢による脳の老化が避けられない。それに加えて脳過労が蓄積すれば、ますますダメージが大きくなる。

「脳過労が自律神経の働きを低下させると、心身のコントロールができなくなります。やる気が出ず、何をするのも面倒になったり、めまいや肩こり、睡眠障害なども起きやすい。これまで穏やかだった人が急に怒りっぽくなる、物忘れがひどくなるなど、本当の認知症と見分けがつかない場合もあります」


■情報メタボ


 人間関係や生活上のトラブルのみならず、脳の働きにまで影響を及ぼしかねない高齢者のスマホ利用。一方でキャッシュレスやペーパーレスなどデジタル化が進む現状では、スマホは生活必需品、ネットは社会インフラともいわれている。「危ないから使うな」ではなく、いかに上手に、安全に使っていくかが問われるが、では具体的にどうすればいいのか。

 奥村院長は「スマホからの刺激を遮断し、自分を見つめ直すことが大切」とアドバイスする。

「もともとスマホを使っていなかったとき、何をしていたのか思い出してください。新聞を隅々まで読んでいたとか、丁寧に家事をしていたとか、自分のペースで行動し、時間を使っていたはずです。スマホから入ってくる目先の情報に振り回されず、まずは自分で考えたり、本当にしたいことを探したりする。『情報メタボ』になっている脳を休ませ、自分らしい幸せを感じてほしいです」

 奥村院長のお勧めは散歩だ。1日1時間でも近所を歩き、季節の移ろいや自然の風景を愛でながら五感を働かせる。こうすることで脳が活性化し、「スマホ認知症」の予防になるという。


■「家族に頼りすぎない方がいい」


 さらに、スマホ利用に関わるトラブル防止には、操作や契約などの基本的知識も欠かせない。とはいえ、先の橋詰氏は「家族に頼りすぎないほうがいい」と言う。

「操作がわからず家族に尋ねると、“貸して”と言われて勝手にいろんな機能を設定される。なおさらわからなくなってまた尋ねると、“さっき教えただろ”と面倒がられたり、“こんな簡単なこともできないのか”と怒られたりする。スマホに慣れ親しんだ若い人は、そもそも高齢者が何に困っているのかがわかりません」

 高齢者ならではの困り事に寄り添い、適切なサポートを受けるには、同世代でスマホに詳しい人に相談したり、スマホ教室に通ったりするほうが効果的。

 たとえば、総務省が実施する「シニア向けスマートフォン講習会」だ。デジタル化推進事業の一環として、昨年6月から全国1800カ所の携帯ショップや公民館で順次開催されている。対象者は延べ40万人、参加費は無料というから、初心者はもちろん、自分の利用状況に不安がある人も積極的に受講したい。

 ニュースや天気予報、交通案内や健康管理など、スマホには日々の生活に役立つアプリが満載できる。文字の音声入力や変換予測、検索などの音声案内といったアシスト機能も備わっている。正しい知識を持ち、節度ある使い方を心掛ければ、長い高齢期をきっと豊かにしてくれるだろう。

石川結貴(いしかわゆうき)
ジャーナリスト。静岡県生まれ。家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに豊富な取材実績を持つ。『スマホ廃人』、『毒親介護』、『スマホ危機 親子の克服術』など著書多数。

「週刊新潮」2022年3月3日号 掲載

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