ウクライナを攻撃するロシア「ミサイル」日本の技術が使われている? 元公安警察官の証言

 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を17年勤め、数年前に退職。昨年9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、日本からミサイル誘導システムを持ち出したロシアスパイについて聞いた。

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 ロシア軍は3月1日朝、ウクライナの第2都市ハリコフの中心部を巡航ミサイルで攻撃した。地方政府の行政庁舎やオペラハウスが破壊され、子ども1人を含む20人が負傷した。

 これまでロシア軍は数百発のミサイルを発射し、ウクライナの防空システムや滑走路、武器貯蔵庫などを攻撃した。これまでのロシア軍の攻撃で市民だけで350人以上の犠牲者が出ている(3月5日現在)。

「実は、ロシアのミサイルが目標を探知するための誘導システム技術は、駐日ロシア通商代表部のペトケヴィッチ・ウラジミルがニコンの技術者から入手したものです」

 と解説するのは、勝丸氏。

「彼は2003年に来日しましたが通商代表部の部員とは名ばかりで、実際はGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のスパイでした。2004年3月、都内で行われた科学技術展示会場でニコンの主任研究員と名刺交換し、『ロシアの貿易の仕事をしている。友達にならないか』と持ちかけたそうです」


■ミサイル誘導システムに不可欠


 ニコンの研究員は、「可変光減衰器(VOA)」と呼ばれる光通信を安定化する最先端技術と赤外線感知技術を担当していた。

「VOAを使うと、光通信で瞬時に大量の情報を転送することができます。また、赤外線感知技術は、最新ミサイルの誘導技術のひとつで、ミサイル発射目標を探知することができます」

 陸上自衛隊がミサイルの誘導システムを使用する場合、ミサイルの先端部分に装着した赤外線感知器で目標を探知し、VOAを使って光通信で地上部隊に転送。地上部隊は転送された画像に基づいてミサイルを誘導し、目標に命中させる。これらの技術は、最新のミサイル誘導システムには不可欠な軍用技術だという。

「当時ロシアは、VOAや赤外線感知技術を保有していませんでした。研究員がそれらの開発担当者だとわかると、ウラジミルはたいそう喜んだそうです。ロシアとしては、喉から手が出るほど欲しかった技術ですからね」

 ウラジミルは研究員と知り合ってすぐ、居酒屋に誘ったという。

「最初は、研究員に図書券やクオカードを渡していました。何回か会食するうちに、社内広報誌が欲しいと要求。その見返りに5000円を渡しています」

 会食を重ねるごとに、ウラジミルの要求のハードルが徐々に上がっていったという。

■赤外線感知器も要求


「VOAに関する情報や赤外線感知技術に関する情報を要求するようになったのです。それらの情報の見返りとして、ウラジミルは主任研究員に現金数万円を渡しています」

 ウラジミルの要求はさらにエスカレートした。

「VOAの現物を持ってきて欲しいと言い出したそうです。これまでロシアのスパイ事件では、周辺技術を入手するだけでした。現物を要求した例は聞いたことがありません」

 2005年3月、研究員はニコンの研究所である「コアテクノロジーセンター」からVOAを持ち出し、飲食店でウラジミルに渡した。

「この頃には、公安部外事1課がウラジミルがニコンの社員に頻繁に会っているとの情報をキャッチしていました。ウラジミルは、研究員に対して、赤外線探知器を持ってきて欲しいと再三に渡って要求していたのです。このままでは最先端の機密情報がロシアの手に渡ってしまうと思い、2005年10月、情報漏洩事件として摘発しました。ウラジミルは最終的に研究員と十数回接触し、現金200万円以上渡していました」

 研究員は2006年3月、ニコンを退社した。2006年7月、公安部はウラジミルに出頭要請したが、8月2日に帰国した。8月10日、主任研究員とウラジミルを窃盗容疑で書類送検した。警察庁は外務省を通じ、ウラジミルの再入国拒否の手続きを取ったという。

「VOAは、ロシアで軍事転用された可能性が強いとみています。今、ウクライナを攻撃しているロシアのミサイルにも使われているのかもしれません」

デイリー新潮編集部

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