「秀和レジデンス」なぜ今注目? 東京を代表するレトロマンションの“マニアックすぎる”魅力とは

「秀和レジデンス」なぜ今注目? 東京を代表するレトロマンションの“マニアックすぎる”魅力とは

秀和レジデンス若者らを魅了

「秀和レジデンス」なぜ今注目? 東京を代表するレトロマンションの“マニアックすぎる”魅力とは

秀和レジデンスのマンション

■情熱がエスカレートし写真集を自費出版


 青い瓦屋根に白い塗り壁のレトロなマンション、と聞けば東京近郊に住む人ならピンとくるのではないだろうか。今年2月、ビンテージマンション「秀和レジデンス」をあらゆる角度から特集した『秀和レジデンス図鑑』(トゥーヴァージンズ刊)が発売され、そのマニアックすぎる内容がSNSで話題となっている。著者である谷島香奈子さん、hacoさんが語る秀和の魅力とは――。

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「秀和レジデンス」は、1964年、東京五輪の年に誕生したマンションシリーズで、東京を中心に134棟存在する。青い瓦屋根に白いモルタル塗りの壁、曲線を描くバルコニーのアイアン(柵)、などレトロな外観が特徴的で、愛好家も多くいるという。『秀和レジデンス図鑑』著者のhacoさんは秀和との出会いをこう振り返る。

「高校生の頃、受験を口実に上京した際、秀和の代官山レジデンスが目に入りました。そのときは、お城みたいでかわいいマンションだな、と思ったぐらいでしたが、その後、大学進学を機に東京に引っ越すと、あちこちに『青い瓦屋根に白い塗り壁』のマンションが立っているぞ、ということになんとなく気付いて。15年ほど前に仕事で秀和を訪れる機会があり、初めて『秀和レジデンス』という名前のシリーズマンションであることを認識しました」

 それ以降、散歩中に秀和を見つけると、観察して写真を撮るようになったというhacoさん。しかし、写真を集めているうちに秀和への情熱はエスカレート。数年前に秀和の写真だけを収めた写真集『かわいい秀和レジデンス』を自費出版したほどだ。

「数多く秀和を見ていくうちに、同じように見えても違う壁の模様やバルコニーの形状などが気になりだして、気付いたら各地にある140棟弱のほとんどを見に行くほど夢中になっていました。思いつきで写真集を販売してみたら500冊ほど売れて。秀和好きがこんなにいるんだ!と驚きましたね」


■「秀和専門サイト」を立ち上げ、ついに住むように


 もう一人の著者で、不動産とリノベーションを手掛ける「株式会社Style&Deco」代表取締役の谷島香奈子さんも、秀和の魅力にとりつかれた一人だ。

「15年ほど前、初めて秀和を見た時の衝撃は今でも覚えています。日光を受けてキラキラと光る青い瓦屋根と白い塗り壁のコントラストの美しさに「ヨーロッパの城みたい! これが大都会!」と驚いたんです。私が生まれた佐賀県には秀和どころかマンションすらあまりなかったので、余計に衝撃的だったのかもしれないです」

 それから日を空けずにいくつかの秀和と出会った谷島さん。そのうち「最初に見た秀和と似てるけど、雰囲気が違うのはなぜ?」「東京都内でよく見かけるけど、一体いくつあるの?」と気になり、「秀和巡り」を始めたという。

「たくさんの秀和を見ていくうちに、バルコニーのアイアンのデザインにハートが用いられていたり、ファサードにイカリのマークがあったり、同じように見えていた秀和レジデンスでも一つ一つ違う顔を持っていることに気付き感動しました。『なんて遊び心のある建物なんだろう!』と」

 そして2010年、魅力を多くの人に知ってほしいと考えた谷島さんは、「秀和レジデンスマニア」という、秀和レジデンスのみを扱うニッチな不動産サイトを立ち上げた。ついには、サイトをつくるだけでは満足できず、実際に秀和に引っ越してしまったというから、そのハマり具合は尋常ではない。


■「だってかわいいでしょ」


 そんな秀和に魅せられた二人が協力して作り上げたのが『秀和レジデンス図鑑』。建物ごとに異なる塗り壁の柄やバルコニーのアイアンなどを、たくさんの写真とともに紹介しており、ネット上で「マニアックすぎる」と話題になったのだ。そんな二人に秀和の魅力を聞いてみると、

「高度成長期に建てられているマンションなので、今の時代の建物にはない“おおらかさ”があるんですよね。壁の塗り方や、綺麗に曲げられた柵など、コスト度外視でディテールまで作り込まれている。今回、取材を進める中で当時デザインを手掛けられていた方にその理由を聞いてみると『だってかわいいでしょ』と言われました。コストよりも?かわいい“を大事にすることができた心豊かな時代を思うと、少しうらやましいような気持になるんです」(hacoさん)

「やっぱり魅力は一目で秀和と分かるデザインですね。マンション自体が一般的ではなかった時代に、お城みたいな建物ができたことは衝撃だったと思うんです。秀和レジデンスの初期の頃は、高級路線だったこともあり医者や芸能人、海外赴任経験者の方など、先進的な方が住まれていたそうです。映画『終わった人』で舘ひろしさんが演じた東大卒のエリート銀行マンが住むマンションは秀和といわれていますが、建物を見るだけで時代背景まで想像してしまうようなデザインは秀和にしかないんじゃないでしょうか」(谷島さん)


■一周回って若い人に刺さるデザイン


 そんな秀和レジデンスはなぜ今の時代になって注目を集めているのだろうか。

「私が不動産の世界に入ったころは、リノベした古いマンションに住むのは、マニアックな一部の人だけでした。実は10年前から秀和の本を作りたいと思って企画書を持って出版社を回ったのですが、当時は『マニアックすぎる』と断られていましたから(笑)。でも今は新築マンションにはない趣があり、それでいてお手頃ということで、ヴィンテージマンションを選ぶ方も増えています。そういったニーズもあって、多くの方に興味を持ってもらえているのかな、と思いますね」(谷島さん)

 とはいえ、SNSでの反響には驚いているそうで、

「高度経済成長期の建築が好きな人に刺さるとは思っていましたが、Twitterの反応などを見ていると、幅広い人に興味を持ってもらっているようです。東京に住む多くの人は『青い屋根の変わったマンションよく見るな』と何となく思っているのではないでしょうか? そういう日頃から秀和が気になっていた人たちが興味を持ってくれたのかもしれません。秀和を見て、ある一定以上の世代の方は『古臭い』と感じるのかもしれませんが、若い世代にとっては一周回って新鮮に映るのだと思います」(hacoさん)


■細部の意匠は「現在では再現できない」


 若い世代にも注目を集める秀和だが、今後、その数は減っていく可能性が高いという。

「2020年秋、秀和レジデンス第1号の『秀和青山レジデンス』が建て替えられるという悲しいニュースが飛び込んできました。これから新たに建てられることはないでしょうし、古いマンションの修繕は本当にお金がかかるので、残された秀和も建て替えが進むでしょう。建て替えられなかったとしても、細部の意匠は現在では再現できない部分もあります。だからこそ、秀和に興味のある方は今のうちに目に焼き付けることを強くおすすめします。」(谷島さん)

 高度経済成長期の東京を象徴する建物の一つである、秀和レジデンス。その姿が残っているうちにじっくり観察してみてはいかがだろうか。

谷島香奈子(やじまかなこ)
不動産&リノベーション会社 (株)Style & Deco代表取締役。秀和レジデンスの情報を集約した専門の不動産サイト「秀和レジデンスマニア」(http://www.shuwa-mania.net/)、中古マンションリノベのワンストップサービスのパイオニア「EcoDeco」(http://www.ecodeco.biz/)を運営。著書に『中古を買って、リノベーション。』(東洋出版)がある。

haco(ハコ)
古い建物、とくに秀和レジデンスをはじめとしたヴィンテージマンションが好き。街で気になった物を写真に撮りzineを制作している。『いいビルの世界 東京ハンサムイースト』(大福書林)を共同執筆。サイケデリックでキュートなスイーツを制作するpsychedelic sweets spicaとしても活動中。

デイリー新潮編集部

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