高齢者はコロナより肺炎に注意すべき? 外出自粛より重要な対策とは

高齢者はコロナより肺炎に注意すべき? 外出自粛より重要な対策とは

乗るリスクを減らすために

 コロナ死者が減らないが、その平均年齢は80代半ばで、持病がある人が体力を失うケースが多い。目立つのは肺炎である。だが、これまでも冬は風邪やインフルエンザをこじらせ肺炎で亡くなる人は多かった。いまや高齢者にとって怖いのはコロナより肺炎である。

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 たしかに、いまなお新型コロナウイルス感染症患者の死者数は、高い水準で推移している。2月22日には全国で過去最高の322人を記録し、その後も200人を超える日が多い。

 人命が失われている以上、一人一人が命を守る方法を考える必要があるのは、言うまでもない。だが、いまなにが起きているのかを正しく見極めないと、むしろ命が危険にさらされることにだってなりかねない。我々は現在、そんな難しい局面に立たされている。


■インフルエンザでの死者と同じメカニズム


 というのも、「新型コロナ死者数」なる言い方が一般的なので、誤解しやすいが、札幌医科大学の當瀬(とうせ)規嗣教授(細胞生理学)は、

「コロナが直接の死因ではなく、もともと弱っていた体力がコロナに感染してさらに奪われ、最終的に誤嚥性肺炎などを起こして亡くなる事例が増えています」

 と説明する。具体的にはどういうことか。

「オミクロン株は鼻腔や喉などの上気道で増殖しやすく、肺の炎症すなわち肺炎を、直接的に引き起こす作用はありません。感染をきっかけに肺炎を発症している。つまり、高齢者の鼻腔や喉に炎症が起きて嚥下機能が低下し、誤嚥性肺炎を引き起こしていると考えられます。実は、これまでも毎冬、風邪やインフルエンザにかかった高齢者が肺炎を発症して亡くなる、ということが繰り返されてきました。いま起きているのは、それとまったく同じメカニズムです。しかし、現状ではコロナにかかって肺炎で亡くなれば“コロナ死”にカウントされるため、どうしても死者数が強調される傾向にある。そのことには留意が必要です」


■肺炎は“二次災害”


 東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科の寺本信嗣教授も、今の状況についてこう語る。

「コロナはもはや普通の風邪になったと実感しますが、それでも、高齢者がコロナ感染をきっかけに亡くなるケースは少なくありません。ただし、オミクロン株に置き換わってリスクが低減したのも事実。肺胞の表面積はテニスコート1面ほどもあるのですが、デルタ株までは2日程度で、表面積の半分程度にまで炎症が広がることも珍しくありませんでした。しかし、オミクロン株では炎症が広がる速度も低下し、肺の半分近くまで炎症を起こす人の割合は10分の1以下に減少。オミクロン株が単体で肺炎を引き起こすことはほぼなくなり、現在、コロナ患者が発症する肺炎は“二次災害”のようなものです」


■高齢者が気をつけるべきは肺炎


 つまり、いまは“二次災害”をいかに防ぐかが重要だ、ということだろう。そのためにはまず肺炎について知ることである。寺本教授が続ける。

「肺炎で亡くなる方は年間約10万人。そのうち誤嚥性肺炎が4万5千人程度だとされますが、実際には、10万人の大半が誤嚥性肺炎と見られています。医師が死因を書く際、“誤嚥性”を省略して“肺炎”と書いてしまうケースが多いからです。日本人の死因は1位がん、2位心疾患、3位肺炎です。10年ほど前まで3位に入っていた脳血管疾患のほか、多くの病気が医療の進歩とともに、徐々に克服できるようになる一方で、高齢者の肺炎は老衰などと隣り合わせの面があり、いまだ手付かずの領域として残されているのです」

 そして、こう加える。

「現状、コロナにかかって亡くなる方は、ほぼ70〜90代の高齢者です。肺炎で亡くなる方の多くが85歳以上で、それに近づいてきている印象です」

 要するに、高齢であればあるほど、オミクロン株の感染状況を問わず、肺炎に気を付けるべきだという話なのである。


■症状が軽いわけではない


「私たちの病院では、第6波だけでオミクロン株に感染した400人近い患者さんを診療し、一部入院していただきました。そのなかにはデルタ株のときと同様、肺が真っ白になっている人もいましたが、それ以外の多くは、おそらく細菌性肺炎、それも誤嚥性肺炎を発症していました」

 こう語る池袋大谷クリニックの大谷義夫院長(呼吸器内科)に、これらの肺炎について解説してもらう。

「たとえばインフルエンザウイルスなどに感染すると、免疫力が下がり、二次性の細菌性肺炎を合併することがありますが、同じことがオミクロン株でも起きています。高齢者が感染すると、加齢によりもともと免疫力が低くなっているため、上気道の炎症を契機に免疫力がさらに下がり、肺炎球菌などが原因で細菌性肺炎や誤嚥性肺炎を起こすことが多くなっています」

 そのメカニズムだが、

「誤嚥性というと、食べ物が間違って気道に入ってしまうイメージを持たれがちですが、そうではありません。夜間などに口腔内細菌を含んだ唾液や、逆流性食道炎で逆流した胃酸と唾液が混じったものが、間違って気道に落ちて肺炎を引き起こします。本来は誤嚥しても、肺のなかの免疫であるマクロファージが戦って、倒してくれますが、免疫力が低下していたり、細菌の量が多かったりすると、負けてしまうのです。オミクロン株に感染したうえに誤嚥を起こすと、上気道にあるオミクロン株が直接肺まで入ってくることもあります。あるいは、誤嚥した口腔内細菌の増殖を抑えられず、肺炎になるのです」


■「家庭内感染の収束スピードが遅い」


 また、“二次災害”だからといって、症状が軽いわけではないという。

「最初は症状がマイルドでも、急激に悪化して、呼吸不全になることも珍しくありません。そのうえ誤嚥性肺炎は、抗生物質で治癒しても、ぶり返すことが多い。飲み込む筋力や咳でウイルスを外に出す力の衰えなど、老化に起因するだけに、原因を根本的に取り除くのが難しいのです。若い人は誤嚥しても、抗生物質を処方して終わりですが、高齢者の誤嚥性肺炎には特効薬がなく、やっかいです」

 オミクロン株が普通の風邪に近いものになったところで、高齢者にとっては決して侮れない、ということである。それなのに、いまも80〜90代に感染が広がる傾向にあるという。原因として、當瀬教授は、「家庭内感染の収束スピードが遅いこと」を挙げる。

「家庭内で子供たちから親へと感染し、親の勤務先の介護施設や病院などで高齢者に広がっていく、という構図です。オミクロン株は罹患しても無症状のことが多いため、感染者や濃厚接触者が無自覚に感染を広げているケースが少なくない、と考えられています」


■嚥下機能低下の原因


 3回目のワクチンを打ち、マスク着用や手洗いを改めて徹底するしかなさそうだが、自力で動けない高齢者には逃げ場がない。となると肺炎の予防措置が、ことのほか大事になってくるだろう。大谷院長が言う。

「予防としては、まず肺炎球菌ワクチンを打っていただくこと。口腔ケアも大事です。口のなかの細菌を減らすことは、誤嚥性肺炎の予防効果にエビデンスがあります。私は毎食後に5分と寝る前に10分は歯磨きをしますが、最低5分程度は磨いたほうがいいです。また、誤嚥は寝ている間に起きるので、特に寝る前は口のなかをキレイにしておきたいです。そして、誤嚥や逆流を防ぐために、食後90分は横にならない。寝る前になにかを食べることもお勧めできません」

 寺本教授が加えるには、

「口腔ケアを行うことで、肺炎の発症率が半減したというデータもあります。歯磨きに、歯間ブラシやマウスウォッシュを併用しても効果的です。要介護の方であれば、家族が代わりに口腔ケアを、こまめに行ってあげてください」

 再び大谷院長が言う。

「コロナ禍で人と会う機会が減ったことも、嚥下機能低下の原因の一つかもしれません。喋る筋肉と飲み込む筋肉は似た場所にあるので、喋らなくなると筋肉が余計に落ちてしまう。電話やズームでもいいので、友人やお孫さんと喋ってほしいですね」


■自粛よりも免疫を高める


 當瀬教授は、免疫力を高めるためにこう提唱する。

「散歩やウオーキングを勧めます。いま感染を警戒して外出を控え、自宅にこもりがちな高齢者は多いですが、運動不足になると体力も落ち、結果的に免疫力の低下を招きます。ウイルスを撃退する免疫機能を損なわないためにも、日々の生活に軽い運動を取り入れることは重要です」

 また、食事にも留意すべきだという。

「特に高齢の方は、免疫機能を調整する働きがあるビタミンCとビタミンDの摂取を心がけてほしい。前者はピーマンやジャガイモなどの野菜のほか、イチゴやキウイなどの果物に多く含まれ、後者はサケやイワシなどの魚やキノコ類などが多く含む。ビタミンCとDを意識しながらバランスよく食べることで、免疫力の向上につなげられます」

 ところで、冒頭で指摘したが、いま高齢者がさらされている肺炎の危機は、コロナ禍の特殊な状況ではない。冬場はこれまでもそうだったし、今後も繰り返されるだろう。老年医学が専門の和田秀樹氏が言う。

「毎年、肺炎で亡くなる約10万人の97%以上は、65歳以上の高齢者だといいます。風邪のウイルスは原則的に上気道炎で止まり、肺にまで侵入しませんが、肺気腫がある人はそれで亡くなることがあるし、高齢で免疫が低い人は、細菌性の肺炎に陥って亡くなってしまう。その場合も死亡診断書には“肺炎”と書かれるので、もともとの原因が風邪であるようには見えません。しかし、肺炎で亡くなった方のうち、どんなに少なく見積もっても1〜2割は、風邪をこじらせた結果だと考えられます。1年にコロナで亡くなる方が1万人だとして、毎年、同じくらいの人数が、風邪をこじらせて亡くなっていることになる。なので、リスクがある方は肺炎にならないように気を付ける、という基本的な話に戻ってくると思います」


■2類指定の弊害


 肺炎にならない――。風邪でもコロナでも気を付けるべきはそこだが、著しい矛盾を和田氏が突く。

「多くの医師はこれまで風邪の対策を尋ねられて“免疫を高めましょう”と言っていたのに、コロナについては“自粛しましょう”と反対のことを言って、楽しみを禁止しています。しかし、家にこもって、お腹も空かないから栄養もあまり摂らないのでは、免疫力が下がって当然です」

 それは、コロナだけが特別視されることによる弊害の一つだろう。残念ながら、リスクを抱える人をさらにリスクにさらす弊害はほかにもある。代表例は、相変わらずコロナが感染法上の2類相当のままであること。和田氏が続ける。

「コロナが2類であり続けることで、コロナ以外の病気の人が医療機関に受け入れられないなどの不利益が生じているし、医療関係者が濃厚接触者になって自宅待機させられた結果、人手が足りずに医療が逼迫するという、ばからしいことが起きています。また、2類であるためにコロナ病棟を作らざるをえず、基礎疾患や別の疾病で入院していた人が感染してそこに入れられると、専門医に付きっきりで診てもらうことも難しくなってしまいます。2類のままだと見舞いに来てもらえないのも問題で、心理面で参ってしまう人が少なくありません」


■命を守るという建前


 寺本教授も指摘する。

「コロナ患者は感染症病棟で診療しなければならない、という制約のもと、持病や基礎疾患の専門医による診療が行いにくい面があるのは事実です」

 再び和田氏の話。

「このようにコロナを5類にすべき理由はたくさんあります。もっと強毒な変異株が登場したら、と言う人もいますが、そのときは2類に戻せばいいだけです」

 命を守るという建前のもと、2類相当のままにされた結果、基礎疾患が悪化して死亡する患者がいるとしたら、本末転倒もはなはだしいではないか。肺炎にならないように、個人が最大限に気を付けるべきはもちろんだが、本当の意味で命を守るための決断が、政府に求められている。

「週刊新潮」2022年3月10日号 掲載

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