接種後死亡者の死因に「コロナワクチン」 法医学の権威が明記した理由…補償金4420万円の初適用となるか

接種後死亡者の死因に「コロナワクチン」 法医学の権威が明記した理由…補償金4420万円の初適用となるか

厚労省の判断は……

 無論、コロナ禍において「ワクチン」が果たす役割は多大である。だが、それは完全無欠の存在ではなく、副反応として頭痛や発熱、ごく稀に心筋炎などをもたらすこともある。では、この男性の「死」との因果関係はどうか――。法医学の権威が導き出した「結論」とは。

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 この男性が61歳で亡くなったのは昨年8月10日のことだった。男性の息子が当時の状況を明かす。

「大阪の実家で母と一緒に暮らしていた父は、昨年7月に最初のワクチン接種を受けています。そのときは体調に変化は見られなかったのですが、8月5日に2回目を打ったところ、接種翌日から“異変”が現れ始めました。日課にしていた毎朝1時間の散歩に出かけたものの、すぐに家へと引き返し、母に“息苦しいから切り上げてきた”と」

 以降、体調は悪化の一途をたどった。1階から階段でリビングのある2階に上るだけで激しい息切れを起こし、椅子に座って呼吸を整えなければ身動きできないほどだったという。男性は妻にこう吐露している。

「ワクチン打ってから体がしんどいねん……」

 そして、8月10日の朝、男性はワクチンを打ったクリニックに診察予約の電話を入れ、自転車に乗って家を出た。だが、「やっぱしんどい」と言って自転車を降りるや、うめき声をあげながら倒れてしまう。

「見送りに出ていた母は、慌てて近所の人に助けを求め救急車を呼んだそうです。ただその時点で父は心肺停止状態。救急救命センターに搬送されましたが、まもなく息を引き取りました」


■警察は「血栓の原因はワクチンにあるようだ」


 男性は社会人ラグビーの元選手で、50代まで子供向けのラグビー教室の講師を務めていた。

「10年ほど前に一過性脳虚血を経験しましたが、以降は母が気を使い、食事は野菜中心の減塩メニュー。タバコは吸わず、お酒も週末に発泡酒を2缶飲む程度でした。昨年3月の健康診断でも高血圧や高脂血症などの異常は一切見つかっていません。それだけに、どうしても納得がいきませんでした。父の急死はワクチン接種と関係しているのではないか……。そんな疑念が頭から離れず、警察の方と話し合って司法解剖をお願いすることにしたのです」

 司法解剖の結果、遺族のもとには〈肺動脈に血栓が詰まったことが死因〉との報告がもたらされる。

 さらに、昨年12月、

「警察から母に連絡があり、“精密な調査を行ったところ、血栓ができた原因はワクチンにあるようだ”と聞かされました」


■司法解剖を担当した医師が解説


 厚生労働省によると、ワクチン接種後の副反応との関連性が疑われる死亡事例は、今年1月23日時点で1400件を超える。一方、国は予防接種法に基づき、ワクチンの副反応などで死亡した場合、遺族に一時金4420万円と葬祭料約20万円が支払われる救済制度を設けている。だが、新型コロナに関して死亡一時金が支払われたケースは未だ“0件”である。

 今回の遺族は、死体検案書や過去の診断記録などを集め、今年1月に救済制度への申請を行い、審査の結果を待っている状態だ。

 果たして、男性の死とワクチン接種には、本当に因果関係があるのか。

 この謎に迫るため、死体検案書の内容を改めて確認してみたい。

 書面の“直接死因”には〈急性肺動脈血栓塞栓症〉という病名が記され、原因は〈下肢深部静脈血栓〉とある。加えて、血栓が形成された原因として〈新型コロナワクチン接種(2回目)〉が挙げられている。

 少々、複雑な話になるため、専門家にご解説願おう。

 登場していただくのは、実際に司法解剖を担当した、大阪医科薬科大学・法医学教室の鈴木廣一名誉教授。

「足利事件」再審をはじめ、数多くの刑事裁判でDNA鑑定を担った法医学界の重鎮である。大阪府警から依頼を受けた鈴木氏によれば、

「死因を調査する際、われわれ法医学者は亡くなられた方のご遺体を解剖します。今回の場合は、心臓から肺に血液を送る“肺動脈”で異常が見つかりました。肺動脈は心臓の右心室を出ると、すぐ二手に分かれて左右の肺へと向かいますが、その双方の肺動脈に血栓がびっしりと詰まっていた。こうなると、血液中の酸素濃度が急激に低下し、呼吸困難や心停止を起こしてしまう。おそらく即死に近い状態だったと思われます」

 これが先の〈急性肺動脈血栓塞栓症〉を指す。では、この血栓は一体どこから来たのだろうか。


■右脚にだけ大量の血栓


「急性肺動脈血栓塞栓症を引き起こす原因のほとんどは、下肢深部の静脈にできた血栓です。ふくらはぎから大腿部に至る下肢の奥の筋肉の内側には太い静脈が走っており、そこに血栓が生じる。これを“下肢深部静脈血栓”と呼び、いわゆるエコノミークラス症候群もこの血栓に起因します」

 そこで鈴木氏は、遺体をうつ伏せにし、左脚のふくらはぎを切開して深部静脈の状態を確認したが、血栓は見つからなかった。

 しかし、続けて右脚の深部静脈を調べてみたところ、そこには、ウインナーソーセージのようにブツブツと連なった状態の血栓が詰まっていたという。

「左脚に血栓が全く見当たらない一方、右脚の深部静脈には、ふくらはぎから大腿部まで大量の血栓が見つかりました。静脈血栓は血液の流れが滞って生じることが多く、体内の環境が同じであれば、基本的に両脚とも同じ状態になる。片脚だけに血栓が偏在するのは不自然です。そのため、左右の下肢深部静脈にあった血栓のうち、左脚の血栓だけが何らかの事情で剥がれて血流に乗り、最終的に肺動脈に詰まったのではないか、と推測しました」


■「ワクチン接種後の血栓と捉えるべき」


 問題はここからだ。

 この推測が事実だったとして、血栓の形成が“ワクチンに由来する”とまで言い切れるのか。

 鈴木氏は「その因果関係や科学的なメカニズムを完全に証明することは難しい」と率直に述べながらも、

「重要なのは血栓が形成された時期です。肺動脈を塞いだのが、以前から体内に存在していた血栓ではなく、亡くなる直前に生じたものであれば、ワクチンが影響した可能性は高い」

 ここで鈴木氏が着目したのは、亡くなる直前の男性の状況だった。

 ワクチン接種後に息切れや体調不良を訴え始めたのであれば、「その頃から血栓が剥がれ始め、肺への栓塞が始まったと考えるのが妥当」(鈴木氏)。また、死亡当日に、男性が自転車に乗ってクリニックへと向かったことを考慮すると、

「自転車を漕ぐという筋肉の動きをきっかけにして、左脚の深部静脈から大量の血栓が剥がれた可能性が考えられる。こうした推測が成り立つと、血栓が最近になって形成されたものであることを示す材料にもなります。というのも、古い血栓は血管の内壁に癒着して簡単には剥がれないからです。実際、右脚に残されていたのは、形成から時間が経って固着したものではなく、いまにも剥がれそうなほど新鮮な血栓でした」

 さらに、鈴木氏は試薬を用いた分析も行っている。

「ベルリン・ブルー染色法と呼ばれる手法で、血栓の形成時期の新旧を調べました。古い血栓組織は試薬と反応させると青色に染まります。ただ、今回のご遺体の肺動脈に詰まった血栓組織は青く変色しませんでした。ワクチン接種後に新しく形成された血栓と捉えるべきだと思います」


■蓋然性が高い


 さらに、健康な人が通常の生活を送っている限り、下肢深部静脈血栓は容易には形成されないという。

「たとえばエコノミークラス症候群のように、狭い座席や災害時の避難所で長時間、脚を動かさずにいると、血流が悪化して血栓ができやすくなります。ベッドで入院生活を送っている患者も同様です。しかし、今回の方は亡くなる直前まで普段通りの生活をされている。BMIは26.2で“軽度肥満”に該当しますが、極度の肥満や高脂血症と違って血栓形成のリスクが高いとはいえません。日常的に多量の飲酒もせず、散歩を日課にしていた。そんな健康な方が、ワクチン接種から5日後というタイミングで、形成されてまもない血栓を詰まらせて亡くなった。ワクチン接種によって血栓が生じた蓋然性が高いと考えるのが自然です」

 法医学の権威の言葉には説得力がある。だが、ここまで精査しても、国の救済制度に認定されるとは言い切れないのが実情だ。


■補償はなされるのか


 医師で、東京大学大学院法学政治学研究科教授の米村滋人氏によれば、

「現在の救済制度は、あくまでも“国が給付金を支払うかどうか”に主眼を置いた設計なので、認定のハードルは高いと思います。また、“ワクチンが原因で死亡した”ケースについてのまとまったデータが存在しないため、因果関係を証明するのはかなり困難でしょう。日本は諸外国よりも時間をかけ、副反応のリスクが低いことを確認してからワクチンを承認しました。裏を返せば、少数とはいえ副反応が生じた場合に、救済認定を受けるのが難しくなってしまうわけです」

 もちろん、ワクチン自体の意義を否定することはできない。感染予防や重症化リスク回避という意味で、ワクチンが果たす役割が大きいのは間違いなかろう。

 そうした点を踏まえた上で鈴木氏が語るには、

「ここまでコロナ禍が拡大した以上、ワクチンを打たないわけにはいかないでしょう。ただ、ワクチンを接種した際の免疫反応は人それぞれ異なります。重篤な副反応が起こらないとは誰にも断言できません」

 ワクチン接種のリスクをゼロにはできまい。それゆえ、制度が設けられている以上、疑わしい事例についてはオープンな検証と議論を続け、補償すべきは補償する――。

 ワクチン行政にとって、そうした姿勢こそが信頼醸成や社会的コンセンサス形成のカギになるはずだ。

「週刊新潮」2022年3月17日号 掲載

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