地震で脱線した東北新幹線、300キロ走行中ならどうなった? 「多数の乗客に被害が及んでいた可能性」

地震で脱線した東北新幹線、300キロ走行中ならどうなった? 「多数の乗客に被害が及んでいた可能性」

みちのくの大動脈が寸断

 東日本大震災では起きなかった、営業運転中の東北新幹線の脱線事故。乗員乗客は全員無事で事なきを得たが、そもそも停車駅を目前に減速していたという“奇跡”や、過去の震災を教訓にした対策が功を奏したとの指摘もある。ならば新幹線の最高時速320キロで走行していても、大事故は防げるのだろうか。

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 3月16日、東京発・仙台行の東北新幹線やまびこ223号は、宮城県にある白石蔵王駅に到着するまであと数キロのところで、福島県沖を震源とする震度6強の大地震に遭遇。全17両のうち16両が脱線した。

「短時間で大きな地震が2度も起こったことが、不幸中の幸いでした」

 と話すのは、鉄道工学の第一人者である東京大学名誉教授の曽根悟氏だ。

「最初の地震で、感震器が大きな揺れを察知して自動で信号を送り、新幹線を緊急停止させる仕組みが作動してくれて、ほとんど停まった状態になった。そこで2度目の地震が襲ったと思われます。現場の写真をみても走行中に脱線した痕跡がないことから、停車後か停まる直前のタイミングで、車両がレールから外れたのではないでしょうか」

 脱線で最も恐ろしいのは車体が傾き対向列車と衝突してしまうことと、高架橋から落下することだとして、曽根氏はこう続ける。

「2004年の中越地震以降、この二つを防ぐため、JR各社で仕組みは違いますが『逸脱防止装置』をつけるようになりました。簡単にいえば、脱線しても車両がレールの外側に大きくはみ出さないための“つっかえ棒”のようなものですが、それだけで被害を防ぐのは難しいと考えます」


■“奇跡”はほとんどない


 一体どういうことか。

「阪神淡路大震災のような大きな直下型地震では、発生時刻が早朝だったため、車庫に停まっていた電車が多く脱線しています。つまりは強い揺れで突き上げられると、車体はレールを離れて大きく跳ね上がる。そのまま元通りに真下へと綺麗に落ちれば脱線しませんが、そんな“奇跡”はほとんどない。仮に最高速度の320キロで走行中、緊急停止が間に合わない状態で突き上げられてしまえば、車体は跳ね上がった勢いで逸脱防止装置が機能しなくなり、多数の乗客に被害が及んでいた可能性もあります」(同)

 加えて、地震はレールの土台となる高架橋などにも深刻な被害を与えた。脱線車両の撤去と共に構造物の補修にも時間を要するため、東北新幹線の全線再開は4月20日前後になる見込みだ。


■新幹線の「安全神話」


 日本大学鉄道工学リサーチ・センターでセンター長を務める綱島均教授は、

「地震対策で最も優先すべきは構造物で、ここが壊れてしまえば大惨事は免れません。鉄の板をコンクリートの柱に巻くなどの補強がオーソドックスなやり方ですが、これも実際に地震が来ないとどこまで有効かは分からない。もちろんJR各社は耐震補強工事を行っており、今回死者ゼロで済んだことの一因になっているかもしれませんが、人的被害が少なかったという結果論で安堵するのではなく、どの程度これまでの教訓が生きたのか、想定が甘かったのかを常に社会全体で検証していく必要があると思います」

 開業以来、災害や車両事故で乗客の死者が出たことのない新幹線の「安全神話」を、過信してはいけないのだ。

「週刊新潮」2022年3月31日号 掲載

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