橋下徹氏の「戦え!一色」はストローマン論法か

橋下徹氏がロシアによるウクライナ侵攻について持論展開 一人芝居で詭弁との指摘も

記事まとめ

  • ロシアによるウクライナ侵攻について、橋下徹氏は『戦え!一色』に疑問を呈している
  • しかし、そもそも『戦う一択の人』などどこにも存在しないと識者が指摘している
  • 橋下徹氏の論法は『ストローマン論法』というもので、一人芝居であり詭弁だという

橋下徹氏の「戦え!一色」はストローマン論法か

 ウクライナ侵攻に関しては、さすがにロシアを完全に擁護する日本人は少なく、許されざる蛮行だというのが衆目の一致するところである。が、ロシアとの距離感や事態の収拾方法については論者によってかなり主張が異なる。

 テレビやツイッター等での発信量が多いこともあり、多くの批判にさらされているのが橋下徹元大阪市長である。その主張もさることながら、論争の課程では橋下氏の「論法」も注目されているようだ。

 たとえば、橋下氏の次のような発言(発信)である。橋下氏はツイッター上で次のように述べている。

「ウクライナ戦争が始まったとき、この日本ですら戦え!一色になった。それは戦闘員の視点。しかし国家の大部分は非戦闘員。戦争指導はとかく戦闘員の視点になりがちで今回の日本の風潮もそうだったが、戦争指導は非戦闘員の視点も超重要。それが戦う一択ではないという意味。日本でもそうなりつつある。」(3月14日)

「多くの者が勘違いしたのは、安全保障の枠組みがなかった時代の旧ソ連の蛮行などを引っ張り出して、ウクライナは戦うしかない!!の一択。今は安全保障の枠組みがある。それを最大限に活用するのが政治の知恵。再度のロシアの侵攻を止めるにも結局ヨーロッパの安全保障の枠組みが必要。戦う一択ではない」(3月17日)

 たしかにウクライナの選択肢は「戦う」だけではない。しかし問題は、そもそも彼の言うような「戦え!一色」や「ウクライナは戦うしかない!!の一択」というのが、いったい何を指しているのかがあいまいな点である。具体的に誰のどの発言を念頭に置いているのかは示されていない。日本のどのあたりが「戦え!一色」なのかは不明だ。

 これに対して、たとえばイスラム思想研究者の飯山陽氏は、ツイッター上で次のように批判をしている。下の「妥結の人」とは橋下氏のことだ。

「「妥結の人」は現在もっぱら「戦う一択の人」と戦っているようだが、「戦う一択の人」などどこにも存在しない。彼はどこにも存在しない敵をでっちあげ、自らでっちあげたその藁人形をひたすら殴り続けているのだ。これは典型的な詭弁であり、詭弁はなんら有益なものはもたらさない。滑稽な一人芝居だ。」(3月17日)

 ここで飯山氏が「藁人形」という言葉を用いて言及しているのが、ネット上でもしばしば話題になる「ストローマン(藁人形)論法」だ。有名なところでは、宇多田ヒカルさんが自身のツイートで触れたこともある。


■宇多田ヒカルさんも悩ませた“ストローマン論法”


 2018年7月17日、宇多田ヒカルさんは次のようなツイートをして、1日のうちに4万件のリツイートを記録する反響を起こした。

「有名無名問わず、誰かがメディアでした話から別の誰かが一言だけ抜き取って、文脈から切り離してネットで持ち出して、そこから少数派を除いた多くの人がソースの文脈を参照しようとしないまま自己投影に基づいた批判や擁護(つまり妄想)のたたき台にして論争が繰り広げられる現象にまだ名前ないのかな」

 これに対して、フォロワーたちが「それはストローマン論法というのです」といった返答をしたところ、宇多田さんも反応して、

「ストローマン、または藁人形論法という言葉を初めて知ってスッキリした!」というツイートを残している。

 ストローマン論法のどこが問題なのか。これについては「デイリー新潮」で以前、有馬哲夫早稲田大学教授が長い論考を発表している。その一部を引用してみよう。

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 ストローマン論法とは簡単に言うと「相手の意見を歪曲して、その歪曲した意見に基づいて論破する」ことです。ストローマンとは藁人形、かかしのことです。倒しやすい相手の比喩のようです。

 もともと、新聞、テレビ、雑誌などのオールドメディアでも、政権批判する時などにこの論法は見られました。それがネットメディアの時代になって比較にならないほど増えました。一般の方が情報発信するようになったので当然です。

 ネットメディアでは、長さの制限があり、短く、しかし、インパクトのある切り返しをしなければならないので、この「汚い手」が常套手段となったのもうなずけます。しかも、匿名性が今のところ担保されているので、この「汚い手」を使っても、それをしたのが誰か特定するのが難しいということも、心理的ハードルを下げています。

 と言ってもまだしっくりこない人のためにわかりやすい例をあげましょう。

 Aさん「BLM(Black Lives Matter:アメリカで黒人が警察官に殺害されたことをきっかけに起こった抗議運動)の支持者の気持ちはわかるけれど、デモ隊の一部が商店を破壊したり、商品を略奪したりするのはどうなんだろう」

 Bさん「あなたは要するにBLMに反対してるんだ。だからデモ隊を非難するんだ。Aさんは人種差別主義者だと認定します」

 似たようなやりとりがネットメディアに多く見られます。あなたも見たこと、あるいは経験したことがあるかもしれません。

 Aさんは「BLMの支持者の気持ちはわかるけれど」と言っているので、「BLMに反対」しているわけではないようです。また、少なくともこの発言からは「人種差別主義者」と決めつけることはできず、むしろそうではないと判断するのが妥当だと思います。

 Aさんが問題にしているのは、破壊行為と略奪行為です。これはいくら大義があったとしても許されることではありません。Aさんは当然のことを言っているにすぎません。

 それなのに「あなたは要するにBLMに反対してるんだ」はまだ解釈の問題なのでギリギリいいとしても、「あなたは人種差別主義者だ」とまで言うと誹謗、中傷というより歴とした名誉棄損です。

 Bさんは、Aさんの「どうなんだろう」という表現を切り取ったうえで、「反対している」というように歪曲して、「人種差別主義者」というレッテルを貼っています。

 では、なぜBさんはこのようなストローマン論法を使ったのでしょう。それはBさんがAさんの発言に頭から反対していて、しかも悪意を持っているからです。そうでなければ「BLMの支持者の気持ちもわかるけれど」と言っているAさんを「BLMに反対しているんだ」と曲解したり、まして「人種差別主義者」とののしったりすることもなかったと思います。

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 橋下氏の例でいえば、対立する(と橋下氏が思っている)相手の言論を乱暴にまとめてしまう傾向があるのかもしれない。

「戦え!一色」「ウクライナは戦うしかない!!一択」といった表現の中の「一色」「一択」という言葉は象徴的ともいえる。実際にはほとんどの論者が「どのような戦い方をすることが最適なのか」について議論しているのだが、橋下氏のツイートは、極めて粗雑な主張をしている集団がいるかのような印象を読む人に与えるように書かれているのだ。

 こうした手法をどこまで橋下氏が意識して用いているかは不明である。しかしながら、重要な問題であればあるほど、言葉の取り扱いには正確さが求められるのは確かだろう。そうでなければ、不毛なやり取りが増え、議論はただ混迷するだけとなる。そうした状況を招くのも狙いの一つであるというのならば話はまた別だが。

デイリー新潮編集部

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