金沢・女性殺人未遂事件、被害者の夫はビジュアル系バンドのメンバー 容疑者が過去に起こしたストーカートラブル

金沢・女性殺人未遂事件、被害者の夫はビジュアル系バンドのメンバー 容疑者が過去に起こしたストーカートラブル

事件現場となった金沢市内のアパート

 0歳児と共に就寝中だった何の罪もない金沢市の30代女性はなぜ、一面識もない女に包丁で刺されなければならなかったのか。事件の背景には、ビジュアル系バンドのメンバーとして地元では知られる被害者夫と、容疑者女との「危ない関係」が見え隠れする――。

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〈就寝中の女性の腹部などを包丁で刺して殺害しようとした〉――新聞・テレビはそう伝えているが、その包丁は刃渡り20センチのものだった。しかも、

「腹部を刺した際、包丁の刃が被害者の骨にあたって折れている。明確な殺意があったからこそ、そこまで力を込めて刺したのでしょう」(捜査関係者)

 被害女性は腹部だけではなく胸や背中なども刺され、手には防御の際にできたとみられる傷もあった。一面識もない女に刺され続ける恐怖の中で、自分の身だけではなく、一緒に寝ていた0歳児を必死に守ろうとしていたのだろう。


■女性の叫び声と赤ちゃんの激しい泣き声


 被害女性と赤ちゃん、そして、事件当夜は夜勤で不在だった30代の夫が暮らしていた家はJR金沢駅から車で15分ほどの場所にある。駅の兼六園口にある金沢のシンボル・鼓門を背に駅前通りを経て国道157号線を南に走ると、ほどなく、北陸随一の歓楽街である香林坊や片町が見えてくる。カラオケ店や大型ショッピングモール、高級クラブがひしめく雑居ビルまで、さまざまな店舗が軒を連ねるこの繁華街も、金沢の街を東西に横切る犀川を越えると様相は一変し、寺院や住宅が立ち並ぶ静かな街並みが現れる。被害者宅はそうした金沢のベッドタウンの一角、有松にある。

 築20年余り、3階建てのメゾネットタイプの木造住宅。家の前には不自然にポツンと1本だけ、エナジードリンクの空き瓶が置かれていた。

 事件が起こったのは4月12日午後10時頃である。

「“ギャー”という女性の叫び声と、赤ちゃんの激しい泣き声が10分くらい続きました。叫び声がやんだ後に外に出てみると、数台のパトカーがすでに集まっていました」(近隣住民)

 殺人未遂などの疑いで逮捕されたのは、富山県砺波市に住む佐藤果純(かすみ)(35)。

「被害女性の夫と同じ介護福祉施設で働いていた佐藤はなぜか被害者宅の鍵を持っていました。佐藤は近くのコンビニに車を止めた後、鍵を使って被害者宅に入り、2階で寝ていた被害者に切りつけたとみられます」(社会部デスク)


■なぜ命を狙われたのか


「助けて」「殺さないで」という女性の叫び声や赤ちゃんの泣き声を聞いた近隣住民が110番通報した。

「警察官が被害者宅に駆け付けたところ、血だらけの女性が赤ちゃんを抱いて布団の上に座り込んでいた。そして彼女は目の前に立っている佐藤を指さし、“この人に刺された”と。その後、家からパトカーへと誘導したが、乗せようとするタイミングで佐藤は逃げようとするような動きを見せた」(金沢中署の副署長)

 逮捕された佐藤容疑者は、

「部屋の鍵を届けようと思って訪ねたら、相手の女性が血まみれになっていた」

 として容疑を否認。被害女性によると、佐藤容疑者とは面識がないという。何故、彼女は夫の職場の同僚に命を狙われなければならなかったのか。

 10歳以上年上の夫との間に小学1年の女の子と保育園に通う男の子、2人の子供がいる佐藤容疑者。そのFacebookのページを確認すると、被害女性の夫が「友達」として登録されていた。整った顔立ちで長髪、痩身。ベースを抱えた写真もあり、一目でバンドマンだと分かる。名前はここでは仮に、山下健斗さんとしておこう。


■北陸ではトップレベルのビジュアル系バンド


「え、健斗君があの事件の被害者の旦那だったんですか。驚きです。彼は地元のビジュアル系バンドの世界では有名人ですから」

 と、金沢の音楽関係者。

「彼が今やっているビジュアル系バンドは北陸地方ではトップレベルです。結成は昨年。北陸地方などのうまいミュージシャンが集まって結成されたのですが、健斗君もそこにベース担当で加わったわけです。健斗君はとにかく音楽バカ、ベースバカで、性格的にはちょっと天然なところがある。お酒を飲む時もずっとベースを抱えながら飲むんですよ」

 そのビジュアル系バンドのHPを見ると、化粧を施し、魔導士のような恰好をした山下さんの姿が確認できる。バンドのことを取り上げた雑誌では、〈極闇に産まれ闇に天恵を与えるもの〉と自己紹介している。

「あのバンドは元々ある程度名の知れたバンドマンを集めてきて結成されたので、売り出しの頃から結構人気があったと思います。ライブハウスでライブをやれば簡単に70〜80人は集まりますからね。健斗君のベースは、全国的に見れば掃いて捨てるほどのレベルかもしれませんが、県内でいえばやはり一流の部類に入ると思います」(同)

 別のバンド業界関係者に聞くと、

「健斗君は、顔はいいしベースもメチャクチャうまいからモテますが、チャラチャラした感じはあまりない。どちらかといえば寡黙、生真面目という印象です」


■ライブに顔を出していたことを確認


 捜査当局は、逮捕された佐藤容疑者が山下さんのライブに顔を出していたことを確認している。では、ファンとして一方的に好意を募らせた上での犯行だったのかといえば、コトはそう単純ではない。そもそも、山下さんと佐藤容疑者は「バンドメンバーとファン」としてではなく、勤務先の介護施設で初めて顔を合わせているのだ。

 佐藤容疑者の旧姓は中野で、石川県白山市出身。父親は元薬剤師で、年の離れた姉が2人いる。母親は彼女が高校生の頃に病死したという。

「彼女の性格はキツめで、勝ち気。急に“アンタより誰々のほうがかわいいわよね”とキツい言葉を投げかけられたことがあります。思ったことをハッキリと言う、敵を作りやすいタイプでしたね」

 と、中学校時代の同級生は振り返る。

「また別の時、彼女が髪をきれいに巻いていたので、“自分で巻いたの?”と聞いたら、“当たり前やがいね”と勝ち誇ったように言われてしまった。イヤな人というほどではありませんが、気が強いなぁと思っていました」

 中学時代の別の同級生は、

「彼女が高校生の時、彼女持ちの男を奪ったことがある、と聞いたことがある」

 そうしたところに、今回の事件につながる“激情”を見ることもできるが、若い頃の「問題児エピソード」はない。小学校の卒業文集では、〈心に残った授業〉として〈5年のときのいのちの授業〉をあげている。


■パワハラ被害を訴える声も


 そんな彼女は地元の県立高校から、やはり地元にある金城大学に進み、卒業後は介護福祉士として職を得た。今の介護福祉施設で働き始めたのは、

「約8年前。一方の山下さんは約6年前、介護施設の社長の知り合いの紹介で働き始めています。山下さんは元々は肉体労働をしていて、介護の仕事は素人。それを一から教えたのが佐藤だった、とのことです」(二人が働いていた介護施設を含む事業グループの代表者)

 二人が勤務していたのは、最大で20人弱の認知症などの高齢者が入居できる介護施設である。

「佐藤は職員としては有能で、前任の管理者が辞めるとすぐに次の管理者になったそうです。管理者というのはコンビニでいうところの店長みたいな立場で、職員全体への指示の他、シフトの作成も行うため夜勤手当など、間接的に給与の金額にも関われます」

 と、佐藤容疑者をよく知る人物が語る。

「職員への好き嫌いがハッキリと態度に出るタイプで、自分を慕う人にはフレンドリー、対立するような人とは距離を置く。管理者としてのやり方にもワンマンなところがあり、パワハラ被害を訴える声もあったと聞いています」


■気がかりな夫婦関係


 佐藤容疑者は職場の同僚の紹介で理容師をしている現在の夫と出会い、結婚。山下さんが同じ施設で働き始めるのは、その2〜3年後のことだ。

「私が聞いているところでは、佐藤と山下さんは仲が良いとも悪いとも言えない関係性だったそうです」

 と、佐藤容疑者の知人は言う。

「夜勤のみの勤務だった山下さんは施設では気さくな若者、お調子者といった感じで、バンド活動をしていることは施設の職員も知っていたけど、みんな、あくまでも趣味の範囲で音楽をやっているんだと思っていたそうです。山下さんの女性関係で浮ついた話も聞いたことはありません」

 ただし、この知人は“気がかりなこと”として佐藤容疑者の夫婦関係をあげる。

「彼女は地元の保育園に子供を預けており、元々は旦那さんも保育園の行事には参加していたそうです。しかし去年から彼女一人だけで参加するようになって、シングルマザーでない限り行事に旦那さんが来ないということはないので、保護者の間では、佐藤のところの夫婦関係がうまくいってないんじゃないか、という臆測が広がっていました」

 その原因こそ山下さんとの“関係”だったのか。


■過去にストーカートラブルが


 二人が働く介護施設を含む事業グループの代表者(前出)はこう明かす。

「介護施設の社長は事件後、職員らに対して聞き取り調査を行っています。“佐藤と山下さんは交際していたのか”と聞いて回ったところ、二人の不倫関係については誰も知らず、“まさかあり得ないでしょ”という感じだった、と聞いています」

 ただし、“怪しい”と感じていた職員もいたようで、

「施設の職員からは、“夜勤シフトで山下さんと佐藤が一緒になることが多く、露骨で気持ち悪かった”との声が上がっていたそうです」(前出・佐藤容疑者の知人)

 無論、介護施設の社長は山下さん本人に対しても聞き取りを行っている。しかし、

「山下さんは佐藤との関係についてあやふやな言い方をしているようです」

 と、グループ代表者。

「気の弱い山下さんは社長が質問するだけで萎縮してしまうようで、“お前、不倫していないよな”と聞けば“はい”と言うし、“不倫しただろ”と聞いても“はい”と答えてしまう。そういう性格らしいので、社長の聞き取りだけでは真相は分からないかもしれない、ということでした」

 ただし、真相に迫るためのヒントはある。

「社長による事件後の調査で、佐藤が以前、ストーカートラブルを起こしていたことが分かったのです。10年くらい前のことで、被害者は、彼女が以前働いていた職場の男性。手も握ったこともないのに、勘違いしてストーカー行為に及んだ、とのことです。その時は当時勤めていた会社の直属の上司が厳しく注意したことで収まったようですが……」(同)

 佐藤容疑者の夫は事件後、すぐに荷物をまとめて2人の子供を連れて家を出て行った。彼女が振るった凶刃は、自らの家族関係をも切り裂いてしまったのか。

「週刊新潮」2022年4月28日号 掲載

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