老母と次男を殺害した46歳男に懲役28年の判決 凄惨な現場にいた「もう一人の男」に最後まで残った謎

老母と次男を殺害した46歳男に懲役28年の判決 凄惨な現場にいた「もう一人の男」に最後まで残った謎

電気が点いた時には事件が起きていた――信じがたい供述を行った「もう一人の男」

 2018年に埼玉県所沢市の住宅でふたりの知人を殺害し遺棄したとして、殺人や死体遺棄などの罪に問われていた大谷竜次被告(46)の裁判員裁判判決公判が3月18日にさいたま地裁で開かれた。小池健治裁判長は懲役28年(求刑・無期懲役)を言い渡した。

 判決によれば、大谷被告は18年2月7日の夜から朝にかけて、所沢市の入江富美子さん(76=当時)宅において、別居の次男・大崎欣孝さん(53=同)を包丁で他数回刺して殺害したのち、入江さんを浴槽に沈めて溺死させた。さらに彼女の遺体の上に大崎さんの遺体を遺棄して立ち去り、入江さん名義のキャッシュカードを用いて現金約57万円を引き出したとされる。

 しかし、この事件はそう単純ではなかった。犯行時刻、入江さん宅にはもう1人別の男がいたのだ。しかも事件後、大谷被告はその男と行動を共にしている。2月14日に開かれた裁判員裁判の初公判で大谷被告は「やっていません」と起訴事実を否認し、弁護人は「入江さん宅に住んでいた知人の男がふたりを殺害した」と“もう1人の男こそが真犯人である”と主張していた。名指しされた57歳の知人の男・五十嵐(仮名)は当時、大谷被告とともに逮捕されたものの、殺人罪では処分保留に。死体遺棄と窃盗のみで起訴され、すでに服役を終えている。【高橋ユキ/傍聴ライター】

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 五十嵐は、2月28日の公判に証人出廷し、被害者の入江さんと大崎さん、そして大谷被告との関係を語った。大崎さんと五十嵐は小学校からの同級生で、2014年からは要介護2だった入江さんの身の回りの世話を住み込みで無償で行っていたという。

 検察官や弁護人に問われ、五十嵐は入江さん親子との関係をこのように語っていた。

「入江さんのことは、おばさんと呼んでいました。デイサービス受け入れ、病院送迎、買い物、お使いやオムツを替えたり、食事の世話や犬の散歩……言われたことは全部やってました。その通りやらないと息子さん(※大崎さん)ブチ切れるんで。病院に送っても金ももらえない、ガソリン代も出ない。風呂の水を替えたことや、ご飯の量が多いことも文句を言われたりしました」

 裁判員からの質問で「入江さんはとてもケチだったという人がいましたが、そうだったんですか?」と問われ「ケチでした!」と答える場面もあった。公判において入江さんの財布の紐が固いことは共通認識となっていた。

裁判長「介護の費用はもらってなかった?」
五十嵐「一銭も!!」
裁判長「食事代とかは出してくれてましたか?」
五十嵐「半額の弁当とかですね」

 さらに大崎さんについては「五十嵐が車で道を間違えただけで、ライターの火を五十嵐の顔に近づけるなどしていた」(判決より)とも述べられており、五十嵐との関係は対等とは言い難かったようだ。

 一方の大谷被告は、前科が複数あり、暴力団から逃げ出した身だった。入江さんの長男の仲介により、入江さんが管理するアパートに住まわせてもらっていた。事件の1週間前から入江さん宅で寝泊まりし、食事も世話になっていたという。


■「電気がついたときには刺していた」


 殺害の動機は大谷被告よりも、もともと入江親子と近しい関係だった五十嵐のほうにあるようにも思える。しかし五十嵐は尋問でこう言うのだった。

「いや、僕は一切、してません」

 そして事件の時に何があったかを問われると、こう説明するのだ。

「事件……始まる前に、電気消えてしまいました。電気を消したのは大谷くんだと思う。その後に事件があったから。そのあと……大谷くんは、大崎を刺しました。包丁持ち出して……暗いんで、全部が全部見えてたわけじゃないスけど、最後、お勝手の電気をつけて、明るくなって、見るわけじゃないですか。そこで、大崎くんを刺したのを見ました」

 その直前には、こんなやりとりがあったとも明かしている。

「自分が、介護したくない、って言ったら、大崎さんが台所から包丁を……自分に突きつけてきたから、振り払うしかないですよね。腕をね。そうすると包丁が落ちました。電気が消えたのはいつか……そこは覚えてないですね」

“自分と大崎さんの間で介護をめぐる諍いが起き、電気が消え、ふたたび明るくなった時には大谷被告が大崎さんを刺していた”というのだ。また、入江さんが浴槽に沈められていた点については、

「おばさんに呼ばれて行って、そしたらキャッシュカードを渡され……『これ、全部(お金を)下ろしていいよ』と言われた。暗証番号を言われて、次の年金入るのも下ろして使っていいよと言われた。その後、自殺したんじゃないですか」

 と説明した。にわかには信じがたい内容である。裁判では検察官もこう念押ししていた。

検察官「正直ね、この法廷の誰も、あなたの話、ありえないと思ってると思うんですが、あなた本気で言ってます? ご遺族も法廷にいる中、本気で嘘ついてないと言えます?」
五十嵐「言えます」
検察官「あなたも2人の死に関わってるんじゃないですか?」
五十嵐「関わってません」
検察官「(入江さんの)服を脱がせたりもしていないの?」
五十嵐「ありません!」


■大谷被告の言い分は


 こんな五十嵐の説明に、当の大谷被告はどのような“反論”をしたか。被告は拘置所から五十嵐に手紙を書き送っている。そこには、

〈迷惑をかけたのに、お金の差し入れも何もしてくれなかった〉

 といった、事件とは直接関係のない内容が綴られているのみだ。大谷被告は3月4日の被告人質問で「五十嵐の指示だった」と弁護側の質問に答えただけで、検察官ほかの質問には黙秘していた。

 実は、公判では医師が証人出廷し、大谷被告のIQが52であること、軽度精神遅滞であることなどが明らかになっている。大谷被告が検察官の質問に流されることがないようにという、弁護人の配慮で黙秘した可能性がある。最終陳述において、大谷被告に改めて発言の機会があったが、

「埼玉の留置所に警察が来て、ご自分だけ『大谷さん』と大声でお呼びされ、ご自分は迷惑でした。手を出して暴れたら、ご自分は公務執行妨害で逮捕されると脅され、ご自分はトイレに逃げました……」

 と、難解な言い回しで捜査手続きについての不満を述べるのみだった。

 犯行はどのようにして行われたのか――大谷被告、五十嵐、それぞれの証言が不透明なまま、迎えた判決。小池裁判長は「現場に残されていた被告の着衣に付着した飛沫血痕が大崎さんのもの」であることなどから、大崎さん殺害の実行行為は大谷被告が行ったと認定。また入江さん殺害についても、大谷被告の着衣に入江さんのDNAが付着していたことなどから「被告人が裸の入江さんを浴槽に沈めたと推認される」とした。

 しかし、そもそも大崎さんが包丁を持ち出すことになったきっかけについては「大崎さんが五十嵐をいいように使っている関係に照らせば、口論に怒りを感じた大崎さんが包丁を持ち出すのは、五十嵐が車の運転を間違えただけで火のついたライターを近づける大崎さんの人柄からすると、ありえない話ではない」と、五十嵐が介護に負担を感じていることを大崎さんに告げたところ、大崎さんが包丁を持ち出した可能性があるとした。

 では、大谷被告がなぜ大崎さんを刺すに至ったか。「不満や恨みなどの理由は見当たらない」としながら「大崎さんと五十嵐の関係を目にしていた可能性があり、動機がないと言って殺害に至らないとは限らず、突発的な犯行も考えられ、被告人が大崎さん殺害の犯人で間違いない」と認めた。

 事件後、入江さんの口座の金は大谷被告によって引き出されており、五十嵐はその金で千葉県内のソープランドを利用していたこと、サカゼンで服を買っていたこともわかっている。一方、大谷被告が入江さんの金を使った形跡はない。大崎さんとの関係、入江さんの介護など、殺害動機があるように見える五十嵐。判決でも「各犯行に五十嵐の関与が疑われる」と指摘されたものの、不可解な点は残ったままだ。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴ライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』など。

デイリー新潮編集部

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