子どもに「体育座り」はかわいそう?我慢は必要? “廃止”の中学校長が語る真意

子どもに「体育座り」はかわいそう?我慢は必要? “廃止”の中学校長が語る真意

体育座りで話を聞く生徒(※写真はイメージ)(Adam Kahtava from Calgary, Canada, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons)

 膝を立て両足を抱えるようにして座る「体育座り」。子どもの頃に何度も経験してきた座り方ではないだろうか。このたび、山口県下関市の市立豊北中学校が体育座りを廃止し、代わりにパイプ椅子に座っての集会を実施していることが報道され、大きな話題となった。


■生徒がかわいそう


“体育座り廃止”の動きが始まったのは、矢田部敏夫校長(56)が着任した2021年4月のことだった。

「私が豊北中に来てすぐの頃、体育館で人権講演会があったんです。講演は1時間に及び、全校生徒が体育館の床に体育座りをして話を聞いていました。固い床に直接座っていると、だんだん腰やお尻が痛くなってくるんでしょうね。辛そうだし、話にも集中できなくなっているようで、体育座りをさせるのはかわいそうだと思いました」

 長時間に及ぶと、内臓を圧迫する負担の多い姿勢とも言われている。体育座りが腰痛を引き起こしているという研究結果もあるようだが、矢田部校長はあくまで生徒たちが辛そうな様子を目の当たりにして、“なんとかできないか”と思ったそうだ。

「集会の時に体育座りを止めてパイプ椅子に座るのはどうかと、学校の運営協議会とPTAに提案したところ、異存はありませんでした。ただ、従来、パイプ椅子を使用するときは、体育館の床を保護するためにシートを敷かなければなりませんでした。集会のたびにシートを敷くのは、準備に時間が掛かりすぎてできませんから、代わりに椅子にゴム製の保護カバーを取り付けることになりました」

 豊北中の生徒数は、3学年で計5クラス、100人余り。懸念は予算だった。

「一脚につき900円ほどかかりますが、生徒に体育座りをさせるのはかわいそうだというPTAの声が大きく、十数万円に上る費用を負担していただくことになりました。昨年6月にはPTAから生徒会への保護カバーの贈呈式があり、すぐに集会にパイプ椅子が導入されました」(同)


■なぜもっと早く廃止しなかったのか?


 豊北中の“体育座り廃止”のニュースは、〈体育座りは辛かった〉〈駅や公園などでも体育座りをさせられて嫌だった〉〈体に悪影響があるなら見直すべき〉などと、ネット上では概ね好意的に受け止められた。

「まさかこんな大きな話題になるとは、というのが正直なところで、『なんでもっと早く廃止しなかったんだ』と言われるかもしれないとも思いました。実は、私は昨春にこの中学に来るまでのおよそ10年間、学校現場を離れていたんです。数年間、離島の中学にいたことはあるのですが、ごく少人数の学校のため体育館で集会をするといったことはありませんでした。それ以外は教育委員会で働いており、生涯学習課などで大人を相手にすることも多かったんです。だからこそ、久しぶりに生徒たちが体育座りでじっとしている姿を見て、驚いたというか、これは止めたほうがいいんじゃないかと気づけたんだと思います」

“体育座り廃止”で困ったことは無いのだろうか。

「教職員からは、『準備に時間が掛かるのではないか』という声がありました。実際には、5クラス全ての生徒が順番に準備をしても、5分から10分程度で完了します。体育座りをするよりも楽だと分かっているからか、生徒たちもてきぱき準備してくれます」

 豊北中の“体育座り廃止”の動きに続く学校は、矢田部校長の知る限り無いという。

「生徒数や予算の問題で、なかなか実現が難しいんでしょう。豊北中が小さな学校だからこそ、時間を掛けずにパイプ椅子を出すことが可能なのだと思います。大人数の学校であれば、例えば、長時間に及ぶ集会はオンラインで配信し、生徒は教室の自分の席で聞くといった工夫もできるのではないでしょうか」


■学校の慣習を変えるのは大変


 そもそも、“体育座り廃止”の必要性を感じていない学校は多いはずだと矢田部校長は言う。

「多少痛くとも、生徒が体育座りをするのが当たり前だと考えている先生がほとんどでしょう。長く続いてきた学校の慣習を変えるのは大変ですし、私自身も10年前には体育座りをしている姿を見ても、特に何とも思いませんでしたから。ただ一方で、短い時間ならまだしも、長時間、体育座りをしながら集中して話を聞き続けることは難しいと思います。それでもさせるというのは、辛くても姿勢を正してじっとさせることを強制する、精神鍛錬の意味合いもあるのではないでしょうか。ですが、学校だから生徒に無理をさせても仕方ないというのはおかしいでしょう。それに、大人には体育座りさせないですよね」

 とはいえ、豊北中でも体育座りの“完全廃止”には至っていないそうだ。

「運動場に集まる時は、今でも体育座りをする場合があります。外ではジャージや体操服姿なので、体育座りをする負担は軽いのではないかと思いますし、状況に応じて足を崩してもいいことになっています。『そんなことより、校長の話を短くしろ』というのは、ネットで言われていましたね。時間の面でも生徒の負担を軽くする必要があるのは前提として、校長としては、集会は全校生徒に直接メッセージを伝えられる大事な場でもあるんです。現在、全校生徒が体育館に集まる機会は、生徒会活動などを含め月に1回程度ありますが、たいてい授業1コマ分の時間より短く終わります」

 現在の2、3年生は、体育座りからパイプ椅子への移行期を経験している。生徒たちはその変化をどう感じているのだろうか。

「『生徒たちは喜んでいますか?』と取材でよく聞かれるんですが、直接聞いたことはないですね。まさか校長が発案したものだとも知らないでしょう。集会では、集中して話を聞くことこそが大事なんですから、体育座りで無理をしながら聞く必要がないということが当たり前になってくれればそれで十分です」

 ちなみに、矢田部校長は“体育座り廃止”と並行して、女子の制服にスラックスを導入した。なかなか革新的な校長なのである。

デイリー新潮編集部

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