ゴルフ、サウナ、介護脱毛… なぜ“おじさん発”の流行が活況?(古市憲寿)

「ゴルフはなぜここまで凋落してしまったのか」。スポーツライターの赤坂厚さんが2015年に東洋経済オンラインに寄せた記事のタイトルだ。曰く、団塊の世代が定年を迎え、ゴルフの自然発生的なブームは今後期待できない。レジャーの中でもゴルフ市場の低迷はすさまじく、先行きが暗い、という。

 当時の認識としては正しかったのだろう。それが今やマスコミが「ゴルフブーム」を報じる時代となった。日本経済新聞社が発表した2021年ヒット商品番付では、ゴルフが「東の小結」にランクインしている。経済産業省の調査でも、ゴルフ場利用者が急増しているのだという。

 理由はもちろんコロナだ。感染症対策が叫ばれる中、屋外で楽しめるゴルフに注目が集まるのは自然なことだった。都心の打ちっぱなしでは行列ができ、若い世代の姿も目立つ。合コンの感覚でコースを回るゴルコンも盛況だ。

 もっともバブル時代ほどの流行が戻ってきたわけではない。1990年代初頭のゴルフ人口は1千万人を超え、市場規模も約3兆円に達していた。それが今や500万人前後、約1兆円にまで落ち込んでいる。統計がコロナ以降の流行を反映しきれていないこともあるが、それでもバブル期の狂乱は戻ってこないだろう。

 ただし「おじさんのスポーツ」という印象は変わりつつある。同様にサウナも「おじさんの趣味」から劇的な復活を果たした。「サ道」や「ととのう」という言葉が市民権を得て、サウナを「合法ドラッグ」として愛でる人も増えた。

「サウナ・水風呂・外気浴」を適切な分数で3セットほど繰り返すと、まるで世界と一体化したような感覚が味わえる。それが「ととのう」である。ドラッグに非寛容な日本で、サウナーたちは、このサウナトランス状態に病みつきになる。快眠効果や美容効果もあると謳われ、健康的な趣味と見なされるようにもなった。

 あるトレンドは、別の流行を生む。

 たとえば最近、男性でもVIO(デリケート)ゾーンを含む全身脱毛をする人が増えてきた。一つは中高年の需要。将来、介護をされるようになった時に、介護者の拭き取りの負担を減らすために脱毛をする、いわゆる介護脱毛だ。一般に脱毛器は黒い毛にしか反応しないので、白髪になる前に準備しておくのだという。

 そして若い世代では、サウナがきっかけになることが多い。友人同士で互いの脱毛状態を確認し合ったり、全身脱毛をした他人を見て、「自分も」という気分になるようだ。「ととのう」ためには脱毛状態の方がいい、という説まである。

 商売にとって最も大事なのは人口動態である。「若者に人気」というのは、「ずっと若くいたい」という中高年に対するアピールにはなるが、超高齢社会・日本では若者の数が少ない。いくら「若者に人気」でも商売としては厳しい。その意味で、介護脱毛市場はさらに活況を呈しそうだ。周囲のはやり物好きのおじさんも、こぞって始めている。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

「週刊新潮」2022年5月26日号 掲載

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