4630万円騒動で盛り上がってしまう国民とメディア もっと重要な問題があるのになぜ?(中川淳一郎)

4630万円騒動で盛り上がってしまう国民とメディア もっと重要な問題があるのになぜ?(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 メディアの仕事に従事している当人が言うのも恐縮ですが、本当、メディアって節操ないですね! 本稿を執筆している5月24日、最も騒がしいのは山口県阿武町の「4630万円誤振り込み事件」ですよ! あのさ、16兆円ともされるコロナ対策費の使途不明金の方が問題でしょ! あとは尾身茂・政府分科会会長が3月末まで理事長を務めた「独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)」がコロナ対策で132億円の補助金を受けたのに、使用されない「幽霊病床」を多数抱えていた! さらに、JCHOは2020年度の補助金等収益が前年度比311億円増の324億円!

 阿武町の件については、人口3千人以下の小さな町にとっては大きな話ですが、単純に言えば「職員が大ポカをし、確認する金融機関の人間もミスり、振り込まれた男がどうしようもないヤツだった。後に顔写真が明かされたらイケメン風で過去は不良だったから面白い」という事件です。どう考えても連日のようにテレビのワイドショーで報じ、ネットニュースも取り上げるほどの騒動ではないでしょうよ。16兆円の不明金の方がよっぽど重要です。

 私も長年ネット編集者をやっているため、「勝ち馬に乗れ」の法則はよーく分かっています。つまり、今現在、世間の「風」としてはやっているものの続報を出せば出すほどアクセス数を稼げ、儲かる、という理論です。雑誌・新聞の部数、テレビの視聴率も同じで、メディアは、「本当に報道する価値があるもの」よりも「とりあえず数字が取れて会社が儲かるもの」を重視する傾向があります。

 それから岸田内閣の支持率。5月23日のFNNの世論調査によると、政権発足後最高の68.9%なんですって? これもメディアの報道が影響しているでしょう。安倍晋三氏が首相だった時、メディアはとにかく粗を見つけようとしていた。左派の間では悪魔化され、デモでは安倍氏の顔にチョビひげをつけてヒトラーのように見せたり、共産党の池内さおり議員(当時)が太鼓にチョビひげ安倍氏の顔をつけてバチで叩いたり、ブルドーザーで安倍氏を模したゴム製のお面を潰したり。

 そこから野党は「モリカケ問題」「桜を見る会」を徹底追及し、メディアはこれに相当な時間と紙面を割いた。2020年2月、コロナ騒動が世界的イシューになっていたのに、立憲民主党・共産党はモリカケ・桜に国会での時間を大量に使う。

 その後、さすがに世間の空気感に忖度し、コロナにシフトした。「過剰な対策です! 緊急事態宣言は人権侵害です!」とやるのかと思ったら「ロックダウンなどもっと厳しい対策を!」と言い出す。そしてモリカケ・桜、後の菅政権になって一度盛り上がった「学術会議」への追及も、世間がコロナにビビッてトーンダウン。

 一方、岸田氏はアベほどの悪魔でないし、野党的論調と同じリベラル思想を持つから叩きづらい。

 結局、メディアの報道量によって野党は風見鶏のごとく国会中継でウケるネタを出すだけなんですよね。もう野党は阿武町の4630万円問題を永遠に追及すればいいんじゃない? 山口県は安倍氏の地元だし。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2022年6月9日号 掲載

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