「SPを2人に増やせないか打診していた」 安倍元総理射殺、警備のどこに不備があったのか

【安倍晋三元首相が死去】安倍事務所の関係者はSPを2人に増やしてもらえないか打診も

記事まとめ

  • 安倍晋三元首相への銃撃で警備不備が問われており、警察庁長官の責任が問われる可能性
  • 安倍事務所の関係者は、警備当局関係者にSPを増やしてもらえないか打診していたと話す
  • しかし"安倍さんだけ警備を手厚くするのは国民の理解が得られない"と回答されたという

「SPを2人に増やせないか打診していた」 安倍元総理射殺、警備のどこに不備があったのか

<a href='/topics/keyword/安倍晋三/160530000987/'>安倍晋三</a>元総理

 撃たれる前の映像を見れば見るほど、警備の不備が素人目にもわかる。特に魔の3秒の放置は信じがたい。警察庁長官の責任が問われずにはすむまい。

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 安倍晋三元総理が選挙遊説中に銃撃されたことに対し、「民主主義への重大な挑戦だ」「言論の自由への攻撃だ」といった声明が相次いで出されたが、今回の事件の本質は、はたしてそこにあるのだろうか。

 近鉄大和西大寺駅前の現場で演説を聞いていた自民党関係者が言う。

「SPは1人だけだったので、エライ手薄やな、と思いました。そのSPは鋭い目で周囲を見ながら安倍さんの周りをウロウロしていました。1発目の銃声のあと反応して、カバンのようなもので安倍さんを守ろうとしましたが間に合わなくて。刃物による攻撃は考えても、数メートルの至近距離から銃で撃たれるとは、考えていなかったのかもしれません。それにしても日本の警備は緩い。日本は安全だと思い込まず、あらゆる攻撃を想定していないと、同じことが繰り返されるのではないでしょうか」

 やはり現場にいた別の自民党関係者も、

「警視庁のSPが1人、安倍さんの周りにいたほかは、奈良県警の警備要員が警戒していましたが、両者の連携がとれていなかった印象です。山上徹也が現れたところで止めるべきが、近づくことを許してしまったのは、油断でしかないでしょ。警備要員が全員前を向いて、誰も後ろを見ていなかったのも変。しかも1発目を撃ってから時間があったのに、その間にどうして取り押さえなかったのか」

 と悔やむのである。

安倍晋三元総理銃撃現場

■「立っていた場所が悪い」


 この二人の証言がピント外れでないかぎり、問題の核心は「民主主義」や「言論の自由」より、手ぬるい警備にあったことになるのではないか。さる警察庁幹部OBも指摘する。

「まず安倍さんが立っていた場所が悪い。後ろがガラ空きですぐ車道がある。360度開けていて警戒すべき範囲が広すぎます。警護対象者から“ここで演説する”と言われたら、移動してもらいにくいのも現実ですが、次善の策はある。私なら選挙カーを後ろに並べてもらうなどし、いざというときに対象者の壁になるようにしたと思います。ところが映像を見ると、容疑者が後ろから車道を歩いてきても、誰も止めようとしていません」

 さる警視庁SPの関係者も、やはりそのことを問題視する。

「いま出ている映像を見るかぎり、安倍元総理の後ろがガラ空きです。今回、警視庁SPが1人つき、あとは奈良県警が警護していたと報じられていますが、この人員自体は、元総理の警護体制として珍しくないです。しかし後ろが警備されていない。背後が警備から漏れるなど普通は考えられません。前方と後方で360度守るのが基本。しかも、今回は360度行き来できる場所で、衆人の前で演説している人を守るのに、真後ろを守っている人がいなかったように見えるのが、理解できません」


■「意味不明なことばかり」


 この関係者は続けて、SPの身辺警護のあり方について疑問を呈する。

「1発目の銃声が鳴り、安倍元総理がなにかあったのか確認するようにゆっくり振り返りますが、その時点でもまだ、SPは元総理を守りに行こうとしていないように見えます。元総理はゆっくり振り返っていて、2発目が撃たれるまで3秒程度の時間があったのに、元総理はガードされませんでした。しかも、あんなに大きなものを持った人間に近づかれ、その行動を止めることができないまま2回も撃たれるというのは、どういうことか。意味不明なことばかりです」

 先の警察庁幹部OBも同様に指摘する。

「1発目の銃声が聞こえたとき、警備陣は“えっ、なに?”という感じで動きが止まっていますが、本来SPは大きな音がしたらすぐに警護対象者に覆いかぶさり、台から引きずりおろしたりして安全を確保するものです。ところが、その動きがまったく見られないのは不思議でなりません」

 育ちのよい安倍氏は、1発目の音にも自分が狙われたとは思わなかったのかもしれない。そうであるなら、なおさら万全の警護が求められたのではないのか。

中村格警察庁長官

■基本が身に付かず


 その辺りはテレビドラマや映画とくらべても、手ぬるく見えるようだ。さる50代の女性は、

「人気ドラマで映画化もされた『SP』では、首相が狙撃されたとき、岡田准一演じる警視庁のSPは銃声の後、弾丸が当たらないように元首相を転ばせていました。ドラマにそういう場面があるくらいだから、SPはそうするものだと思っていたのですが」

 と感想を述べるが、現実にも同様の例はあった。1995年に警察庁の國松孝次長官(当時)が銃撃された際、秘書官がすぐ、倒れた國松氏に覆いかぶさり、発砲が続くなか、引きずって國松氏の体を安全な場所まで移動させたのだ。その後、國松氏が再び要職を務めることができるまでに回復したのは、よく知られる通りである。

 先の警視庁SP関係者もこう話す。

「なにか大きな音がしたら、真っ先に警護対象者に近づき、対象者の盾になるようにガードするのが警護の基本中の基本。警視庁は年に数回、公開訓練を行い、その様子は動画でも公開されています。そこでは銃声が“パンッ”と鳴ると、SPは条件反射のようにものすごい速さで移動し、警護対象者を覆うように守っています。残念ながら今回、公開されている訓練が身に付いていないことが証明されてしまいました」


■警備当局に人員を増やすよう打診していたが…


 都道府県警で要人警護を担当する警備部警護課勤務の警察官についても、

「全員が全員ではないでしょうが、警視庁警護課で1年、研修することになっており、基本を学んでいないとは考えにくい。ですから、なぜ今回のような事態になったのか、まったく理解できないのです」(同)

 さらに言うなら、国のあり方についていまも積極的に発言し、支持者が多い一方で批判する人も多かった安倍元総理に対し、この警備体制でよかったのか、という問題もある。というのも、安倍事務所の関係者はこう話すのだ。

「実は以前から、ベタ張りSPを2人に増やしてもらえないか、警備当局の関係者に内々に打診していたのです。安倍元総理はほかの総理経験者とくらべて、狙われる危険性が高いからですが、“いまのご時世、安倍さんだけ警備を手厚くするのは国民の理解が得られない”という回答でした」

 しかし狙われ、命を奪われてしまったいまとなっては、「国民の理解」という言葉も虚しいばかりである。


■「しかるべき立場の人間が辞めないと」


 さて、ここまで警護、警備が緩かった以上、責任問題に発展するのは避けられないだろう。奈良県警の鬼塚友章本部長は会見で、

「警護、警備に問題があったことは否定できないと考えております」

 と言って謝罪したが、先の警察庁幹部OBは、「責任論が出てくるのは必至」だとして、こう語る。

「直接的には奈良県警本部長に責任があります。大石吉彦警視総監は、SPを派遣しているとはいえ、指導責任があるとは言いづらいし、警察庁長官も同様です。しかし、政治的責任はありますから、しかるべき立場の誰かが辞めないと、世論におさまりがつかないでしょう」

 社会部デスクも言う。

「元総理が殺されるという、最もあってはならない歴史的失態を引き起こした以上、警備体制の検証が終わったのちに、中村格(いたる)警察庁長官の進退問題が浮上するのは間違いありません」

 しかし、誰が責任を取ったところで、安倍元総理は帰ってこない。

「週刊新潮」2022年7月21日号 掲載

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