異常に早い梅雨明けは「激甚気象」の予兆か 気象学者が警告する「この夏、気を付けるべきこと」

カテゴリー5のスーパー・タイフーン「平成30年台風第24号」(出典:

 異常に早い梅雨明けと、それに続くすさまじい猛暑は、何を意味しているのか。気象学の第一人者で、『激甚気象はなぜ起こる』(新潮選書)を著した坪木和久・名古屋大学教授に、「今、日本列島で起きていること」「この夏、起きるであろうこと」を解説してもらった。

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■「猛暑」が襲った2018年との類似点


 今年、2022年の日本列島の梅雨は確かに異常だった。6月24日、私は名古屋大学での午後の講義を終えて、NHKのラジオ番組に出演するため新幹線で名古屋駅から東京駅に向かった。その車中で、「今日、梅雨明け宣言が出るかもしれないのでコメントをお願いするかもしれない」という趣旨のメールをNHKから受け取ったときは、いくら何でもそれはないだろうと思っていた。

 しかし、品川駅で新幹線を降りたとき、名古屋とは違う空気、太平洋高気圧の空気を感じて考えを変えた。確かにそれは現実的と思えたのだ。結局、その日、梅雨明け宣言は出なかったが、関東甲信地方の梅雨明けはその3日後の6月27日という、記録の残る1951年以来最も早いものとなった。

 そして関東地方では梅雨明け宣言前後から猛暑が始まった。群馬県伊勢崎市では、6月25日に最高気温40.2度、29日には40度を記録した。これらは伊勢崎市の6月の最高気温の歴代1位と2位となった。さらに7月1日には40.3度を記録した。

 関東甲信地方の梅雨明けが6月になったのは、過去72年間、今年以外では、2018年(6月29日)だけである。平年は7月19日なので、この記録に残る2年は、3週間ほど早い梅雨明けであり、異例に短い梅雨となった。異常に早い梅雨明けとそれに続く猛暑は、これらの年の類似点の一つである。

10月の台風シーズンが終わるまでは、大気の河という大規模な水蒸気の流れ込みと、それに伴う線状降水帯に対して十分な注意が必要である

 もう一つの大きな類似点は、冬の豪雪だ。少し思い出してほしい。今年の冬は北陸から北海道にかけて記録的な豪雪に見舞われた。同様に2018年も豪雪で、これらの年の冬はともにラニーニャ現象が発生した年であった。拙著『激甚気象はなぜ起こる』(新潮選書)でも詳しく説明したように、エルニーニョ現象の年は暖冬・冷夏の傾向が強いが、それとは逆のラニーニャ現象が発生すると厳冬・暑夏の傾向がある。これらの年はまさにそのような年であった。

 2018年はラニーニャ現象からエルニーニョ現象に移行するような状況で猛暑となったが、今年はラニーニャ現象が顕著である。ラニーニャ現象のとき西太平洋の海面水温が高くなり、そこで活発な積乱雲が発生する。積乱雲が持ち上げた空気は亜熱帯で下降し、太平洋高気圧が発達し猛暑となりやすい。

平時における危険の想定と確認、避難の具体的方法など、無駄になることを厭わずに避難の準備を――

■「線状降水帯」と「台風」に注意


 それでは東日本から九州にかけての地域は、渇水状態の8月を迎えるのだろうか?

 今年、気象庁の3カ月予報では、気温は高く、雨はほぼ平年並みかやや多い見込みとなっている。だが、このような長期予報では集中豪雨の発生までは予測できない。昨年の8月は梅雨末期の再来かと思われるような大雨が降り、8月12日には九州で「線状降水帯」が発生した。この経験から8月に線状降水帯が今年は発生しないとは決して言えないのである。

 拙著でも詳しく書いたように、多量の水蒸気が流れ込んで形成された「大気の河」は、線状降水帯を発生させ、豪雨災害をもたらす。そのような大気の河は、昨年の8月の豪雨のときも形成されている。これは寒冷前線や梅雨前線だけでなく、台風に伴っても形成されることが分かってきている。今年も、10月の台風シーズンが終わるまでは、大気の河という大規模な水蒸気の流れ込みと、それに伴う線状降水帯に対して十分な注意が必要である。

豪雪が交通を分断し、竜巻が車を吹き飛ばす。夏は熱帯のような酷暑となり、台風が迷走、河川が氾濫し家々を押し流す。日本列島はここ数年、「これまで経験したことのない災害」に見舞われている。気象庁が「命にかかわる非常事態」と表現する激甚気象はなぜ起こるのか? 気象学の第一人者が最新の研究結果をもとに解き明かす 『激甚気象はなぜ起こる』

 梅雨期が終わると台風シーズンが始まる。台風は豪雨と並んで激甚災害をもたらす要因である。本稿を書いている7月中旬ではまだ4個しか発生しておらず、2018年の8個と比べてかなり少ない。7月に九州に上陸した台風もそれほど強いものではなかった。

 しかしフィリピン東方海上には海面水温29〜30度の領域が日本のはるか東まで広がっており、海面水温27度の領域が北緯30度付近に達している。さらに平年に比べて北緯20〜30度の領域が1〜2度高い。台風は種となる熱帯低気圧がないと発生しないが、このような暖かい海の状態は、強い台風が発生する環境となっている。台風についても十分な注意が必要である。


■激甚気象から身を守る「唯一の方法」


 今年、7月上旬の時点では気象庁が命名するような大規模な豪雨災害、台風災害は発生していない。しかし災害に大小はあるが、人的被災に大小はない。一人の命の損失はその人と周囲の人にとっては、どんなに大規模な災害とも比較できないほど大きな損失である。

 それを防ぐことができる唯一の、しかも極めて有効な方法が「避難」である。しかしそれは容易なことではなく、人によって避難を難しくするさまざまな事情がある。特に高齢者、要配慮者の方は避難が容易ではない。人によっては避難することが命がけのこととなる場合もある。

 だからこそ、平時における準備が必要である。災害が切迫してからでは、避難の準備は間に合わない。平時における危険の想定と確認、避難の具体的方法など、無駄になることを厭わずに避難の準備をしていただきたい。

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坪木和久(つぼき・かずひさ)
1962年兵庫県生まれ。気象学者。名古屋大学宇宙地球環境研究所教授。北海道大学理学部卒。北海道大学理学研究科、日本学術振興会特別研究員(北海道大学低温科学研究所)、東京大学海洋研究所助手、名古屋大学大気水圏科学研究所助教授、名古屋大学地球水循環研究センター助教授、准教授、教授を経て2020年5月現在にいたる。2017年、日本人として初めて、航空機によるスーパー台風の直接観測に成功した。

デイリー新潮編集部

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