「特殊詐欺」最新事情 高度な分業化、高速道路を走行中にサギ電話、現役警官も加担で再び増加

「特殊詐欺」最新事情 高度な分業化、高速道路を走行中にサギ電話、現役警官も加担で再び増加

手を変え品を変え高齢者に襲い掛かる「特殊詐欺」の魔手

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 Twitterで「闇バイト」と検索してみると、おびただしい数の書き込みがヒットする。巷のアルバイトよりも日給が高いからといって、DM(ダイレクトメッセージ)を送るのはやめたほうがいい。こんな人材募集ツイートで紹介される“案件”は、多くの場合、特殊詐欺に他ならないからだ。オレオレ詐欺や、還付金詐欺といった「特殊詐欺」が社会問題化して約20年――。累計被害総額は5743億円に上り、今年9月は1日あたり1億円が騙し取られている。末端で犯行に及んでいるのはSNSでの「闇バイト」募集から簡単にリクルートされた若者だという。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

「もしもし、オレだけど」などと、息子を騙った詐欺師からの電話に騙され、大金を失ってしまう高齢者。特殊詐欺とはそんなものだ、古典的な手口に騙される高齢者が多すぎる……。そう考えるのは間違いだ。特殊詐欺を取り巻く状況はここにきて再び深刻化し、2022年上半期の被害額は約148億8000万円と、なんと8年ぶりに上昇に転じた。

 その背景には「新型コロナ」も暗い影を落としているという。『ルポ 特殊詐欺』(ちくま新書)の著者で、神奈川新聞報道部記者の田崎基氏は次のように語る。

「ひとつはコロナによる在宅比率の高まりです。感染を恐れる高齢者は、家にいる時間が増え、備え付けの電話に出る確率が高まったと考えられる。同時に、特殊詐欺に加わる側の事情もあります。飲食店やキャバクラ、風俗店で働いていた若者の多くが、コロナ禍の営業自粛や経営悪化によって職を失った。生活に困った彼らがSNSを検索し、闇バイトに応募してしまう。もちろん、根底には非正規雇用者が増加して、貯金できない若者が増えている状況もあります。コロナ禍がもたらした2つの理由で特殊詐欺が増えていることは想像に難くありません。特殊詐欺は“反グレ”による犯行と思われがちですが、個々の犯人たちの抱える事情はより多面的で、多層的な感じがします」


■「俺はもう逃げられない」


 実は、ここ最近、特殊詐欺から強盗や殺人未遂といった凶悪犯罪に発展するケースが後を絶たない。田崎氏が特殊詐欺の実態を取材するようになったきっかけも、凶悪化した特殊詐欺メンバーの公判だった。

「去年1月に司法担当になり、ある殺人未遂事件の公判を傍聴したところ、被告人は特殊詐欺の“出し子”だったんですね。詐欺行為を働くなかで発生したトラブルが発端となって、指示役に脅され、“俺はもう逃げきれない”と追い詰められていった。最終的には、“特殊詐欺の仕事を紹介してきた相手を殺して、俺も死ぬ”と決心し、相手のところに乗り込むと、そこには自分から離れていった元恋人がいた。それに激昂した被告人が、彼女を刺してしまったという事件でした。そのときに、“特殊詐欺は、詐欺だけに留まらず、多くの犯罪の温床になっているのではないか”と感じました。さらに別の公判を取材すると、始まりはまたもや特殊詐欺だった、ということも。実際、多くの特殊詐欺について取材を重ねるうちに、単なる詐欺犯とは呼べないほど、犯人が凶悪化・粗暴化していることが分かってきたんです」(田崎氏・以下同)

 田崎氏によれば、特殊詐欺も強盗も入口はSNSでの「闇バイト募集」が圧倒的に多いそうだ。特殊詐欺では、実際に現金やキャッシュカードを受け取る役割を「受け子」、騙し取ったキャッシュカードを使い現金を引き出す役割を「出し子」と呼び、受け子(UKEKO)と出し子(DASIKO)を総称して「UD」と言うこともある。さらに、名簿などをもとに騙しの電話をかける役割は「かけ子」、SNSで募集をかけるのは「リクルーター」、そして、「指示役」などが存在する。詐欺グループの連絡は、通信が暗号化されるアプリ「テレグラム」で交わされ、現場ではイヤホンを装着し、スマホを通話状態にしたままで犯行に及ぶ。

 一方、「UD」が詐欺で得た現金やカードを持ち逃げすることもあり、「飛び」と呼ばれる。昨今では「飛び」を専門としたグループまで存在するという。

「かけ子の電話に被害者が騙されかけている状態を、犯罪グループ内では“刺さる”と呼びます。ひとたび刺さったとなれば、受け子や出し子、運び役を担当する“ライダー”など4~5人を手配して金を奪う算段を整える。“飛び”防止のために見張りを配置するケースでは、さらに人数が増えることも。細かく分業をされているのでグループの全員がお互いの顔を知らないことも珍しくありません。犯罪行為に関わった者たちは、だまし取った金のうち数%ずつ報酬を得ていきます」


■“高速道路”を走りながら詐欺電話


 過去には、中国に拠点を設けたり、あるいは国内のラブホテルやマンスリーマンションなどに「かけ子」を集めて電話をかけさせていたそうだが、

「警察が拠点に踏み込むと全員が逮捕されてしまうので、最近はそうした摘発事例を聞かなくなりました。ただ、かけ子を一人ひとり別々の場所で仕事させると、監視の目が行き届かず“飛び”のリスクが生じ、名簿や詐欺のノウハウを持ち逃げされかねない。そのため詐欺グループは、集団の摘発を免れつつ、個人の“飛び”を防ぐ方法を常に考えています。最近では3~4人のかけ子をミニバンに乗せて、“高速道路”を延々と走りながら電話をかけるケースもあります。捜査の手から逃れるために拠点を転々とさせるのではなく、その拠点自体が移動し続けるわけです」

 犯罪グループが見ず知らずの若者を集め、会社組織も驚くほどの細かい分業体制を敷いていることにも理由がある。ひとつは、たとえ一部のメンバーが逮捕されても、上層部に辿り着けないようにするため。さらに田崎氏は、「役割を細かく分担することで、意図的に“罪悪感”を希薄にさせている面もある」と指摘する。

「つまり、かけ子は“俺は電話しただけで、金を取ってないですよ”、受け子は“金を運んだのは事実ですけど、騙してません”と言い訳ができるんです。受け子やかけ子として集められるのは素人同然の若者たちなので、高齢者を騙すことに罪悪感を覚えることもある。しかし、役割ごとに分断すると、犯罪に対する心理的なハードルが下がる。実際、特殊詐欺に関わった若者たちは犯罪行為に加担したという意識が非常に低いんです」


■「お前の写真をネット上に晒すぞ」


 こうして特殊詐欺の歯車となった彼らが、なかなか組織から抜け出せないのは、身分証明書など個人情報を伝えてしまっていることも一因だ。

「初めて組織の仕事をする若者に対して、指示役は、免許証の横に顔を近づけた自撮り写真を送らせます。身分証の提示を求めるのは、“仕事”で得た金を持ち逃げされないようにするため。つまり“飛び”の防止です。とはいえ、もちろん指示役はそんな説明はしません。“初めてのお仕事ですし、履歴書も頂くわけにもいかないので、身分証の写真だけお願いします”などと優しい調子で話しかけてくる」

 一般的な感覚からすれば、犯罪グループに個人情報を伝えることなど危険極まりない。しかし、詐欺グループの上層部は手練手管を使い、アルバイトや就職の面接の際に提出する履歴書と同じ感覚で個人情報を提供させる。無論、金に窮した若者たちに断ることなどできない。これが後々まで重い“足かせ”となるのだ。

「何度か犯行に加担させた若者が弱気になると、指示役は一転して脅しに入ります。“お前の写真をネット上に晒すぞ”と。本人はびっくりするけれど、犯罪に加わった認識はあるので、“バレたらやばい”と追い詰められていく。その結果、犯罪行為をエスカレートさせていくわけです」

 個人情報は、指示を断った者や足抜けしたい者、あるいは、飛んだ者に対する脅しに使われる。指示役は、個人情報をチラつかせながら「家族を殺す」と執拗に詰めてくる。それでも指示に従わない者には、「わかった、これで最後だから」と言い、見ず知らずの“仲間”と共に、高齢者の家に押し入るよう指示することも。詐欺の片棒を担ぐだけでなく、強盗に手を染めたとなれば、その先に待っているのは、言うまでもなく逮捕・懲役という末路だ。軽い気持ちで手っ取り早く金を稼ぐつもりが、全てを失うことになる。


■「本物の警察官」が特殊詐欺に加担したケースも


 一方で、ターゲットとなる高齢者の個人情報も様々なやり口で吸い取られている。

「特殊詐欺の場合、かけ子の電話が“刺さらない”と受け子は仕事がありません。そういう時に指示役は、受け子に地元の警察署を名乗らせて、名簿にある高齢者宅を訪問させる。防犯アンケートを装って家族構成などを書かせ、それをリスト化して組織に戻す。こうして精度の高いデータを得ることを“洗う”と呼びます。そして、洗ってあるデータが高額で売買される実態もあるんです」

 特殊詐欺という枠にとどまらず、組織だった集団によりあらゆる手段で金を奪い取る犯罪は絶えない。

「時には、偽の警察官を登場させることもあります。強盗に入った後、被害者宅に偽の警察官役を向かわせて被害届を書かせて、通報を遅らせるんです。そういった犯罪グループに、本物の警察官が加担していたこともあります。先日は、本物のJA職員が、JA職員を騙って詐欺を働いた事案も取材しました。実際の職業もJA職員なので、もう何を信じていいか分からない状態です」

 騙された高齢者が最大の被害者なのは言うまでもないが、騙す犯人の多くも人生を棒に振ることになる。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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