「バカッター騒動」を大拡散するテレビ局(中川淳一郎)

「バカッター騒動」を大拡散するテレビ局(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 くら寿司のバイトが、一度ゴミ箱に捨てた魚を俎板に戻した様子を撮影した動画をネットに投稿し炎上した件で、同社は彼らへの法的措置を取ることを明らかにしました。これに国際弁護士の八代英輝氏がTBS系の情報番組「ひるおび!」で、動画を拡散した当事者全員の責任も追及すべきだと発言しました。何十万人もの人間の責任をどうやって追及するのでしょうか。というか、同番組こそ、何度もご丁寧に動画で紹介し、大拡散しているではありませんか!

 地上波の民放テレビは、未だに最強の影響力を持つメディアです。拡散させたフォロワーが少ない個人を追跡するよりも、バカッター騒動をしきりと流した日テレ、TBS、フジ、テレ朝に責任追及をする方が手っ取り早い。しかもくら寿司は、こうした局にCMを大量出稿しているから、担当広告代理店を通じ「責任を取って下さい」とやりやすい立場にいます。

 裁判や責任追及をする場合は、最も攻めやすく、最も大きなリターンが得られるであろうところからやるのが合理的。匿名でフォロワーが少ないIDの本名・居住地を突き止めるには手間もカネもかかり、突き止めたとしても貯金ゼロだった場合、骨折り損のくたびれ儲けです。

 一方、民放各局であれば、広告代理店に「ちょっとテレビ局の○○にこの手紙渡しといて」と言えば済む話です。

 広告を容易に取れない昨今、力関係からすれば「広告主」>>>>>「代理店」>「テレビ局」といった構造にあります。代理店からすれば、年間何十億もの売り上げをもたらしてくれる大得意様がお怒りなのであれば、従わざるを得ません。私なら、今回バカッターの被害に遭い、テレビ局に拡散された会社には以下のように交渉することを勧めます。八代氏が発言をしたTBSがまずは対象でしょう。

「先日、八代氏が『拡散させた当事者全員にも責任追及を』と仰いました。当方が××モニター社に依頼したところ、御社は○月○日から○月○日にかけ、○回、合計○時間○分○秒当社の『バカッター騒動』を取り上げました。この間の平均視聴率は○%で、○○○○万人にリーチしたと推測できます。さらに、当社は同期間中、合計○○○GRP※の広告を出稿しており、○○○円払っておりますが、御社の拡散により、その効果も薄れてしまいました。その数値は今後計算しますが、一度当方の試算を基に、賠償に向けた話し合いの場を設けさせて下さい。拒否される場合は、法的措置も辞さない所存です」

 八代氏の発言があまりにも非現実的だから、こんな大人げないことを書いたのですが、その発言に則るのならこうなります。えぇ、私もこうして拡散しておりますので、その対象です。

 あと、テレビに流れるネット発の動画は、許可を得ている場合「視聴者提供」のクレジットが出ますが、「バカッター動画」では出ません。もし許可を取っていないなら著作権者はテレビ局に対して使用料を請求する権利があります。これから裁判になる方もいるでしょうから、弁護士費用稼ぎのためにも、モニター会社に依頼し、使用回数・時間を局ごとに算出し、請求交渉をするのも手です。

※GRP=Gross Rating Point(延べ視聴率)

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2019年2月28日号 掲載

関連記事(外部サイト)