新元号で歴史に名を残したい安倍総理の“野望” 背景に“なぜ中国由来”の声

新元号で歴史に名を残したい安倍総理の“野望” 背景に“なぜ中国由来”の声

安倍総理

■「安倍総理」の野望が透けた「新元号」の舞台裏(1/2)


 光陰矢の如し。陛下の退位に伴う御代替わりまで早や五十余日である。それに先立つ4月1日には248番目となる元号が発表される運びで、すでに政府は“絞り込み”を始めている。何しろ安倍総理の新元号への思いはただならず、着々と実現をみつつあるというのだ。

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 その発表を間近に控え、巷は目下“未知の2文字”の話題に沸いている。AIを駆使した予測から、豪華賞品が当たる新元号予想キャンペーン、はたまた「改元でキャッシュカードが使えなくなる」と持ちかけて暗証番号を聞き出す“改元詐欺”まで登場し、さながらお祭り騒ぎの様相である。

 新元号の人気投票を実施すれば、そこには「平和」「希望」など、誰もが思いつくものに交じって「安久」「安寧」と、現総理の名字から1字を取って冠した予想も上位を占めるという。もっとも、かりに採用となれば現政権は長く“疑念”を抱かれ続けるだろうし、一方でその報道を担うメディアは現在、大いなる喧噪の只中にある。さる全国紙の幹部に聞くと、

「かつて昭和改元の際に起きた『光文事件』では、東京日日新聞が事前に新元号としてスクープした『光文』が、結果誤報となりました。今回も政府は“事前に漏れたら案を差し替える”と強い姿勢をみせていますが、それでも我々はいち早く情報を掴もうと、政治部と社会部の混成チームからなる『元号班』を立ち上げ、取材にあたっています」

 というから、規制したところで取材合戦は止みそうにない。

 1979年、元号法とともに定められた「元号選定手続について」では、元号案を検討する際に留意すべき事柄として6つの条件が求められている。それは「国民の理想としてふさわしい意味」「漢字2字」「書きやすい」「読みやすい」「過去の元号やおくり名(追号)で未使用」「俗用されていない」というものである。

「4月1日の発表に向け、現在、官邸では早くも絞り込み作業が始まっています」

 とは、政治部デスク。

「前もって考案を依頼していた複数の専門家から、すでに原案を受け取っています。それぞれ数個の案を提出してもらい、総数はざっと数十個にのぼる。ここから官房長官や、直接の担当者である官房副長官補を中心に数個にまで絞っていき、当日の4月1日は、国民の代表として委嘱した有識者の『懇談会』で提示し、意見を求めるのです」

 その懇談会には前回、各界から8人の有識者が選ばれ、うち女性は1人だった。政府は今回、女性メンバーを増やす方針で、直木賞作家の林真理子氏と宮崎緑・千葉商科大教授が選ばれる見通しだ。当日は懇談会に続いて、衆参両院の正副議長の意見も聴取したのち、全閣僚会議での協議をへて閣議で改元政令を決定。陛下の御名で政令を公布するという流れである。


■前回に倣えば…


 ところで、日本で最初の元号である「大化」から、現在の「平成」まで247。このうち、出典が確認できるのは77あり、その典拠はすべて中国の古典(漢籍)だという。皇室制度に詳しい所功・京都産業大学名誉教授が言う。

「漢字という表意文字を組み合わせて新時代にふさわしい元号案を考える出典は国書でもよいと思います。その場合は正史の『日本書紀』や、勅撰漢詩文集の『凌雲集』『文華秀麗集』『経国集』なども候補になりえます。考案者として日本の古典に精通した歴史家や国文学者が選ばれ、結果的にその案が採用される可能性も決して少なくないと思います」

 実際に今回、政府が考案を依頼した専門家の中には、漢文学者や東洋史などの歴史学者以外に、複数の国文学者が含まれていて、すでに原案も提出済みだという。さる官邸関係者によれば、

「国文学者への依頼は、安倍総理たっての希望でした。“元号の出典は漢籍とする”といった規定はもちろんありませんが、結果的に現在まで、国書に由来する元号は採用されてこなかった。それもあって、総理はかねて『新元号は日本で書かれた書物をもとにしたい』と口にしていたのです」

 もっとも、過去にこうした試みがなかったわけではない。昭和天皇ご不例のさなか、極秘で元号選定準備を進めていたのは、当時内閣内政審議室長だった的場順三氏である。

「私がその任に就いたのは85年でしたが、前任者からの引き継ぎで国書に通じた先生に考案を依頼していました。ところがその方が亡くなったため、新たに国文学が専門の市古貞次・東大名誉教授に依頼し、引き受けてもらったのです」

 が、その案は最終候補には残らなかったという。

「国書からよい意味を持つ漢字を抜き出すのは容易ではありませんでした。当時、国文学では『源氏物語』『徒然草』『枕草子』などが研究対象となることが多かったのですが、宮中の日常や恋愛、あるいは随想から有用な文字を選ぶのは非常に難しい。また企業名や商品名などで、国書出典の漢語の方が日本で俗用されている可能性が高いから大変です。俗用が後から判明すれば、皇室の尊厳にも傷がつきかねません」

 それでも前回とは、国書の位置づけは大いに異なる。すなわち総理の“肝煎り案件”だからである。

 的場氏が続けて、

「『平成』は、東洋史が専門の山本達郎・東大名誉教授の案でした。このほか最終案として、中国文学の目加田誠・九州大名誉教授が考案した『修文』と、中国哲学の宇野精一・東大名誉教授の『正化』が最終候補に残りましたが、89年1月7日に有識者懇談会を迎える前に、竹下総理や小渕官房長官との間では“平成でいこう”という暗黙の了解がありました。だから私は懇談会で『修文と正化はイニシャルがSとなり、昭和と重なるので平成がいいのでは』と、議論を誘導していった。元号とは政府が決める、つまり決定権は内閣にあるわけで、周囲の意見を聞く一方、時には総理がリーダーシップを発揮し、そこに導いて決断するのも一つの手法だと思いました」

 その誘導役を担った的場氏の実例に倣えば、今回も総理の意向が強く働くであろうことは自明の理――。


■歴史に名を残す?


 そもそも、安倍総理がかように国書にこだわる背景には、

「自身や、その支持層である保守派の間には『なぜよりによって日本の元号制定で中国の手を借りねばならないのか』といった思いが共通してあるのです」

 とは、先の政治部デスク。が、前出の79年に定められた「元号選定手続について」には、中国発祥である漢字を使用すると記されているのだから、やむを得ない話ではある。

「政府は当初、新元号の発表を昨年夏ごろに想定していたのですが、新天皇のもとでの改元を主張する党内外の保守派から『二重権威を生みかねない』『一世一元の制に反する』との猛反発に遭い、ずれ込んでいきました。最終的には総理自身が、国民生活への影響を減らしたいと保守派を説得し、4月1日で押し切ったのです。それでも、新元号の政令には今上天皇が署名されるため、保守派は完全に納得したわけではありません」(同)

 そうした支持層にも配慮すべく、政府は閣議決定前の新元号を、陛下だけでなく皇太子さまにもお伝えすることにしたというわけである。

「元号の選定は、総理自らの意向に加え、保守派も後押しする格好で進んでいます。もし国書由来の元号が誕生すれば、1400年近い中で初めてであり、文字通り総理は歴史に名を残すことになるでしょう」(前出・官邸関係者)

 そうした“野望”もまた、国文学者を推挙したことと無関係ではなかろう。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年3月14日号 掲載

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