「セクハラ冤罪」の実態を弁護士が解説 ターゲットにされやすい男性のタイプは?

「セクハラ冤罪」の実態を弁護士が解説 ターゲットにされやすい男性のタイプは?

こうした冤罪は医療現場以外のビジネスシーンでも起こりうる(※画像はイメージ)

 足立区の病院で43歳の男性医師が、手術後に30代女性患者の乳房を舐め回したなどの罪に問われ、100日間以上も身柄を拘束されていた事件。2019年2月、東京地裁は、女性の主張が麻酔などによる術後せん妄(幻覚症状)だった可能性があるとして、男性医師に“無罪判決”を下した。これは特殊な例ではあるが、こうした冤罪は、医療現場以外のビジネスシーンでも起こりうる。セクハラ冤罪の実態や対処法について、「あかね総合法津事務所」の飯塚恵美子弁護士に聞いた。

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 2017年に、アメリカ・ハリウッドの映画プロデューサーによるセクハラ疑惑に端を発する「#MeToo」運動が始まった。MeTooとは、性的な嫌がらせなどの体験をSNSで告発・共有する際に使用するハッシュタグのこと。この運動の広がりによって、セクハラ撲滅の動きが世界中で加速している。

 厚生労働省ではセクハラを「対価型」と「環境型」に分けて定義している。

「対価型とは、職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けることです。たとえば、『俺と付き合わないと、仕事を回さないぞ』などの脅しがそれにあたります。環境型とは、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じることです。職場に男性の従業員がヌードカレンダーを掲示しておくようなことも含まれます」(飯塚弁護士、以下同)

 対価型や環境型、あるいは明らかな性犯罪行為については、「これはセクハラだ」という一定のボーダーラインを引くことはできそうである。しかし、セクハラの基準は被害者の不快感に依拠せざるを得ず、物証が乏しいことも多いため、客観性に欠けるという問題もある。

「たとえば、『あの人、私の体をジロジロ見てくるの…』という訴えがあるとします。たまたま、その女性社員のデスク側の壁に時計が掛けてあって、男性社員はその時計を確認していただけだったとしても、女性が『いやらしい目つきだった』と主張するかもしれません。そうなると、判断が難しくなってきます」

 このように定義は曖昧だが、それでもセクハラ加害者の烙印を押された男性は社会的信用が失墜する。最悪のケースでは、「セクハラの被害者が加害者を民事事件として慰謝料を請求する裁判を起こしたり、強制わいせつや強姦など悪質な場合は刑事事件として警察などが捜査することもある」というのだ。

 また、セクハラを放置した企業も、男女雇用機会均等法という法律に基づき、厳しく罰せられる。同法に違反すると、「事業主の名前が公表されたり、20万円以下の罰金が科される」可能性があるという。

 もちろん、被害者の訴えの声を看過することはできない。セクハラ行為を働いた人物には、しかるべき処分が下されるべきである。しかしながら、「近年はこうしたセクハラでの“冤罪”事件が後を絶たない現実がある」というのだ。


■企業は女性に味方し、男性に自白強要


 男性の真剣な交際のアプローチすら、女性にセクハラと捉えられる可能性もあると、飯塚弁護士はいう。

「人間ですから人に恋愛感情を持つことはごく自然なことです。そんな中で男性が女性を食事に誘うこともあるかと思いますが、女性がそれを嫌がればセクハラ被害を受けたと訴えられることも。男女雇用機会均等法では、そうしたことまでがセクハラになるとは定義されていませんが、結果として社内でセクハラだと認められてしまうこともあります」

 一方で、交際のもつれから、セクハラ冤罪に発展してしまうケースもあるようだ。

「男性と別れることになって女性が逆恨みし、交際していたときのことを持ち出して、合理的な理由なしにセクハラ被害を訴えるというケースもあります。セクハラ冤罪の相談を受けていると、理解しがたいことを言い出すこともあります。なぜ、女性がそのような訴えを主張するのか、ということまでは正直私にはよく分かりませんが、セクハラはまったくのでっち上げというケースがあるのも事実です」

 恋愛関係の有無に限らず、セクハラ冤罪のターゲットになりやすい男性のタイプもあるという。

「よくあるのが、年配、地位が高い、著名な方などのケース。ある男性の案件では、かわいがっていた女性部下からセクハラ被害を訴えられて精神的に参ってしまい、周囲の人たちが心配して私のところに相談にきたことがありました。会社の上層部へ『密室で胸を触られた』などの被害の申し立てが出されて、それを受けた担当者が、証拠はないながらも女性の訴えを信じてしまい、男性がいくら『やっていない!』と主張しても聞き入れてもらえなかったそうです」

 このケースでは何故、会社は男性よりも女性の言い分を重視したのだろうか。

「会社としては、証拠はなくても、『セクハラ加害者の疑惑がある人さえ居なくなれば穏便に済む』という発想で処分を下しているのでしょう。結局、その事案ではセクハラが認定され、男性は『セクハラの罪を認めなければ降格させる』と脅されて、懲戒解雇まではいかないものの人事異動になってしまいました」

 セクハラ冤罪の被害者の中には、醜聞が公になることを恐れて示談金を支払う、あるいは「自分が会社を辞めることで穏便に解決できるのであれば、それで構わない」と認めてしまう人も多いようだ。


■女性と2人きりになるときは録音する


 今やサイコパスという心理学用語はだいぶ市民権を得てきた。その定義のひとつには、相手を操りたいという衝動に駆られ、周囲に相手が加害者で自分が被害者だと思わせるために、平気で嘘をつく傾向のある人間、というものもある。セクハラ冤罪事件の“加害者”には、こうしたサイコパス的な傾向があるといえるかもしれない。

「民事裁判では客観的な証拠を得るのが難しい場合、被害を訴えている女性がかなり詳しい話をして、『こんなに細かい話を作り上げるのは困難だ』と判断されると、事実として認定されてしまいます。ですから、まったくのデタラメを相手に主張されても不利になる場合があるので、何らかの証拠が必要になってきます」

 具体的にどのような証拠が有効なのだろうか。

「難しいかもしれませんが、女性と2人きりになるときは、相手の同意を得て録音するようにしましょう。最近は録音機材の持ち込みを禁止している会社もありますが、その場合は、会議室に監視カメラを設置してもらうこと。それが面倒であるならば、仕事で女性とは2人きりにならないことです」

 たとえば橋下徹元大阪市長は、そのあたりのリスクマネジメントに余念がなかったという。

「橋下徹さんは、政治家時代にセクハラ対策として、女性職員との打ち合わせの際、部屋で2人きりになるのを禁止し、必ず別の男性職員が同席するようにしていたそうです。緊急事態でどうしても2人きりにならざるを得ないときには、部屋の扉を明けておくという決まりもあったとか。公職に就く人は、それぐらいの厳しいルールで仕事をしなければなりませんからね」

 録音機材に監視カメラ、女性との2人だけの打ち合わせは禁止……そんなルールを完全に守っていたら、ギスギスした職場になりかねない。

「もちろん、職場というのはお互いに信頼しあい、辛いときもお互いに助け合えるような環境が望ましいと思います。ですが、やはり一定数、変わった人もいるのだということを理解して、色々な人と情報交換しながらアンテナを張っておき、人を見る目を養っていくということが必要だと思います」

 なかなか難しい世の中である。

取材・文/星野陽平(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年5月1日 掲載

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