「中高年ひきこもり」は61万人 「親の『死体』と生きる若者たち」の著者が語る現実

 80代の親が50代の子の面倒を見る、いわゆる「8050(はちまるごーまる)問題」の深刻さが、日に日に高まっている。内閣府が今年3月29日に初めて発表した数字にショックを受けた方も多かったのではないか。40〜64歳のひきこもりの数が推計61万3000人に達しているというのだ。15〜39歳の推計54万1000人を7万人以上も上回り、1980〜90年代に若者の社会現象といわれた“ひきこもり”が、30年後の現在、中高年へと移行した形だ。

 そんな折、内閣府の発表とタイミングを合わせるかのように刊行されたのが、『親の「死体」と生きる若者たち』(青林堂)である。

 この本には、「8050問題」によって引き起こされた痛ましい事件が、いくつも綴られている。

〈長崎市で2018年8月、母子2人暮らしのアパートで母親=当時(76)=の遺体が見つかり、息子(48)が死体遺棄容疑で長崎署に逮捕された。関係者によると、息子は無職で長年ひきこもり状態だったという。(中略)「異臭がする」 8月20日午前。県警に匿名のメールがあった。駆け付けた警察官が2階の部屋で女性の遺体を見つけた。遺体はごみの山に埋もれるように横たわっていた。(中略)息子は、「4、5日食事を取らないし、(母親は)やっぱり死んでいたのか。亡くなっていることに気付かなかった」と供述し、容疑を否認しているという。住民らによると、息子は父親の死後、定職に就かず母親の年金などで生活していたとみられる。アパートの周りに大量のごみを放置し、近隣住民とトラブルになっていた〉(前掲書より:改行を省略・以下同)

 著者の山田孝明氏(64)が解説する。

「この息子の姿は、支援が届かなかった“無援仏”に見えますね。親を弔うという文化さえ壊れてしまっています。結婚せず、就職に背を向け、長い期間ひきこもってきたわけですから、社会から排除されたと思っています。親が死んでも、なんで今さら社会に戻れる、というわけですね。2013年12月、大阪で自分の父親(68)が亡くなったのに、“ひきこもりだから”という理由で息子(34)が通報しなかった事件がありました。ひきこもりだからという言葉は、真摯に彼の内面をとらえているように思えます」

 昨年10月にも、同様の事件が起こった。

〈自宅に母親(76)の遺体を遺棄したとして、神奈川県警金沢署は2018年11月5日、死体遺棄の疑いで、横浜市金沢区の無職の長男(49)を逮捕した。長男は「10月中旬ごろに母親が倒れた。何もできなかった」などと筆談で説明、容疑を認めている。長男は5年ほど前から母親と2人で暮らしていた。11月4日に自宅を訪ねた妹(45)が、顔にタオルがかかった状態で亡くなっている母親を発見、119番通報した。(中略)妹の説明では長男は「小学生のころから会話をしなくなり、最近はひきこもっていた。母親が買い物などをして面倒をみていた」と話している。長男は調べに筆談で応じ「台所でガタンと音がし母親が倒れていたので、布団に寝かせた」「3日後には死んでいて腐敗臭がしたため、鼻や口にティッシュを詰めた。死亡したのはわかったが、何もできなかった」。なぜ通報しなかったのかと尋ねたところ、「人と話すのが怖い。妹が来ると思っていた」などと説明しているという。〉(前掲書より)

「小学生から会話をしなくなり、人と話すのが怖い、という説明が印象的ですね。彼が40年以上も会話をせず、母親が彼と妹さんを抱えて生活を支え、妹さんが独立したあと、彼は母親と生き続ける。終わることのない出口の見えない道を歩き続けたことが推測されます」

 山田氏が、ひきこもりの若者を支援するようになったのは1994年。京都市東山区で「ライフアート」を設立した。

「大検の予備校に勤務していたのですが、そこにはひきこもりの若者が多かった。教室に入っても不安で座れないとか、電車がしんどくなって10日しないうちに来なくなる。それなら、若者たちに安心できる居場所を与えようと思ってライフアートを始めたのです。どうしたら若者たちが社会的日常生活を送れるようになるか、マニュアルなんかありません。手探りでしたが、ひとつは褒めてやること。子は親に認めてほしいと思っています。学校の成績が良くて褒めるとかではなく、たとえば、髪の毛がきれいだとか、笑顔が素敵。最高の褒め言葉は、生きているだけで嬉しい、ですね。それで安心してコミュニケーションができるようになり、友達ができれば一歩前進です」

 ライフアートの設立後、ひきこもりの子を持つ家族の会「オレンジの会」を京都、大阪、神戸、名古屋と次々に立ち上げた山田氏は、これまで数百名ものひきこもりの当事者や家族を支援してきた。

「ライフアートやオレンジの会では、無償で支援していますので、中央市場などでアルバイトをして支援費用を稼いでいました」

 そして2017年4月、8050問題で苦しむ家族を支援する「市民の会 エスポワール」を主宰する。

「20年前から、8050問題が起こることはわかっていましたが、8050にまで行ってしまうと、僕のこれまでの経験から言って、もはや手遅れです。50歳くらいになるまでひきこもった人は、もう固まってしまって、会って話をしても難しい。80代の親は自分を苦しめる子に対して恨みを抱いているし、子のほうは自分がこうなったのは親の所為と思っています。だから親子は一緒に暮らしていても口も利かないで疎遠になっているのです。この苦境から逃れるには死しかない、と」

 こういう状況が続けば、悲劇的な結末は避けようがない。


■社会の少数派


「福祉行政は8050問題に関して、まだまだ深刻な問題として考えていない。ひきこもる若者に発達障害というレッテルを貼り付けて、社会の中で少数派にしてしまっているのです。引きこもりの子を持つ家族の方も、社会からの冷たい視線を感じています。自分の兄弟にひきこもりがいたら、それだけで結婚しないという方も多くいます。“民族浄化”ではありませんが、少数派を排除しようという社会構造になりかけています」

 解決策はあるのか?

「ひきこもる若者たちは、真面目で勤勉な面も持ち合わせています。彼らが生きていけるニュースクールのような施設を設けるために、潤沢な資金を注ぎ込むべきです。また、8050問題を抱えている家族が発見しやすくなるような、特例法の制定も必要となってきますね」

週刊新潮WEB取材班

2019年5月26日 掲載

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