Nスぺ「恐竜超世界」で話題! 日本人学者が解明、恐竜界を50年悩ませ続けた“恐ろしい腕”の謎

■ド派手でモフモフの恐竜?


 放送前から大きな話題となっていたNHKスペシャル「恐竜超世界」。7月7日に放送された「見えてきた! ホントの恐竜」には、驚きの恐竜たちが登場した。カラフルを通り越してド派手な恐竜、ふさふさの羽毛をまとい「モフモフ」したくなる恐竜――。
 これまでの「恐竜イメージ」を、完全に覆された人も多かったのではないだろうか。

 こうした驚愕の最新研究を提供しているのは、恐竜学者の小林快次・北海道大学教授(47)だ。番組で映し出されたように、1年の3分の1はアラスカのほかカナダやモンゴルの「極地」で過酷な発掘調査を行う。その豊富な知識もあり、恐竜好きの子供たちや大人の恐竜マニアから敬意を込めて「ダイナソー小林」と呼ばれる人物なのだ。

 誰も調査したことのないフィールドへ足を運び、未知の化石を掘り出す――。
 その熱意は、もちろん成果にもつながっている。小林が世界の恐竜学者に知られるようになった業績のひとつは、謎の恐竜デイノケイルスの発掘だった。

 デイノケイルスは1965年、モンゴルのゴビ砂漠で両腕だけが発掘された恐竜だ。だがその「両腕」の存在が大事件だった。2.4メートルもの大きさがあり、指の先端には恐ろしいカギ爪。推定される全長は11メートルにもなり、これは巨大な肉食恐竜ティラノサウルスに匹敵する。
 もちろん各国の恐竜学者が「腕以外」の化石探しに動いたが、まったく見つからない。“恐ろしい腕”を意味するデイノケイルスと命名されて以降も、長らくその正体が謎のままになっていた。
 その恐竜界50年の謎を、世紀の発掘によって解き明かしたのが小林だった。“恐ろしい腕”との偶然の出会いから発掘成功までを、『恐竜まみれ――発掘現場は今日も命がけ』で小林は詳細に綴っている。

■“恐ろしい腕”の衝撃


 2001年のフィンランド。博士号取得を目指して研究の日々を送っていた小林は、この国の科学館を訪れていた。目的の化石を探してコーナーを曲がったところで、とてつもなく大きな化石が目に飛び込んできたという。

「でかい……」

 その時の衝撃を、小林はこう回想している。

「デイノケイルスのことは知っているつもりだったが、本物を目の当たりにすると、その大きさに言葉を失った」

 そして小林は思わず、心に浮かぶ言葉を声に出していた。

「できるものなら、この不可解な恐竜の残りを発見したい。そして、自分の手で全貌を明らかにしたい」

■「ハイエナ」作戦、始動


 衝撃の出会いから7年後の2008年の夏、小林は一枚の写真を片手に、モンゴルのゴビ砂漠を歩いていた。文字通りの炎天下、崖の縁に立っては、右手に持った写真と目の前の風景を見比べる。

「似ているけど、違うな」

 その写真とは、かつてデイノケイルスが発掘された現場のモノクロ写真だった。
 小林と仲間の研究者たちは、かつてポーランド・モンゴル古生物学調査隊が掘った「掘りあと」を探していたのだ。それはもちろん、「掘り残し」がないかもう一度調査するためだった。

 まさに「ハイエナ作戦」である。そしてこれは小林の「誰も調査したことのないフィールドに足を運んで」というモットーとは真逆を行く行為でもあった。だがデイノケイルスを追う小林に、迷いはなかった。

 とはいえ、わずかに残された可能性に期待しながらの捜索だ。
 写真からの捜索は、困難を極める。砂漠の風景はどこもかしこも似ているからだ。
 探し始めて3日目、ようやくその瞬間がやってきた。

「キャンプ地に近いため、何度も通りかかった崖。あまりにも何度も通り過ぎていたからか、みんなの頭からは除外されていた場所だった。まさに灯台下暗しだ。
 モノクロ写真をかざすと、目の前の風景とぴったりと一致する。

『見つけたぞ!!』

 みんなが興奮して、その場に集まる。次のミッションは、掘り残された骨があるかどうかを確認することだった。
 そんな時、『骨だ!』という声があがった」

 そして小林らは見事、デイノケイルスの脊椎骨と肋骨の一部(腹肋骨(ふくろっこつ))を発見する。

 かつての発掘現場を特定したとたんに、残された化石も見つけるとはまさに奇跡というしかない。ダイナソー小林は、何かを「持っている」に違いない。
 しかし、思い描いたような全容解明にはまだ遠かった。

 だが、諦めなければチャンスは巡ってくる。「ハイエナ」作戦の翌年、小林は再びゴビ砂漠に戻り、別の場所から別のデイノケイルスを掘り当てたというから、驚くしかない。

「私たちはこれまでにない数の骨を発掘することができた。首の骨と腰の骨、前肢と後肢。誰かにもぎ取られたかのように、頭と手足はない。特に手は、腕から手の甲まで揃っているのだが、手の甲の真ん中から先が失われていた。盗掘した連中が持って行ったのだろう。爪がついている手は、高く売れる部分だ。悔しい気持ちはあるが、これだけ見つかったことを喜ぶことにした」


■そんなことあるのか!?


「首と手先なし」のデイノケイルス――となるところだったが、まだ話は終わらない。

 研究に打ち込んでいた2011年、小林は思いがけないメールを受け取る。ベルギーの研究者からだった。

「君ら、デイノケイルスを見つけたらしいね。実は偶然にも、私の手元にデイノケイルスの頭と手、足の化石らしいものがあるんだ」

「そんなことあるのか!?」とすぐさま現地へ向かった小林は、研究室に置かれた「頭」と「手先」が、すでに発掘した身体部分と合わせて「1体分」であることを確認する。「頭」と「手」はモンゴルから密輸され、世界中のミネラルショーで販売されていたらしい。買い手がつかないまま、ベルギー研究者の手に渡っていた。

「これで揃ったね」――それは希少な全身化石の完成の瞬間であり、50年にわたって謎だった「恐ろしい腕」の正体を解いた瞬間だった。

 成果は世界的学術誌「ネイチャー」に掲載され、明らかになったデイノケイルスの姿は世界の恐竜ファンを驚かせた。

 この夏も新たな恐竜化石を求めて、小林は発掘調査に出発した。

デイリー新潮編集部

2019年7月9日 掲載

関連記事(外部サイト)